第17話
こいつがグレたのにも納得がいく。
だってこんなキラキラネームつけられたら絶対弄られるもん。『卍解しろ』とか弄られるもん。そんな地獄俺だったら耐えられん。
黒崎の境遇を考えるとゾッとした。
そして黒崎を飛ばして自己紹介が再開される。
桐生の取り巻きを除くそれ以外の生徒は割りかしちゃんと幕内発案の自己紹介に付き合ってくれた。
案外みんな素直で優しい。
不遇な扱いを受ける教師に同情したのだろうか。
思いやりのあるクラスで良かった、と切に思う。
そしてとうとう彼女の番が回ってくる。
「私の名前は
イメージ通りの可愛らしい趣味だ。
だが白鳥は自己紹介が終わっても座る気配はない。
「先生、一つ質問良いですか?」
代わりに質問を飛ばす。
「──どうしたんだ白鳥?」
「桐生さんはマネキュアを塗っています! あれは校則違反です!」
そう高らかに宣言して桐生に指を差す白鳥。
すると幕内はバツの悪い顔をする。
「もう高校生なんだ……多少の校則違反は大目にみる」
忖度し過ぎだろ。こいつに人としての尊厳は無いのか?
今この瞬間を以て僅かに残った幕内への尊敬は完全に消え失せた。
皆の脳内に『桐生→幕内』と言う図式が自動的に出来上がる。
「そうですか……それなら仕方ありませんね。分かりました」
白鳥は直ぐに引き下がって腰を下ろす。
これ以上何か言ったところで無駄だと悟ったのだろう。
唯一の頼みの綱がアレだしな。
そして自己紹介が再開され、何人かの自己紹介が終わると、ついに俺の出番が回ってきた。
毎回トリを飾る俺の気持ちを考えて欲しい。陰キャに最後は荷が重い。今に限って言えば窓から差し込む太陽の光が邪魔だった。
おい、天気空気読めよ。今は曇っとけよ。俺の表情も曇ってんだからさ。
だが俺の声が天に届く事はない。
お、落ち着け。
『人間第一人印象が全て』と言う言葉がある。
ここで良い印象を抱かせられるかどうかで今後の学生生活が大きく変わってくる。
俺は高校デビューを果たすんだ。
その決意を胸に宿し、今日この日まで風呂場のボディーソープくん相手に幾度も練習してきた。
練習し過ぎてゲシュタルト崩壊を起こした程だ。
やれる、やれる、俺ならきっとやれる!
練習は嘘をつかない。『努力は必ず報われる』と某トップアイドルも言っていた。
俺はそう自分を鼓舞すると、緊張した面持ちで席を立つ。
すると一斉に視線が集まる。
息が詰まる様な圧迫感。
品定めする様な目で俺を見ている。
太陽のせいで俺はイルミネーション並みに光っていた。
落ち着け、落ち着け、落ち着け……
人に見られるのは苦手だ。俺は根っからの陰キャ体質だ。波打つ鼓動が早まる。額に汗が滲む。
こう言うイベントは何回やっても慣れない。
でも『慣れないから』と言って途中棄権は許されない。
俺は固唾を呑んで口を開く。
「俺の名前は八重島京也だ。趣味は──特にない」
緊張で台本が全て飛んだ。
シーン……
静寂。その直後パチパチと疎らな握手が起きる。
や、やっちまった……
俺はショックの余りただ呆然と立ち尽くす。
喪失感が俺の心を蝕んだ。
「そ、そうか。座って良いぞ」
その声でハッと我に返ると、幕内が哀れむ様な目で俺を見ていた。
まさかあの幕内に同情されるとはな……
羞恥心が遅れてやって来た。
顔が真っ赤に染まる。
何やってんだ俺は!
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