第12話

 泣くな、泣くな、ここで泣いたら男が廃る。

 

 俺は涙を堪えて前に進む。

 歩いて三〇十分程してようやくチラチラと同じ制服を着た生徒が見え出す。


 助かった……


 ホッと一安心。

 後は生徒の後ろをついて行けば自ずと目的地に辿り着く。

 そして尾行してしばらくして学校の外観が見えてくる。


 ……ここルーラポイントに登録出来ねえかな……仮に登録出来たとしても俺ルーラ使えねえから意味ねえけど。


 そう心の中で愚痴を吐き出すと、反対車線から黒の高級車がやって来た。

 その光景を『俺には一生縁のない車だな……』と他人事の様に見ていると、その高級車は在ろう事か校門の前に駐車した。

 ここの生徒かよ。良い御身分だな。市民への当て付けかよ。学校ぐらい徒歩で来い。

 すると運転席から黒服の男が降りてきた。

 絵に描いた様な黒服だ。

 その黒服は後ろ手に運転席の扉を閉めるとすぐさま後部座席の扉を開ける。

 すると車内からにっくき桐生花が姿を現した。

 初回のインパクトが半端ない。ハリウッドスターばりの登場だ。

 あとサングラスとヒールと毛皮のコートを羽織っていれば、完全にハリウッドスターである。

 周囲から『おお……』と感嘆の声が漏れるのも仕方ない。

 嫉妬心が湧かない程、黒の高級車がよく似合っていた。

 俺は桐生を見て『綺麗な花には毒がある』と言う言葉が真っ先に浮かんだ。

 鼻筋の通った整った顔立ち。腰付近まで伸びた金髪。長い睫毛。他人を威嚇する様につり上がった瞳。シミ一つない張りのある肌。小さく形の整った桜色の唇。スラリと伸びた手足。所謂スレンダーボディー。着くずした制服。ピアス。ファッション雑誌の表紙を飾るギャルと比べても何ら遜色ない。写真で見た時とは比べ物にならない。佇まいも様になっており威厳すら感じる。世界中何処を探しても桐生花程ヤクザの娘が似合う女子高生は他にいないだろう。そう断言出来てしまう程に桐生花は完璧で非の打ち所がなかった。


「行ってらっしゃいませお嬢!」

 

 黒服の男が深々と頭を下げる。

 滅茶苦茶注目を浴びていた。

 誰も彼もがその場で立ち止まって桐生の行方を見守っている。

 桐生は自分がヤクザである事を隠そうともしない。自然体に振舞っている。周りの視線を気にするそぶりも見せない。これが桐生花だと言わんばかりの堂々とした立ち振る舞いだ。

 

 アレが桐生花……父の仇の孫娘!

 

 俺は彼女の姿が見えなくなるまでその場で立ち止まっていた。


 昇降口を潜ると、下駄箱で上履きに履き替え階段を上がる。

新入生の教室は二階だ。二階の各教室の廊下側の窓にはクラスの内訳が記載されたA4サイズの紙が貼ってある。

 俺は運良く最初の教室(四組)に名前を見つけた。

『桐生花』の名前も。

 内訳は完璧だ。

 俺は内心ガッツポーズする。

 やはり神は俺の味方をしている。これを『神の思し召し』と言わずして何と言う。

 俺はそんな思いをおくびにも出さず教室に入ると、黒板に貼られた席順の紙を確認してから自分の席に向かう。

 席は出席番号順になっている為、『や』行で始まる俺は一番後ろの窓側の席だった。

 中学の入学式と同じ席だ。


 なんで毎回俺のクラスに限って『や』の生徒俺しか居ねえんだよ。


 俺は自分の席に辿り着くと、カバンから教科書や筆記用具一式を取り出して机に仕舞うと机の横の取っ手にかけた。

 この席は良い。授業中は日の光が当たって暖かいし、クラス全体を見渡せる。

 俺は一人席に座ってまるで司令塔の様にクラス全体を見渡す。

 まだ初対面と言うだけあってグループは形成されていない。席の近い者同士で取り敢えず喋ってるって感じだ。初々しい。俺の隣は未だ空席であった。

 だがそんな中、人目を集めている人物がいる。

 廊下側の前から三番目の席。そう、桐生花の席である。


 まああれだけ目立っていたんだ。あの場に居合わせずとも言伝に先の一件が伝わる。


 桐生の周りには既に取り巻きが形成されていた。

 桐生は美人で気の強そうな人物に目星をつけて支配下に置いたのだ。

 恐らく中学ではトップを張っていた連中だろう。

 その連中を手中に収める事で間接的に強さを見せ付けた。

 ほんの数分でクラス内カーストの頂点に君臨した。

 桐生の手腕に素直に感心する。

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