第6話
その前提が崩れ去った時点で俺の作戦は破綻してしまう。
今後の事を考えるなら、か。
冷静に考えれば帝の言う事は厳しい様で的を得ている。
確かに今後の事を考えるなら出来る限り金は残しておいた方がいい。
父が亡くなって収入源が絶たれた以上、これからは減る一方だ。急な病気でさらに減る事も考えられる。金はいくらあっても足りない。
「復讐は何も生まない。今回の件は忘れて前に進むべきだ」
わかってはいる、わかってはいるが──理屈じゃない。
父が仇がジャバでのうのうと生きてるのに前に進めるか!
父親らしい事は何一つされて来なかったが、それでも俺にとってはたった一人の父親だった。
『忘れろ』と言われて、『はいそうですか』と納得出来る程、俺は物分りが良くはなかった。
もしこれが病死や災害による死だったのならまだ納得のしようもあっただろう。
だがこれは決して病死や災害による死ではない。
人が故意に起こした死だ。
腹の底からふつふつと怒りが込み上げて来る。
そしてその怒りは一つの覚悟を抱かせた。
復讐してやる。
法で裁けないなら私刑を執行する。
組長、必ずお前に俺と同じ苦しみを与えてやるからな。
だがただの一介の中学生の俺がヤクザの組長を葬るなど到底不可能だ。
近づく事も出来ずに殺されるだろう。
どうする、どうする、どうすれば──
「──復讐したいか?」
その言葉にハッと我に返り顔を上げる。
「ええ、勿論」
俺は帝の目を見据えてそうハッキリと言った。
すると帝はそれを見てふふっと笑う。
「そうか、なら手伝ってやろう」
その言葉に俺は目を真ん丸と見開き驚きを示す。
「え、でもさっきは復讐を何も生まないって……」
帝の発言は矛盾していた。
「悪いな、君の覚悟を試していた。その顔を見るに心配は杞憂だった様だが……」
『帝の御眼鏡に適った』という訳か。
『品定めされていた』と言うのは気分の良いものでは無いが、事が事だけに慎重にならざるを得なかったのだろう。帝の立場上、一つのミスが破滅に繋がるのだから。
「そうだったんですね。てっきり他の警官と同じだと思ってました」
そう白状すると帝は肩を竦めて見せた。
「俺を侮ってもらっては困るな。これでも俺は君の親父さんを尊敬していた。復讐したい気持ちは君と同じさ」
「同じですか……」
そう吐き出された言葉には決して一言では言い表せない複雑な想いが込められていた。
「──君は俺が何の為にここに足を運んだか分かるか?」
そう試す様に聞いてくる帝。
「……父に敬意を払ってでは?」
「それもあるが一番の理由は電話口だと盗聴される恐れがあるからだ」
映画とかでよく見る逆探知ってやつか。
考え過ぎだと思うが、用心するに越した事はない。
「つまり帝さんは最初から計画を持ちかける為に俺の家に足を運んだと?」
「理解が早くて助かる」
「……でも二人だけでどうやって復讐するんですか? ……まさかヤクザの事務所にカチコミしろって言うんじゃないですよね?」
「まさか、そんな事をしては君の親父さんに顔向け出来ないよ。君は君の出来るやり方で戦えば良い」
「──俺のやり方? どう言う意味ですか?」
そう言って先を促すと帝は一拍置いてから口を開く。
「──君は組長に孫娘が居る事は知っているか?」
「風の噂程度には……」
有名人の話題は良くも悪くも耳にするものだ。
「なら話は早い。心して聞いてくれ」
帝はそう言ってから本題に入った。
「何の因果か君は若頭の愛娘で組長の孫娘でもある『桐生花』と同じ中学三年だ」
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