第36話 サファギン族の秘密
脳豆の事はチーヌさんにバレていた。
隠せそうになかったので、パーティーメンバーには脳豆の事を話した。
話が終わった後、僕が持っている脳豆一個を巡り、誰がそれを食すなどと議論が上がったが、冷静なチーヌさんが話を纏めてくれた。
1.僕にしか見えないアイテムで管理は僕が行う事。
2.食す人も僕が決めて良いという事。
3.そして、このアイテムの存在はこのパーティだけの秘密にする事。
4.この秘密を少しでも洩らし破った者には永久に脳豆は渡さない事。
この4つの事項を守ると皆誓った。
◇
次の朝、高級宿の前で僕らは屯していた。
そして、僕が今持っている脳豆一個を食す人を選ぶ事になった。
いろいろと考えた。
先ず、僕は体をもっと鍛えてからでないと少し怖いから後で良い。
イルもとりあえずこの間の1個で十分強くなったし、副作用がないか確認したいからなし。
ヴィルトスさんと、アイネさんは後衛の立場だから後で良いと言った。
シャルヴルさんはいろいろと謎だから今はいいかな?と思った。
ビクタルさんか、ガランさんか、チーヌさん。
この3人の誰に脳豆を渡すか…。
そして一つの結論を思いついた。
RPGゲームでもパーティとして重要になるのは、アタッカーよりもタンクかヒーラーだ。この2職が有能だと中々崩れない強固なパーティだと言う事はゲームで学んだ。
そうなると、このパーティで盾役と言うと、ビクタルさんかガランさんだ。
ビクタルさんは魔法も使えるし、どちらかと言うと生粋なタンクと言えばガランさんだ。
僕はガランさんに決めた。
「では、この脳豆はガランさんに食べてもらいましょう」
「俺様!?やったぜ!流石はイロハ!わがってるじゃねーかよぉ。ガハハハ」
「理由は、やはりこの間みたいな強力な敵相手になると前衛が一番大変になってくると思うので、今回はタンク役のガランさんに決めました」
「そうなんだよなぁ!一番大変なのは敵の真ん前にいる俺様なんだよなぁ、よく分かってらっしゃるなあ、イロハは」
「あんたがバカだから最初に突っ込んで死なないように選んだとも言えるんじゃないの?イロハ君は先ず盾役の頭を良くしたいのよ」
「んだと!チーヌ」
「まあまあ…なんでお前達はすぐにそうなるんじゃ…。そうなると次は儂じゃな。ホホホホ」
ビクタルはガラン、チーヌ二人を制した後に、髭を撫でながらそう言って微笑んだ。
「そうですねビクタルさん。ただその時の状況なども考慮して考えたいと思います」
「ふむ」
そして、僕はガランさんに近づき、脳豆を渡した。
ガランは、掌に置かれた脳豆を、そっと太い指で挟みこんだ。
「おお…本当に何かあるんだな。落とさないようにそっと…」
ガランは大きく口を開けて口の中へ放り込んだ。
コリ、コリ、コリ…ゴクリ。
皆、じっとその様子を見ていた。
3分ほど経ってもガランになんの変化も見られない。
「むう…俺様はこれで強くなったのだろうか?」
ガランは自分の身体を確認しながらそう言う。
「まあ…イルも半日経たないと効果無かったので、時間と共に変化するんじゃないですかね?」
「なるほど…」
僕の時は食べてすぐ効果あったけど、この世界の人が食べると効果が表れるのは時間かかるのかも知れない…。
「じゃあ、次を急ぎましょ。迷宮解放と脳豆を探す旅へ」
チーヌがそう言って立ち上がり。
皆頷いて、用意されていたヤム車へ乗り込んだ。
イルはいつも僕についてくるので、大体ヤム車に乗る時や、食事の時は隣に居る。
ヤム車は2台あるが、今回も俺と一緒のヤム車に乗った。
違ったのは今回はガランさん、チーヌさん、アイネさんとヴィルトスさんが4人が1号車で、2号車に僕とイル、ビクタルさんとシャルヴルさんが乗った。
