第34話
今日は白鳥と出掛ける約束をした日だ。あたしは逸る気持ちを抑え切れず、一足先に集合場所に足を運んでいた。浮き足立つのも仕方ない。同級生から遊びに誘われたのは生まれて始めてなのだから。小中とあたしはまともな学生生活を送れなかった。みんなあたしがヤクザの娘だと分かると怖がって避けた。学年問わず会話する時は決まって敬語。教師もあたしの顔色を伺う。あたしだけ特別扱いする。クラスメイトを昼食に誘うと上司との外食みたいになる。あたしが間違ったことを言ってもみんな注意しない。逆らわない。全員がイエスマンと化す。休日に遊びに誘ったら必ずオッケーしてくれる。部活があろうがあたしを優先してくれる。だが一緒にいる時の顔は引きつっている。あたしはそんな関係に嫌気がさしていた。別にあたしは玉座に踏ん反り返って女王様気分を味わいたい訳じゃない。あたしはただ友達が欲しかったんだ。対等に語り合える友達が。でもだからと言って自分を偽りたくはなかった。自分を偽ったらそれは本当のあたしではない。作られた偽物のあたし、だ。あたしはありのままのあたしを好きになって欲しい。ヤクザの娘であるあたしを。それにヤクザの
「お〜い! 桐生さ〜ん!」
その声に反応して横を向くと、白鳥が笑顔で手を振ってこちらに走って来ていた。
白鳥はありのままの私を受け入れ、対等に接してくれた──生まれて初めて出来た友達だ。
白鳥はあたしの元に辿り着くと肩で息をする。
その姿を見ると何だが罪悪感を覚えた。
白鳥は息を整えてから顔を上げる。
「……待った?」
白鳥は女のあたしから見ても魅力的だった。
コーディネートは白のワンピースに膝付近まである黒のスカート。肩からショルダーバッグを掛けている為、元々大きかった胸が更に強調されている。あたしの男らしい格好とは雲泥の差だ。きっと恋愛経験の方も胸と同様に豊富なのだろう。事実白鳥はかなりモテる。非公式とは言えファンクラブまで設立されている程だ。
まあこんだけ可愛らしければ男子はほっとかないわよね。
「いや、今来たところよ」
何とも彼氏らしいことを言ってしまった。
まああたしに彼氏がいたことはないけど。
ヤクザのあたしに告白する様な命知らずな男はいない。
「じゃあ行きましょうか」
「そうね」
あたし達は二人並んで歩き出す。
いつもより多く視線を感じるのは白鳥の影響だろう。
誰だって道端に白鳥が居れば振り向く。二度見する。
「スタバ寄って良い? 喉乾いちゃって」
「良いわよ。あたしもちょうど喉乾いてたし」
白鳥に合わせたわけじゃなく、本当に喉が渇いていた。
あたし達は室内に入ると最前列に並ぶ。
休日だがあまり混んでいない。室内の席も空いている。
あたし達の順番はすぐに回っていた。
「私は抹茶ラテのトールで。桐生さんは?」
「あたしはキャラメルフラペチーノのトールで」
注文の品を受けると空いている席に向かう。
そして席に座ると白鳥は抹茶ラテにストローを差しながら口を開く。
「私前からずっとこうして桐生さんと遊びたかったんだ」
そう屈託のない笑顔を浮かべる白鳥を見ると自然と心が温まる。
「早く誘ってくれればよかったのに……」
あたしは本音を隠さずにそう言うと、恥ずかしさを誤魔化すようにストローを吸った。
キャラメルフラペチーノは何だかいつもより甘く感じる。店員が配分を間違えたのだろうか?
「だって桐生さんの周りには人がいっぱいいるからさ……あんまり邪魔したら悪いと思って……」
そう言って視線をそらす白鳥。
「別に気にしなくて良いのよ? あの子達休日は忙しくてね。あんまり遊べないのよ」
ストレートに友達じゃない、と言うのは憚れた。
そんなことを言えばあたしの心象が悪くなるから。
それに白鳥の様な純粋無垢な子に大人の黒い部分は見せたくはない。
「そうだったんですか。じゃあこれからも一緒に遊べますね」
そう屈託のない笑顔で言われるとこっちまで嬉しくなる。自然と口角が釣り上げる。笑顔は伝染する。
「じゃあそろそろ行こうか?」
「ええ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます