真っ赤な鳥居の下、サイコロ、ちぎる


真っ赤な鳥居の下で、私は息を殺して小さく縮こまる。耳に届く断末魔の様な声に意識が行かないように、自分の呼吸だけに耳をすませる。

時折、びしゃっと何かが降り注いでくるが、そんなものを気にしている余裕なんて一切ない。ただただこの不可解で理不尽な状況が終わるのを耐え忍ぶしかない。


クラスメイトの神野が持ってきた双六を、学校の裏山にある神社の中でプレイしていただけだ。最初のサイコロを田島が振ったその時から、周囲は帳を下ろしたかのように暗くなりこの場所は世界から隔離された。


次は和樹が骨折のマスを踏んだ時だった。クラス一の運動神経の持ち主である彼が急に痛み出したのだ。太ももが痛い痛いと。


辞めようとしたけど、神社から出られなくなっていた。出入口の階段は闇に飲み込まれた様に真っ黒に塗りつぶされ、一歩踏み出せばそのまま落ちてしまいそうだった。あと、次の手番である美乃里が、何故か勝手にサイコロを振ってしまうと叫んでいた。


辞めたくても辞められない。そんな状態で私の番も回ってくる。全身を舐め回されたような気持ち悪さに見舞われたり、胃の中身が空っぽになるまでの嘔吐をしたり、しんどいけど痛くは無いものを無理やり経験させられた。


そのままゲームは進み、田島は目を失った。和樹は手足をもがれて痛みと苦しみに苛まれている。美乃里は死んだ。


そして最後、神野がアガリのマスに止まった。私はやっと解放されると喜んだ。

だけど、それもつかの間。神社の何倍もある大きな影が現れた。人型のそれは、動けない和樹を掴み取り、頭と胴体の2つにちぎった。頭はどこかに投げ捨て、もう一方を握り潰した。見えない田島は何が起きたかわかっておらず、和樹の悲痛な叫び声に何が起きたのかと困惑していた。


次の獲物に目をつけようと影がコチラを向いた瞬間、私は近くの鳥居へと姿を隠した。人間の血で真っ赤になった鳥居はどうしようもなく嫌だったけど、それ以上に影に近づくのが嫌だった。


終われ終われ終われ終われ……


一心不乱に願い続ける。そんな祈りを一笑に付すかのように、影の手は私の全身を鷲づかんだ。頭と胴体よりも先に、胴体からぶちりぶちりと四肢がちぎられ捨てられる。


痛みを意識しないように別のことを考える。なぜこんなことに。神野があんな双六さえ持ってこなければ……そこで私は気がついた。クラスメイトに神野なんてやつ存在しな――――

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三題噺集 菊一掬 @ki9ikkiku

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