第29話
俺は動作を再開して卵焼きに箸を伸ばす。
そして卵焼きを摘んで口に運んだ。
上手い、上手──ゔ!
突然の異変。突如体が痺れて動かなくなる。
俺は箸を落としそのまま床に倒れ込んだ。
体はピクリとも動かない。
ど、どう言う事だ!
俺は意味が分からず困惑する。
「どうやらちゃんと聞いたようだね」
感情に乏しい低い声。
俺は目を見開き、自分の耳を疑う。
聞き間違いだと思った。いや、聞き間違いだと思いたかった。
だが決して聞き間違いなどでは無い。
ここは閉鎖された空間──密室だ。
現実から目を背ける事は許されない。
声の発生源は消去法で一人しかいない。
「やっほー」
白鳥が俺の顔を覗き込んできた。
何で、どうして!
『声を発しよう』としても声が出ない。
だが幸か不幸か表情だけは動いたので、俺の意志は白鳥に伝わった。
「無駄だよ。あと数分は動けない。料理にトリカブトから抽出したエキスを混ぜたから」
『トリカブト』と聞いて開幕一番あの花壇の青色の花が脳裏に浮かんだ。
綺麗な花には毒がある、か。
その花言葉は『トリカブト』にも『白鳥』にも当て嵌まる言葉だった。
「拘束が解けたあと抵抗されても面倒だし、弱みは握っておくよ?」
白鳥は慣れた手付きで俺のズボンのポケットからスマホを抜き取る。
手癖の悪いの盗人の様である。
俺のマイエンジェルは
白鳥の豹変ぶりに度肝を抜かれる。
これが俗に言う双子トリックちゃんですか?
そう現実逃避したくなるのも仕方の無いことでだった。
「パスワードは──って言えないよね。じゃあ指紋認証を試そうかな」
白鳥は制服のポケットに手を突っ込むとそこから折りたたみ式のナイフを取り出し、刃を剥き出しにさせた。
なんでこいつ鋭利な刃物持ち歩いてんだ!
「親指切り落とすね」
白鳥はそう言うと俺に近付いてくる。
落とす必要はねえだろ! じゃあ何の為に体麻痺させたんだよ!
俺は必死に抵抗するが、体は動かない。声は出ない。
やめろ、やめろ!
必死に目で訴える。
だが白鳥は止まらない。
ナイフが俺の親指に当てられる。
──ここまでか!
俺は覚悟を決めて目を瞑ると──
「って冗談って決まってんじゃん! 何間に受けてんの! バッカじゃないの! 笑い堪えんの大変だったつーの!」
白鳥は俺の切羽詰まった表情が余程ツボに入ったのか、腹を抱えてケラケラと笑った。
──こっちは一ミリも笑えないんだが?
「じゃあ茶番はここまでにして本題に入ろうか」
白鳥は剥き出しの刃を仕舞ってナイフを制服のポケットに戻すと、俺の親指をスマホのホームボタンに当てた。
「良かった、ロック外れたよ。じゃあ早速中身を確認していこうか」
白鳥はそう言って元の定位置に戻っていく。
丁寧に実況してくれるのは俺の羞恥心を煽る為だろう。
「ラインで私のこと『天使』って名前で登録してる……」
素で引くのやめろ。
「このこと母親のラインに報告していい?」
おい、やめろ。
精神科に連行されてお薬を処方される光景が余裕で目に浮かんだ。
「てか友達少な……友達より公式の方が多いし」
余計なお世話だわ。
「まあでも陰キャボッチのあんたにしては──え?」
白鳥は驚きを露わにするとそのままの表情で俺を見た。
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