第31話
すると白鳥は俺の理想にしがみ付く表情が余程滑稽だったのか、ケラケラと笑う。
「……馬鹿でしょ? 全部あんたを嵌める為の演技だっつーの。ホントあの時のあんたきしょかったわー。鼻の下伸ばして露骨に私の胸ばっか見てくるし、いっときでも春を見られただけ感謝してよね?」
幻想が砕け散る。全てまやかしだった。
俺が思い描いていた白鳥翔子など最初から存在しなかった。
うまい話には裏がある、か。
思い出が色褪せていく。
「……美人局みたいな事して楽しいか?」
「良い勉強代になったでしょ?」
腹黒め。これじゃ
「何故桐生に近付く俺を嫌がる? ──まさかそっち系なのか?」
「はあ、何言ってんの? きしょ」
「じゃあなんで近付いたんだよ」
「復讐だよ、復讐」
「……復讐?」
「私のパパは桐生組の組長に嵌められたの」
それは聞いて衝撃が走る。
まさか俺と同じ境遇だったとは。
「……嵌められたとは?」
すると白鳥の雰囲気が変わった。
「私のパパは桐生組の組員だった。でも妻子に恵まれ悪事から足を洗おうとした。だけど組長はパパが組を抜ける事を許さなかった。抜ける事を条件に色々と無理難題を押し付け意地でも組に縛りつけようとした。でもパパは組長の予想とは裏腹にその無理難題を着々とこなしてみせた。だから組長は組を抜ける為の最後の試練を与えた」
嫌な予感がした。
ま、まさか……
「──警官殺し」
こいつの父親が俺の父を!
怒りがふつふつとこみ上げてくる。
だがその怒りを娘にぶつけるのはお門違いだ。
白鳥は父の死に何の関与もしていない。
──てか白鳥?
俺は速攻で矛盾点に気づく。
帝に聞いた実行の苗字は『黒宮』だった。ニュースでも黒宮と報道されていた為、間違いない。なら何故白鳥──ああそうか俺と同じ偽名か。
直ぐに思い当たる節にぶち当たる。
白鳥も俺と同じく偽名を使って潜入していた。
デ●ノートかよ。同じタイプのスタンドかよ。まさかこんな近場で同志に出会えるとは、世間は狭いな。 ──あれ、でも白鳥のやつはどうやって桐生の情報を知ったんだ? 俺には帝っている強力なアシスタントがいたからどうにかなったけど──あ、忘れてた。こいつの父親、桐生組に所属するヤクザだったわ。なら知ってても不思議じゃないか。
「そうか、それは災難だったな」
紛れ込んでいるネズミは俺だけじゃなかった。
「私は話したよ。次はあんたの身の上話をする番だと思うけど?」
当然拒否も出来る。
だがここでの拒絶は今後の関係性に大きく響く。軋轢を生む原因となる。
それは今後協力する上で『賢い』とは言えない。
だからこそ柔軟な──臨機応変な対応が求められた。
「俺の父親は組長のせいで死んだんだ」
下手な嘘は
調べれば直ぐにバレる嘘はつかない。
かと言って全ての情報は漏らさない。
馬鹿正直に全て包み隠さず話す必要性はない。
俺は白鳥が納得出来るだけの理由を述べた。
別に『協力する』と言っても、『見せ掛ける』だけだ。
白鳥は『手を組む』に値しない。
桐生から情報を引き出す為に最大限に利用する。
最大限利用した上で切り捨てる。
白鳥のやった事を思えばこれぐらいの仕打ちをしても心は痛まない。
「私と同じ境遇だったのね……どうりで……」
俺の思惑通りに白鳥は納得する。
人間とは自分の都合の良い状況を受け入れてしまうものだ。
「あの喋り方は何だったんだ?」
白鳥に仲間意識を植え付けたところで質問応答に入る。
『仲間からの質問には答えよう』と言う心理を逆手に取ったやり口だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます