No Future Mode
最初、それが何なのか『僕』には理解できなかった。
この目に映るのは炎。炎。炎。
炎が家を焼き。
炎が命を焼き。
炎が思い出を焼き尽くしていた。
鼻を突くのはこの胸にわだかまる不快感を際限なく呷りたてる異臭。
それは焼けた草花の臭い。
それは焼けた肉の臭い。
それは、人間だったモノが焼ける臭い。
どうして。どうして。どうして!
「なんだよ、これ」
魔王の城から遠く離れた辺境の地。
いつものように森で果物を採って帰ってくると、慣れ親しんだ故郷は地獄と化していた。
穏やかさに満ちた村には悲鳴が満ち。
生に溢れていた村には死がたむろしていて。
小さな鳥が羽ばたいていた空にはドラゴンが羽ばたいていた。
「魔王……」
風の噂で聞いたことのある、その名。
悪逆の王。悪魔の王。
少年はギリギリと歯をかみしめた。ドクドクと早鐘を打つ心臓は今にも破裂しそうだ。
「許さない」
こんなことが許されてたまるか。
こんな最期があってたまるものか。
こんな、こんな――大切なモノを失う悲しみをこの世界に、これ以上広げてなるものか。
そして少年は燃え盛る故郷に背を向けて駆けだした。
堅く握った手にはまだ聖剣はなく。
されど堅く誓った想いは胸に強く抱き。
少年は走る。
いつか『勇者』と呼ばれるに至る、その過酷な道を。
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