第15話
バカだ、バカがいる。
桐生にこんな事を言ってのける人間が居るとは。
教室に緊張が走る。
このままではまずいな。
このままでは本当に天使がライオンに食われかねない。
流石に隣人がピンチの最中、事勿れ主義は貫けない。
俺は意を決して『立ち上がろう』とするが──
「あたしがただの一介の生徒ね……」
状況とは裏腹に桐生は嬉しそうに笑った。
その不気味さも相まって取り巻き達は今にも死にそうだが。
「確かにそうかもね。あんたの言う様にあたしもここでは取るに足らない一介の生徒よ」
全身に衝撃が駆け巡る。
あの高飛車で傲慢な桐生が間違いを認めただと?
「でもあたしがただの一介の生徒ならあんたもただの一介の生徒よ。あんたが私を注意する権限はない。それは一介の生徒の領分を超えるわ」
「まさか揚げ足を取られるとは……これは一本取られたよ。私の負けだよ」
白鳥はそう大人しく引き下がって、自分の席に戻る。
すると白鳥が席に座ったタイミングでホームルーム開始のチャイムが鳴り、教室に担任が入ってきた。
「おい、お前ら席につけ!」
担任がパンっと手を叩くと生徒達が散り散りになって自分の席に戻っていく。
そして担任は教卓に立つとドンッと教卓に拳を叩きつけて前のめりになった。
「このクラスを担当する事になった幕内(まくうち)豊(ゆたか)だ。因みに字はこう書く」
そうチョークで名前を書いてバンッと黒板を掌で叩く。
余りの衝撃にチョークの粉が周囲に舞う。
どうやら体育会系な教師を引いてしまった様だ。
筋肉モリモリのパワー系の見た目をしている。
「まずは端から自己紹介をしてもらう。名前と趣味を言ってくれ。え〜と……まずは相川から」
幕内は生徒名簿を確認しながらそう言った。
「はい」
『相川』と呼ばれた女子はそう返事をしながら立ち上がると自己紹介に入る。
「私の名前は
相川が自己紹介を終えて座ると、その後ろの生徒が立ち、同じ様に自己紹介を終え、次に桐生の番が回ってくる。
だが桐生は自分の順番が回ってきても、席を立とうとしない。
未だ爪にマニキュアを塗っていた。
おいホームルーム中だぞ、いつまで塗ってんだ。
「おい桐生」
「──何?」
作業を邪魔された桐生は不機嫌そうに顔を上げる。
「じ、自己紹介してくれるか?」
お前がたじろいでどうすんだよ。その筋肉は見掛け倒しかよ。
「嫌よ」
桐生は断固拒否するとマニキュアを塗った爪にふーふーと息を吹き掛けて乾かす。
これに拒否権とかあんのかよ、初耳だわ。
「一応お前の担任なんだが……」
「チャンジで」
合コンかよ。そんな簡単にチェンジ出来たら苦労しねえわ。
「いや、それは俺の一存では出来ない……」
「は? 舐めてんの? 殺すわよ?」
仮にも女子高生が『殺す』とか言う言葉使うなよ。親の顔が見てみたいわ。
あ、親ヤクザだったよ。なら納得だわ。
「仮にも教師に向かって死ねと言うのは……」
「は? 何、あたしに注意? あんた何様な訳? そもそもあんたホントに教員? ボビィビルダーの会場と勘違いしてるんじゃないの? ──顔ワセリン塗ったみたいにテカってるけど?」
んな訳ねえだろ。あと顔のテカテカは触れてやるな。
「テカテカ……」
復唱して呆然と立ち尽くす。
見掛けによらずメンタルは生まれたての子鹿の様に繊細な男だった。
まあ、あの物理的に生徒を嬲り殺しに出来そうなナリだしな……今までロクに弄られて来なかったんだろう。
だから弄られる事に耐性が無い。
順風満帆な生活を送って来た幕内はここに来て初めて壁にブチ当たった。
『桐生花』と言う巨大過ぎる壁に。
災難だな。この壁SAS●KEの反り立つ壁並みにデカイからな。
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