第35話 秘密

 アラクニッド・デーモンに勝利した俺達はマジックアイテムの分配を終えた後。

 七羽はもう一度宝箱の中を覗いた。


 お、あった。


 それはこの世界の人には見えない脳豆だ。

 ドングリくらいの大きさの脳豆に、七羽は手を伸ばし拾い上げてポケットに仕舞った。


 その先にある扉をガランが開き中へ入って行く。

 僕もそれに続いて入るとそこは、そこそこ大きな広間になっていて、二つ縦の台円形のゲートが光っていた。


 一つは入り口への帰還。

 もう一つは次の階層へのゲートだ。分かりやすい様に床には、入り口、第二階層とそれぞれ書いてある。


「先も見たい所ですが…イロハ殿。貴方には他の遺跡の解放と言う任務があります。なのでここで一度帰還し、この町にいる魔狩人達に探索はお任せください」

「ああ…。はい、わかりました」


 ミロクの言葉に七羽は頷いた。


「ちぇ…。絶対先に進むほどお宝が良くなるんだろうなぁ。俺も先に行ってみてぇぜ」


 ガランはそう不満を口にする。


「まあ…ガラン殿の気持ちも分かりますが。西大陸の状況も気がかりなので、早くマジックアイテムを所持した魔狩人達を多く、西へ向かわせたいのです」

「…わがってるよ!」


 そう言ってガランは入り口へのゲートの方に歩き出した。

 皆それについて行く。


 ゲートに吸い込まれるように入るとそこは迷宮遺跡の外だった。

 突然現れた僕達に魔狩人協会職員達が驚くが、ミロクの姿を見て武器を降ろした。


「ほう…ここは遺跡の入り口ですか?いつの古代の技術か分かりませんが、凄い物ですねぇ。まあ、それは良いとして、早速ですが私の部屋へ皆さん来て貰えますか?」


 ミロクはそう言ってニッコリと笑った。


 多分…この遺跡もこの世界をオルキルトさんが構築した時に出来た物だろう…まあ、そんな事、イル以外には言えないけど。


 ◇


 僕達は、それから魔狩人協会にあるミロクさんの部屋に連れていかれた。


「さて諸君、お疲れ様です。今回の遺跡開放と探索は本当に新鮮で楽しかったです。礼を言って置きましょう、有難う御座いました」


 皆、ミロクへ軽く頷く。


「これからこのアビライ迷宮探索は、グランリア迷宮同様、我々協会と魔狩人達に任せて貰いたい。そして、これからイロハ殿達には、人間の国「アイレンス・ボレス」王都へ向かって貰いたいのです」


「そこにも迷宮遺跡があるのですか?」


 ミロクの言葉の後に七羽が口を出す。


「王都の中に1つとその辺境に1つですね」

「2つもあるんですね」

「はい、それで、アイレンス・ボレス王都の魔狩人マカド協会にアゼレスと言う支配人が居るからその方を訪ねて下さい、もう通達してますから」

「はい」

「あ、それから…ビクタル殿とシャルヴル殿はAランク魔狩人で変わらないのですが。残りの方達をBランクへ格上げしておきますので、暫くお待ちください」


 ミロクはそう言って職員に何かを合図していた。


「ん?俺とチーヌは元々Bランクなんだが、そこは格上げじゃねえのかよ?」


 ガランはそう口を出した。


「ああ…そこはぁ、一応据え置きって事で…ははは」

「ま、言うところ…遺跡開放に必要不可欠なイロハ君をとりあえずそこまで格上げするって事でしょ?別に良いんじゃない?」

「ははは…チーヌ殿の言う通りなのです。一応、これから基本Bランクはないと遺跡探索は行かせられないと言う義務付けになる予定でして…」


 ミロクは苦笑いしながらそう言った。


「ちっ」


 ガランは舌打ちをついた。


「後もう一つ。イロハ殿は、エルグラン・ルシール国の、英雄オルキルト様の発祥の地から来られたのですよね?」

「はい、そうです」

「それなら、英雄オルキルト様が住まわれた屋敷がアイレンス・ボレスにあるので行ってみてはどうでしょうか?国の管轄で屋敷の中は入れないようになっていますが、遺跡開放の条件に中を見させて欲しいと付け加えれば、見学出来るかもしれませんよ?」

「え?そうなんですか!?」


 これは見てみたいかも。エルフの国のオルキルトさんが残した文献はあれだけでは少なすぎる。いろいろ旅をしていたはずだから、その土地土地で何かを残しているかもしれない。見る価値はありそうだ。


「行ってみます!」

「はい。英雄のルーツを探してみてください。では、こちらからは以上ですが、他に何か聞きたい事はありますか?」


 皆、首を横に振った。


「では、今日まではあの高級宿でゆっくりしてください。明日朝一でヤム車を用意させます。ここから王都までは、道中何事もなくても10日は掛かりますので、少しでも休息してください」


 皆頷き。部屋を出た。


 ◇


 その夜、今回は個室の食堂で夕飯をご馳走になっていた。

 珍しく、チーヌは七羽の隣へ座った。


 食事をある程度済ませた頃に、チーヌは七羽に耳打ちをする。


「あのさ、イロハ君。貴方…ボスの箱の中から最後何か取ったわよね?」

「え!?…」


 脳豆を取る所見られてた!?

