第24話

「そんな訳あるか。さっさと仕事をこなせ。 ──厨房の上司がさっきからこっちを睨んでるぞ?」

「マ、マジ! 畏まりました……ご注文は以上で宜しいでしょうか?」

「ああ」

 

 ああ、じゃねえよ。勝手に注文決めんなよ。何で注文の主導権お前が握ってんだよ。


 だがこの状況で口を挟む勇気もない。

 注文を取り終えた店員が下がっていく。


「あの、勝手に注文決めるのやめてもらっていいですか?」

「いや、あれは俺の注文だが?」


 だとしたら尚更タチ悪いわ。こいつ本当に警官かよ。


「冗談だよ、今回は俺の奢りだ。一度騙されたと思って食べてみてくれ。ミラノ風ドリアはサイゼリヤでは一番人気の商品なんだぞ」

「は、はあ……」

 

 流石に奢ってくれるなら文句は言えない。釈然としないが、仕方ない。


「……あの、さっきの人誰なんですか?」

「中学の時の後輩だ」

 

 ただの中学の後輩と普通あそこまで仲良いか?


「不躾な質問かも知れませんが、付き合ってたりは……」

「ない」

 

 照れてるとか、そんなものは一切ない。本当にただの友人なのだろう。


「じゃあその後輩さんが言ってた、以前子供を連れてきたって言うのは……」

「親戚の子供を連れて来たんだよ」

「案外優しいとこあるんですね」

「そんなことより進捗の方はどうだ?」

 

 そう聞かれて胸がドキッとした。


「ははは順調ですよ……」

「嘘の供述が『偽証罪』に問われる事は知ってるか?」

「いや、それが……」

「まあ、焦る事もない。まだ卒業までに二年以上もある」

「そう言ってくれると助かります」


 ホッと息を吐いたところで──


「新しい学校で友達は出来たかい?」


 再び心臓がドキッとした。

 ──今その話関係ある?


「あのそれと桐生の事に一体何の関係が……」

「上の人間と話すにはそのなりの地位が必要だろ?」


 回りくどい言い方だが、言いたい事はわかる。


「いませんけど?」

「一人もかい?」

「ええ」

「彼女は?」


 友達いねえのに居るわけねえだろ。おちょくってんのか。


「いませんけど?」

「だろうね」

 

 あの定員と言いこいつと言い失礼極まりないな。


「まあ彼女は兎も角、友人はいずれ出来るさ」

「そ、そうですよね!」

「時に質問なのだが京也くん、君、サイゼリア始めてだろ?」

「……どうして分かったんですか?」

「君、サイゼリア行ったこと無さそうな顔してるからさ」


 どんな顔だよ。ピンポイント過ぎて逆に見て見てえわ。


「はぁ……そうですか……」

「メニューを見てるだけでも面白いぞ。注文が来るまでこれで時間を潰すといい」


 そう言って帝はメニュー表を差し出してくる。

 俺は言われるがままにメニュー表を受け取ると開く。

 安いな……

 俺は余りにリーズナブルな値段設定に驚く。

 先程のミラン風ドリアは一つ三〇〇円もしない。


  一体何の原料で作ってんだこれ?


「ご注文のミラノ風ドリアになります」


 その言葉で我に返ると俺はメニュー表を閉じて元の場所に戻す。

 早いな。まだ注文してから数分しか経ってないぞ?


「大変お熱くなっておりますのでおきおつけ下さい」


 俺と帝の前にミラノ風ドリアが一つずつ置かれる。

 滅茶苦茶湯気が立っていた。

 香ばしい匂いが漂ってくる。

 俺はゴクリと唾を呑んだ。

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