第30話
……一体どうしたんだ? 俺のスマホに白鳥の心を揺るがす様な情報は何も入ってないと思うが……
「……ごめん、母親に送ってるラインがマザコン全開でキモくて……」
キモくねえわ、普通だわ。
「写真もネットの検索履歴も二次元ばっかだし、正に絵に描いた様なキモオタだね。ムカつくからワンクリック詐欺踏みまくっとくよ」
地味な嫌がらせやめろ。
「友人関係が乏しい人間のスマホは役に立たないや」
白鳥はそう言ってスマホを空に投げた。
おい、人様のスマホを放り投げるなよ。少しは丁重に扱え。
「出来ればやりたくなかったんだけどなぁ……腹を括るしかないか」
白鳥がそう小さく独り言を漏らすと、再び近付いてくる。
おい、一体何を──
白鳥が俺の制服に手を掛ける。
制服のボタンを外していく。
白鳥は俺の服を脱がして全裸にすると、スマホでパシャパシャと写真を撮る。
「無様〜」
そうケラケラと笑う白鳥はまさしく天使の皮を被った悪魔だった。
「ちっちゃ」
白鳥は俺の下半身を見てそう言った。
やかましいわ。
「あんたのせいで私の手が汚染されたんだよ。どうしてくれんの?」
お前が勝手に脱がせたんだろうが。俺のせいみたいに言うな。
「腹癒せにこの写真、ラインの人達全員にバラ撒くよ?」
無差別テロやめろ。
「冗談だよ」
白鳥はそう言ってスマホを上着のポケットにしまった。
嗜虐性の塊みたいな女だ。
それからしばらくして体の痺れがひく。
拘束が溶けるとまず服を着てスマホをポケットにしまった。
弱みを握られた。
だが問題はない。
この部屋にで出入り口は一箇所しかない。
白鳥を取り押さえてスマホを奪う事は可能だ。
「暴力に訴えようとしても無駄だよ。クラウドに保存したから」
抜かりない。俺の一手先を読んだ上で行動している。
まるで将棋だな。
「でも良いのか? ここは人目のつかないB棟だ──俺がやけを起こす、とは思わないのか?」
敢えて言葉は濁したが、真意は伝わっているだろう。
「やるなら、どうぞ。そんなことをしたら一発で刑務所行きだけどね」
覚悟が決まっている。
なら白鳥にこの手の脅しは通用しない。
人質の解放は大人しく諦めるしかない。
「──何でこんなことを?」
「あんたが桐生に近付いたから。一体何が目的?」
「それは言っただろ? 桐生に一目惚れしたって?」
「嘘をつくな。あんたは桐生なんかに惚れてない」
──見抜かれている? いや、『カマをかけている』と言う線もあるか?
「何を勘違いしてるか分からないが、俺は桐生に惚れてるぞ? じゃなきゃわざわざ話しかけない。これはお前が言った事だぞ?」
揚げ足を取るが、白鳥の表情は変わらない。
「だったら先の一件のやり取りは何だったの? 本当に桐生に惚れてるなら私の弁当を受け取ったりはしないと思うけど?」
やられた。試されていたのか。
こうなった以上もう言い訳は通用しない。
「最初からこれを確かめる為に俺に近付いたのか?」
「当たり前でしょ? 私みたいな完璧美少女があんたみたいな陰キャ根暗オタクに惚れる訳無いじゃん」
そう歯に着せぬ物言いで俺を罵倒する白鳥に嘗ての面影はない。
天使だった頃の白鳥は完全に影を潜め、薄汚い本性が剥き出しになっている。
注視して白鳥の目の奥底を覗くと目の奥底はドス暗く濁っていた。
年季の入ったシーツのシミの様に。
「そうだよな。お前みたいな美少女が俺みたいな陰キャを好きになる筈ないよな」
「当たり前でしょ? 私があんたを好きとでも思った?」
「そう──見えたからな」
過去の白鳥を思い浮かべてそう答えた。
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