そしてヤム車は人間の国「アイレンス・ボレス」へ走り出したのだった。
◇
~2号車内~
「イロハ殿。たっぷり時間もあって良い機会じゃし、少し話を聞きたいのじゃが宜しいかな?」
ヤム車に乗ってすぐにビクタルは僕にそう言った。
「はい、ビクタルさん何でしょうか?」
「イロハ殿はエルフの里、英雄の世界樹で拾われて育てられたと聞きましたが?」
ビクタルさんにそう聞かれた。
イルと二人でこの手の話は、言い訳を纏めていた。
僕はエルフ国、英雄の世界樹付近に放置されていて、イルの婆さんメイさんに育てられた人間と言う設定にしてある。
僕がこの世界に疎いのは、最近になって鑑定のスキルに目覚めて、旅を始めた世間知らずと言う設定もある。
「はい、そうです。両親は誰か分かりませんが、世界樹付近に放置されていたと聞いてます。イルのお婆さんメイさんに育てられました」
「ふむ。エルフの国は、中心地に行くほど滅多に他の亜人を入国させない。その両親達は何者だったのじゃろうのう…?」
「ど…どうなんでしょうね?…」
「しかし、その特別な鑑定能力と遺跡開放の力。かの英雄オルキルトも、エルフ国出身の人間じゃったそうだし、なんとも共通点はあるのかの…、まさかお主は英雄オルキルトの生まれ変わりと言うのではあるまいな?ホホホ」
「ははは…それはないかと…はは」
ビクタルは髭を擦りながらそう言い、僕は苦笑いで返した。
「あの、ビクタルさん僕からも良いですか?」
「うむ」
「シャルヴルさんって…僕の鑑定ではサファギン族って見えるのですが…」
そう言った瞬間、ビクタルさんの隣に座っているシャルヴルが珍しくガシャっと音を立てて僕に顔を向けた。
「ふむ。やはり、イロハ殿には隠し事は出来ないようじゃな。まあ、その内このパーティメンバーには話さないといかんと思うておったから先に話すとしようかの」
そう言ってビクタルは、シャルヴルさんに一度目を向けた。
「シャルとの出会いはな、約20年ほど前じゃったかの?儂はドワルフスミス国を離れ一人で旅をしておった頃。海の近くで傷つき倒れていたシャルヴルを助けたと言うのが出会いじゃな」
ビクタルさんが語ったその後の内容を纏めると。
シャルヴルさんが5歳の時に、海岸に打ちあがっていた所を偶然見つけて介抱した所から始まり、そこから帰る場所も分からないシャルヴルさんをずっと育てながら冒険していたらしい。
シャルヴルさんは、魚類が進化した亜人「サファギン族」だという事がわかった。
サファギン族はこの大陸から離れた島国に生息しているが、その場所はシャルヴルさん自身も何処にあるのか分からないのだと言った。
サファギン族は海神通力と言う不思議な術が行使出来る。
エルフ族の精霊術や、ドワーフ族の土王の鉱術って術が使えるように、この世界には特定の種族にそう言った特殊能力が備わっているのかも知れない。
ビクタルさんも詳しくは知らないが、それは水を操る事が出来ると言う。
あのアラクニッド・デーモンでの戦いで、床にばら撒かれた糸を大量の水で押し流していた技はその能力だろう。
鎧を纏って、顔や素肌を隠しているのは、本人が、ただ人と違う自分を隠すためだとビクタルさんはシャルヴルさんに代わって代弁した。
「そうだったんですね。シャルヴルさんはやはり家族の所に帰りたいとかあるのでしょうか?」
「い…い…いいえ…」
そう僕がビクタルさんに聞くと、いきなりシャルヴルさんが声を出した。
聞き取りづらかったけど、「いいえ」と言った。
「シャルヴルさん…喋れるんですね!」
イルがそう驚いて言った。
「ああ、シャルは、聞くくらいならすでに全ての人語は理解しておるよ、多少なら喋る事も出来るのじゃが、声帯を水で造ってそれを震わせて喋っておるみたいじゃの」
なるほど…。
元は魚類だから声帯自体がないのか…。
