第27話

「気のせいだ」

 

 俺はそう言って再び顔を背けた。

 

 変な気を起こすな。俺は復讐者だ。恋愛にうつつを抜かす暇はない。俺と白鳥はあくまで友人関係、それ以上でもそれ以下でもないんだ。


「そう? なら私の勘違いだね」


 白鳥は特に俺の言葉を疑う事なく納得すると、地面に置いていたジョーロを持ち、花壇の端から水をあげていく。

 その姿はまるで民に恵みを与える天使の様だった。


「何でこんなところで花を?」

「本校舎の方の花壇は三年生が使っててさ。先生に聞いたらここなら使って良いって」


 白鳥は花に目を向け作業をしたまま答える。


「白鳥は何でそうまでして学校の花壇で花を育てようと思ったんだ?」

「桐生さんの下の名前って『花』でしょ? だから名前に因んだプレゼントをあげたくて……私の家ではこの花は育てられないから……この綺麗な花は桐生さんにピッタリだと思うんだ」


 そう言って微笑む白鳥。


「そう、だな……」


 白鳥に桐生を好きだと言っている手前、否定は出来ない。

 上辺だけでも桐生を好きだと取り繕う必要がある。

 でも本心は違う。

 確かに白鳥の言うように桐生は綺麗だ。

 だが中身は悪魔のように真っ黒な女である。

 桐生にこんな綺麗な花は似合わない。

 こんな綺麗な花が似合うのはそれこそ天使のような女性だけだろう。

 俺は白鳥を見てそう思った。




 午前中の授業を終え、昼休み。

 俺は授業で使った教科書と筆記用具一式を机に仕舞い『昼食を食べよう』とスクールカバンに手を伸ばしたところで、ポケットに入っているスマホがブルブルと震えた。


 ──なんだ?


 俺は咄嗟に手を止め、スマホを取り出す。

 するとホーム画面にラインの通知が来ていた。


『LINE・新規メッセージがあります』


 母か? なんか緊急の用事でもあったのか?


 俺は通知をタップし、パスワードを入力しロック画面を解除すると、ラインに飛ぶ。


『天使・B棟の二階の空き教室に来て』


 ラインは母ではなく白鳥だった。

 俺は周囲に悟られぬように横目で白鳥を見る。

 すると白鳥も横目でこちらを見ていた。

 内容が内容だけにラインで伝えたのだろう。

 クラスは騒がしいが、こちらに聞き耳を立てている生徒がいるかも知れない。

 何たって白鳥はモテる。学年問わずモテる。

 こんな内容を聞かれれば、クラスは忽ち大騒ぎになる。

 俺は一躍注目の的になる。

 男子からの嫉妬を一身に受ける。

 矢面に立たされるのは御免だ。

 白鳥の心遣いに感謝する。


『何故だ?』


 単刀直入に聞いてみる。

 するとすぐに既読がつき返信が返ってきた。


『それは来てのお楽しみ』

 

 思わせ振りな態度だ。

 まるで告白の様に感じるが、それはない。俺如きが白鳥に告白されるなど思い上がりもいいところだ。


『お楽しみ?』

『お楽しみ』


 話の全貌が全く見えない。


『その用件はラインじゃなきゃダメなのか?』


 B棟の二階の空き教室まで足を運ぶのは正直手間だ。

 簡単な用件ならラインで済ませたい。


『だめ。先に行くから、時間を空けてから来て』


 白鳥はカバンを持って席を立ち教室を後にした。

 なんか社内カップルみたいなやり口だ。

 だが使える。

 これで変な誤解が生まれる事もない。


『分かった。今行く』


 俺は白鳥が教室を出てから数分後に教室を後にした。

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