第11話

「──なんで入試じゃなくてこのタイミング?」

「京ちゃんにとっては聖秀の入試よりも友達作りの方が大変だからね」

 

 やかましいわ。


「いや、普通に友達いるから。卒業アルバムに寄せ書きあっただろ? あれが俺に友達がいた何よりの証拠だ」

「あれ、お金払って書かせた奴じゃないの?」

 アマゾンのサクラレビューかよ。

「純粋な友達だ」

「家に一度も連れて来てないし、卒業旅行も行ってないけど……実在する友達だよね?」

 

 何で空想上の友達だと思われてんだよ。友ちゃんかよ。


「安心してくれ、実在する友達だ。単純にインドア派なんだよ」

「そう、なら良かった……」

 

 母はホッと胸を撫で下ろす。

 何とも複雑な心境だ。

 俺は空気を変えるために話題を変える。


「──朝からカツ丼は重くないか?」

「ママの愛はカツ丼何かよりもっと重いよ?」

 

 だからやかましいわ。


「──興味本位で聞くがどれぐらい重いんだ?」

「家系のラーメンぐらい」

 

 ギトギト過ぎて胃もたれするわ。そこまで行くともう毒親だろ。


「ありがとう母さん、愛は十分伝わったよ……」

「じゃあ沢山食べてね」

 

 俺は重過ぎる愛を噛み締める。そして朝食を終えると、『今日は晴れ舞台だから』と母が洗い物をやってくれた。今日ぐらいは好意に甘えるとしよう。

母と一緒に外に出ると母は三脚を立て一眼レフカメラを操作する。

 設定が終わるなりこちらに走って俺の隣に立って腕を組んだ。


「京ちゃん笑って!」


 その数秒後カシャッとシャッターが切られた。


「もう一回取ろう!」

「一枚取れば十分だろ?」

「もう一回!」

 

 ライブのアンコールみたいなイントネーションで言ってくる。

「分かったよ、仕方ないな……」

 

 母には甘くなってしまう。

 言っておくが俺はマザコンじゃないぞ。ただ母ちゃんが好きなだけさ。


「やった!」

 

 そう素直に喜ばれると悪い気はしない。

 結局俺はその後、数十枚写真を撮ってから家を出る事になった。


 朝から精神的にも肉体的にも疲労した。

 母の趣味に付き合わされる俺の身にもなって欲しい。

 

 どんだけ写真厳選すんだよ。ポ○モンかよ。


 俺はスマホ片手に歩道を歩く。

 学校までの道のりは大方把握済み。流石にぶっつけ本番では来ない。俺は石橋を叩いて渡るタイプだ。ロケハンで数回行っている。

 だが足取りは重い。流石に朝から油物はキツイ。

 この年齢から油物が苦手とか先が思いやられるな。

 朝からステーキをしょくせる強靭な胃袋を持つアメリカンな人達が羨ましい。

 あの人達なら朝からカツ丼ぐらいペロッといけちゃうんだろうな。

 俺は駅に辿り着くと、電車を乗り継ぎ、新しい通学路を進んでいく。

 

 遠過ぎだろ。てか本当にこの道であってんのかよ。グーグル先生大丈夫かよ。さっきから同じところをグルグルしてるんだけど? グーグルだけに同じところをグールグルってか? やかましいわ。てか、何で今日に限ってナビ狂ってんだよ。グーグル先生二日酔いかよ。


 これじゃ一生ボーイスカウトにはなれそうもない。


 登校段階で躓くなど先が思いやられるな……


 登校は人生と同じく前途多難だ。


 てか、こんだけ迷ってて時間間に合うのかよ。


 俺は今にも泣きそうだった。

 初日から遅刻なんて目も当てられない。絶対に悪目立ちする。

 母の撮影に付き合ったお陰で俺は本来予定していた電車の一個後の電車に乗っている。

 本来ならそれでも十分間に合うのだが、こんだけ迷っていてはそのアドバンテージは無に等しい。母の撮影に付き合った事がここに来て響く。あの時は母の撮影がここまで響くとは夢にも思わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る