 いやでも、チーヌさんには脳豆は見えてないはず。


「え…何の事ですか?」

「ふーん。イロハ君、ミノタの時も箱の中から何か最後取ってたわよね?」


 これは…逃れられそうもないなぁ。流石チーヌさんだ。観察力が凄いなぁ…


「ま、言いたくないならそれでも良いけど。生死を共にしている仲間同士なんだから、秘密にするのはどうかと思うけどねぇ。私の推測だけど、急に強くなったイルメイダちゃんだって怪しいわよねぇ?」

「う…」


 ううう…これは、言わないとダメかな…。

 完全にバレてるしな…。


「分かりました…後から僕達、男部屋に全員集めて下さい…その時にでも」

「そうこなくっちゃね!んふふ」


 仕方がない。大まかな所だけ言って、僕がこのアラウザルゲートの使用者って言うのだけは伏せよう…。


 ◇


 その後、チーヌさんが女性陣を全員連れて男部屋へやって来た。

 そこで、ちょっとした秘密を打ち明けますと僕から語った。


「ああん?」

「見えないアイテムじゃと?」

「そんな物が…」

「ふむ。興味深い」

「イロハさんにしか見えない物…」

「‥‥‥」


 皆、軽く驚いた感じでそう言った。


「ボスの宝箱や各地にこの脳豆と言われる物は存在していて、何故か、僕には見えます」


 僕はそのドングリくらいの大きさの脳豆を親指と人差し指で挟み、皆に見せている。


「本当に何も見えないが…そこに何かあるんだよな?」

「はい、ガランさん。それでこれを食べると強くなります、僕だけにしか見えないので僕だけの効果なのかと思いましたが…イルが自ら実験体になって、この間これを食べてみた所…」


 皆、イルメイダを見る。


「…効果はありました」


 イルメイダがそう呟くと。


「「「おおおおお」」」


 皆、驚く。


「ただ、どんな副作用があるのか?まだ分からないので、皆さんには黙っていました…、済みません」

「で?その見えないアイテムじゃが、それを食するとどれだけ変わるんじゃ?イロハ殿なら鑑定でわかるんじゃろ?」


 ビクタルは前のめりでそう聞いた。


「はい。効果的にはざっくりですが、一年間、毎日鍛錬した効果を半日で取得出来るくらいかも知れませんが、種族や個人差などもあるのでその辺はよく分かりません」

「はぁ?」

「なんと…」

「半日で…」

「嘘…」


 皆、絶句状態だ。

 そりゃそうだ。この脳豆1個食べるだけでそれだけの効果を身に付ける事が出来るのだから。


「まあ、これで納得いったわ。イロハ君が人間なのに私達獣人とも互角…いえ。それ以上の動きを見せた事や。戦いでイルメイダちゃんが宙をヒラヒラと駆けまわったりするのもね、あんな魔法の使い方したら普通、すぐに魔力が枯渇してしまうわ」


 チーヌはそう言って呆れ顔をする。


「これは脳を発達させる物で。僕は脳豆って言ってます」

「ふむ」

「はい」

「ほう」

「これはちゃんとそれに耐えられる身体を作っておかないと下手したら死に至ります」


 死ぬかどうかは分からないけど、僕だって昏睡状態になった事があるんだから、それくらい言ってた方が良いと思ってそう言った。


「ほう、でも強くなるってのは良いじゃねえか!俺は10個食べても耐えられると思うぜ!ガハハハハ」

「はいはい。脳筋!うるさい。外に聞こえるでしょ。静かにイロハ君の話をちゃんと聞きましょガラン」

「うっせ!」


 チーヌが大声で笑うガランを制した。


「それで、今僕が持っているのはこの1個しかありません。僕もこれを食すかどうかを慎重に考えているからです。下手したらまた昏睡して死の淵を彷徨うかもと考えるとそうなります」

「って事は、イロハ君は一度そうなったって事かしら?」

「はいチーヌさん、そうです。僕の時は5日間、昏睡して目が覚めませんでした」

「5日…」

「マジか…」

「むう…」


 皆、それを聞いて険しい顔をした。

 あの時は3個いっぺんに食したからだけど。少し脅しのようだけど、このくらい言って置いた方が良いだろう。


「でも、何故イロハ君だけにしかその存在は見えないのかしらね?まるで、イロハ君だけを強くする為のアイテムのようね…」

「……ど…どうなんでしょう…ひょっとしたら、世界のどこかには見える人もいるのかもしれませんよ?」

「そう…よね」


 いや、絶対に僕にしか見えないんだけど…そう言うしかない。


「しかし、そんなアイテム私すら聞いた事もありません。古い文献にもそんな物は出て来た事はないはずですが…」


 ヴィルトスはそう言った。


 長命なエルフがいると説得力あるけど…ここは適当にスルーするしかない…。


「とりあえず。これは慎重に扱わないといけないと思っていますので、見つけても見える僕が管理します。良いですか?」

「まあ…俺達じゃ見えないんじゃ管理のしようもないしなぁ…」

「そりゃそうじゃな」


 皆うんうんと納得した。


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 後書き。


 皆様、新年明けましておめでとうございます。

 年末年始、いろいろと忙しく。

 執筆が遅れました…


 実は近況にも書きましたが。

 ブルー・スフィアの続編も書いて行こうと思っています。

 ただでさえ時間ないのに、簡単には行かないかもしれませんが。

 処女作の「ブルー・スフィア~地球異世界ハーフの異世界スローライフ放浪録~」がどんどんファンが伸びて高評価も頂き、小説家になろう様でも、重複投稿をしましたが、毎日3~4千人を超えるアクセスがあるくらい、読まれています。


 なので、私がやる気がある内に執筆を続けて行きたいと思っています。

 両方ともカクヨム様から新規投稿して行くのは変わりません。

 そして、リアルと相談しながらゆっくりと執筆になると思いますが。

 どうか、ご理解のほど宜しくお願い致します。


 作者:瑛輝

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