「…シャル…ヴルは…、ビク…タル…に…ずっと…ついて行く…帰らない…」
そうシャルヴルは答えた。
鑑定ではシャルヴルさんの性別は女性だった。ちゃんとその声は女性の声のようで、片言だがちゃんと声として聞こえたのだった。
「シャル…ヴル…は、…一生…ビクタルと…共に…」
「わかっとる、安心せい、ずっと一緒じゃよ。シャルよ。って事でのう、もう儂の娘のようなもんじゃわい。それにシャルは強いからのう…儂の方が助けられてここまで来た感もいなめんわ」
「…違う…ビクタルも…強い」
「ホホホ」
ビクタルはそう言われて笑いながらシャルヴルの腕をポンポンと軽く叩いた。
「儂はな、ドワーフの中では落ちこぼれでのう…。ドワルフスミス国の兵士だったのじゃが、門番どまりだったんじゃ…。いつの日か、自分が情けなくて、兵士を辞めて一人旅に出る事にしたんじゃ…」
「え?Aランクで、ビクタルさん強いですよね?」
「そう言うが、上には上がいるもんじゃ。ドワルフスミスでは魔狩人以外に国独自の階級があっての。下の階級だと生活するのがやっとじゃ、工場で魔道具の部品を一日作っても二束三文の金にしかならん。門の兵士だってそうじゃ、それに少し毛が生えた金にしかならん。魔狩人なら依頼さえ熟せば金にはなる。なんじゃかんじゃ言うても、世の中金よぉ」
「はぁ…なるほど…」
ビクタルさんはそう言って眉を下げた。
確かに、地球でも結局の所、お金がなければ生活出来ない。日本はまだ法に守られた国だからまだ良いけど…他の国では子供でも働いている。現代、働いても給料の上がらない時代で、少子化で、これから先なんて誰にも分からないのが実情だしな。
そう考えるとこの世界も奴隷制度もあるし、いろんな事情がありそうだなあと思った。
「Aランクになるのもな。ちょいとズルしたからの」
「ズルですか?…」
「うむ。Aランク試験の魔物との戦いで、儂とシャルは守りに徹して、他のパーティメンバーが頑張って弱った所を儂らが打ち取っただけじゃ」
「でも勝てたなら良かったじゃないですか?」
「それがの…儂らがちゃんと守りではなく戦っていれば生き残りも居たじゃろうけどな…」
「それって…他の人は死んでしまったって事ですか?…」
「うむ。儂らを除いた6人全員な…褒めた物じゃなかろう?…しかもトドメを刺したのはシャルじゃ、儂ではない…じゃから儂は強くはないのじゃよ」
暫く4人の間に沈黙があった。
「儂は元々戦士じゃから守りは堅い。シャルは儂だけに回復魔法をしながら魔力を温存し、最後にトドメに大きな魔法を撃ちこんだ。そう言えば作戦成功に聞こえるじゃろう?協会には上手い具合に報告し、儂らはAランクの称号を貰ったのじゃ、中身はBランクと言ってもおかしくはないのじゃよ」
そのパーティとちゃんと連携していれば、他の人も助かったかも知れないって事か。
どんな魔物だったのか分からないけど、それはそれで生き残る作戦だったわけで、生き残っているのが結果だし、それも一つの作戦で良かったと思うしかない。
「でもそうしなければ、全滅もありえたんですよね?」
「まあ…かもしれんな」
「なら作戦成功って言っても良いのではないでしょうか?」
「イロハ殿にそう言って貰えると少し気が晴れるわい。ホホホホホ」
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後書き
仕事、神経痛でゆっくりと書いております。
リモデリング・ブレイン、これから面白く書いて行こうとゆっくりながらも日々頭の中で考えながら仕事してますw
ファンの皆様、なが~い目で読んであげてください。
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