第22話
結果的にはそれで良かったのかも知れない。
あんな生き生きと話す桐生が見れるのは白鳥が相手の時だけだ。
取り巻きと話す時はいつもつまらなそうにぶすくれている。
二人は案外良い友達になれるかも知れないな……
そう遠くない未来にそれが実現するかもしない、と思った。
「おーい! 八重島くーん!」
俺を見つけるなりそう屈託の無い笑顔で手を振ってくる白鳥はまさしく天使だ。
実際日の光をバックに佇んでいる白鳥は神々しく見える。
目をゴシゴシと擦ると翼は消える。どうやら寝惚けていただけらしい。
「おはよう白鳥」
「おはよう八重島くん!」
今すぐ写真に収めて待ち受けにしたいぐらいの眩しい笑顔だ。
ずっと見ていたい。白鳥の顔なら一日中だって見てられる。
だが長居は禁物。俺は桐生と違い、陰キャだ。公の場で白鳥と話せば悪目立ちする。余計な恨みは買いたくない。名残惜しいがここは立ち去ろう。
「じゃあまだ後でな」
「──待って」
制服の裾を掴まれた。弱い力だ。簡単に振り払える。
「分かったよ……」
だが俺には出来なかった。俺は白鳥を悲しませたくなかった。
「やったー!」
「朝なのにやけにテンション高いな」
「朝から八重島くんに会えたから嬉しいんだよ」
深い意味は無くともそう真っ直ぐ伝えられれば一瞬ドキッとしてしまう。
相手が白鳥なら尚更だ。
「他の人にはそう言う事は余り言うなよ。人によっては勘違いするからな」
白鳥の身を案じて忠告した。
人によって白鳥の発言を勘違いして暴走してしまうかも知れない。
「安心して。最初から八重島くん以外には言うつもりはないから」
何も分かっていなかった。
「だからそう言う発言が無垢な男子を勘違いさせるって言ってるんだが……」
「勘違いしてもいいんだけど……」
そう言って目をそらした白鳥の横顔は微かに赤みを帯びていた。
心臓がドクンっと大きく跳ねる。波打つ鼓動が早まる。
違う、これはそういう事じゃない……勘違いするな……きっと光の関係でたまたま頬が赤みを帯びている様に見えただけだ……うん、そうに違いない。
俺はそう自分に言い聞かせ邪念を振り払うと──
「──え、何だって?」
某ラノベの難聴主人公の様に聞こえなかったふりをしておく。
これは便利だ。凍てつく波動の様に全てのフラグを掻き消せる。
ラノベ主人公様様だな。
「うー」
膨れっ面だ。怒った顔も可愛い。
何だよこれ可愛いの擬人化かよ。国今すぐ天然記念物に登録しろよ。国家総出で守んなきゃダメだろこの可愛さ。
ほっぺを突いてプシューってやりたい。
だがそんな事をやれば警察に追放されかねない為、自重しておく。
「じゃあまた教室でな」
俺はそう強引に話を断ち切って足を進める。
すると嫉妬に駆られた男達が俺を睨んでいた。
だがそれも仕方ない。俺は天使を独り占めしている。それはつまり『他の男子が天使と挨拶を交わす機会を奪っている』と言う事。中世だったら磔にされて火炙りにされるレベルの大罪だ。
「や、八重島くん!」
そう俺の名前を呼ぶ声が聞こえるが、振り返る事はない。
どうせまた教室で会えるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます