第8話 初めての戦闘
同級生とカラオケに行ったあの日から、この世界で7日が経った。
地球では1日経過しているのだろうけど。
爺ちゃん、婆ちゃんには、春休みは勉強のために友達の家に泊まる事もあるからと言ってあるから2~3日いなくたって心配する事はないだろう。
そうそう、バイトも辞めて来た。
何てったって、銀行にレッドダイヤモンドを売ったお金が2900万円も入っているからね。
なので、春休みはこの世界を満喫しようと考えている。
イルメイダとの修行のお陰で魔法を少し覚える事が出来た。
普通の人間では有り得ない事だけど、魔法のような物が僕にも使えるようになったんだ。
まだ掌に、光を集める事と、危なくない水を作り出す事なら出来た。
勿論、あの脳豆で1%覚醒したからかもしれないけど、着実に身体に変化があった事は確かだ。
今日は、
僕は、革鎧一式と鉄の剣を装備している。
いかにも、初心者冒険者だ。
「そう言えばさ。イルってマカドランクって何なの?」
「私は、Cランクですわ」
「へぇ…Cなんだ」
「私は登録したのが20歳の時で少し遅かったんだけど、エルフは長命ですから。ゆっくり上げて行けば良いかなって」
「なるほどね」
イルメイダはEランクに貼ってある1枚の依頼を取った。
「イロハさん、戦闘を覚える為に先ずこれから行きましょうか?」
「なになに?」
イルの手には1枚の紙。
それは、角ウサギ討伐依頼だった。
≪ホーンラトビの大量発生に伴い討伐を依頼する。メス1匹に対し銅貨5枚、オスは1枚。討伐証:角。依頼主:魔狩人協会≫
その文字と、誰が書いたかわからないが、手書きで目標の絵が描いてあった。
「ホーンラトビの討伐依頼よ」
「角が生えてるウサギ?」
「ウサギ?」
「い、いや、何でもない。イルがそれが良いっているのならそれで良いよ」
「は~い、決まりですね」
イルは受付へ、その依頼を受けると言いに行った。
ウサギ一匹討伐して銅貨5枚か…日本円に換算すると500円くらいか。
意外と美味しい依頼なのかな?…
「イロハさん、では行きましょうか!」
「うん」
◇
「うわぁあ…すっごい自然だ」
エルフの森を北へ抜けると、気持ちが良いくらいの草原が広がり、遠くに丘や山々が見え、空には青空と雲、太陽もしっかりあった。
「これ…本当に作られたあの門の世界の中なのか?…」
「そう思いますよね?私だってまだ信じられませんもの…この世界や私達がイロハさんの世界の人間が創り出した物だなんて…」
本当にそう思う。
あの太陽とかどうやって作られているんだろう?
宇宙はないとオルキルトさんの本には書いてあったけど…
空を抜けたら一体何があるのだろうか?
謎は深まるばかりだ。
「さ、日が暮れる前に行きましょう!」
「ああ、うん」
2人は目的の場所へ向かった。
◇
「あれですね、角が長いのがメスで、短いのがオスです」
イルがそう指を差した場所を見た。
「ああ、あれ?…ウサギと言うか、大きなネズミじゃないか…」
そこに居たのは、角のあるウサギのような動物が十匹ほど。
ドブネズミのような灰色毛や黒毛を纏っていて、大きさは大型犬くらいの大きさだった。
「イロハさん、メスのホーンラトビの真正面は危ないので、常に横か後をとってください」
「ああ…うん、わかった」
なるほど、メスの方の角が長く鋭く尖っている。
逆にオスは短くそこまで尖ってはいないが、あれに突進されたら痛そうだ。
「行きます!!」
「うん」
イルメイダは、颯爽と走って魔物へ向かっていく。
僕もその後を追って走り出す。
イルメイダの細身の剣は、瞬時に2匹の頭部を突き刺す。
ホーンラトビは僕ら二人に狙いを定め突進してくる。
「くっ!」
間一髪で避けれた。
意外と俊足で驚いた。
剣に力を握りしめて、飛んできたホーンラトビに一撃を浴びせると。
「ギャン!!」と悲鳴をあげた。
動物を虐めているようで少し気が引いてしまった。
ドッ!!!
痛ったあああ!
気を引いて固まっていた僕の背中に、何かが突進してきてぶつかり、倒れてしまった。
振り返るとオスのホーンラトビが、もう一度こちらへ飛んでいこうと構えていた。
倒れている僕へ助走をつけ、ジャンプして飛んできた。
「うわ!」
ド!!
飛んでくる寸前で剣を上向きに構えたお陰で、剣は魔物の腹から背中へ刺さっていた。
「イロハさん!大丈夫ですか!!」
「だ、大丈夫…」
魔物の血が剣を伝い流れて落ちて来ていた。
僕は立ち上がり、魔物から剣を抜いた。
獣臭と血の臭いが漂った。
さっき剣で叩いたメスのホーンラトビが弱々しくこちらを伺っていた。
イルメイダは慣れているような剣捌きで次々と魔物を倒していく。
メスのホーンラトビはこちらに一直線に突っ込んで来たが、
肉が裂け、骨が潰れるような感触が腕に伝わる。
なんとも言えない感覚だった。
暫くすると10数匹いた魔物は地面に横たわっていた。
手が少し震えていた。
よく見ると、革鎧には返り血が点々とついていた。
「イロハさんお見事でした」
「いや…一撃貰ってしまった…メスじゃなくて良かったよ…」
「まあ、でも2匹は討伐出来ましたね!初陣にしては中々ですよ!」
イルなんて10匹は倒しているんだけどな。
褒め上手ってこの事だね、ははは…
「このノコギリで角を切り取って帰りましょうか」
「うん」
「今回は少ない群れでしたが、依頼達成です!」
「これ少なかったんだ…」
ゴリゴリと小さなノコギリで角を回収していく。
イルは集めた角を次元箱へ入れて行く。
「これで良しです!戻りましょうかイロハさん!」
「うん」
◇
一度、エルフの町へ
このエルフの森の一部、いろいろな亜人種たちも出入りしている町の名前は「シルマンダ」と言うらしい。
奥の方はエルフの聖地なので、他の人種が行き来できるのはここまでだ。
しかし、ここシルマンダには、魔狩人協会もそうだけどいろいろな物が揃っていた。
「イロハさん、お腹空きません?」
「ああ、そう言えば空いたかも」
「じゃあ、お手洗いしてから、シルマンダにしかない軽食屋さん行きましょうか!」
イルメイダはニコニコしてそう言った。
僕は頷いてついていく。
街の至る所に水洗い場があった。
魔狩人らしき人達がそこで、防具を外し、顔や手洗いなどをしていた。
「この水洗い場ってさっきもあったけど?」
「うん、どの国の街にもこういったのはあるんですよ」
「へぇ、どの国にもあるんだ?」
「大体は、マガトの人達が返り血などを洗い落としたりする場所になります」
スイッチのような場所を押すと水が流れ出た。
上についているツマミで水量を調整するようだ。
どういう仕組みなのか?配管もないのに水は出てきている。
「不思議そうな顔してますねイロハさん」
「うん、この水ってどうやって出ているんだろうと思って」
「これは水の魔石を組み込んであるんですよ。永遠ではないのですが、魔石の魔力が続く限りはああやって水を出す事が出来るんです」
「へぇ…便利だね」
イルと返り血を落としていると。
2人のエルフの男が声を掛けて来た。
「イルメイダ。久しぶり」
「ああ、モルク。久しぶり」
そのモルクと言うエルフは僕の事をチラリと見る。
「イルメイダ、人間とパーティを組んでいるのか?」
「ほんとだ。人間だ」
エルフの男達はそう言った。
「モルク。やめてよ、何か問題ある?」
「いや、前に俺のパーティに入ってくれるって言ってたじゃないか?」
「入るとは言ってません。その時があったらねと言いました!」
「よりによって人間とかよ」
「私の勝手でしょ?怒るわよ?」
僕は無言で腕を洗っているけど、視線を感じていた。
「はいはい…じゃあな!」
「ふん!」
エルフ男2人は去って行った。
「イロハさん気にしないでね。エルフの中には人間を毛嫌いしている人もいるの…」
「いや、大丈夫。別に気にならなかったし」
「ごめんなさい」
その後、イルメイダと軽食を食べに向かった。
3本の木が連なった場所に建物が建設されていて、かなり繁盛していた。
一つのテーブルが開いたので、イルメイダは七羽にそこへ座っててと言い、受付へ向かった。
イルも戻って来て、僕にいろいろとこの店の歴史や料理の話をしてくれた。
そうしている間に料理が運ばれて来た。
「おお…美味そう」
「でしょー」
テーブルに同じ料理が二つ。
パンがひとつずつと、スープ。
木製ワンプレートに、何かの肉料理に鮮やかなソースがかけられていて、その周りに野菜が盛られていた。
「今日のおすすめだった。「ムーラ肉ソテーの果実ソース掛け」よ、これ美味しいんだから!んふふ」
「この鮮やかなソース、果実なんだ?」
料理用ナイフでカットして一口頬張ると、美味かった。
ムーラと言う肉自体は少しクセがあったけど、それを果実ソースと一緒に食べる事で何とも言えない旨みが口の中に広がった。
「美味しい!」
「お口に合ったようで良かったです」
「ムーラってどんな動物なの?」
「ああ、ムーラは魔物ですよ」
「魔物なの!?」
「はい。イロハさんの世界はどうか分かりませんけど、この世界では、魔物肉は一番の食料にもなっているんです。ムーラは草を食べる魔物なので、肉食の魔物よりあっさりとしてて、安全に狩れる魔物なので一般的に食卓に並ぶ事も多いんですよ」
「へぇ…そうなんだ」
「この果実ソースは、この店の特製で、これと一緒に食べるのが一番私は美味しいと思っているんです。んふふ」
食事を終えた僕達は、
◇
「はいよ。これが報酬だ。メスの角8本オスが5本で、計、銀貨4枚と銅貨5枚だ」
貨幣を見せた後、麻袋へ仕舞って渡された。
イルメイダは自分の次元箱を開きそれを中へ入れる。
魔狩人協会を後にし、2人は帰宅するのだった。
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後書き。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
まだまだ8話。
フォロワーもまだ少ない小説ですが…100話になるころには沢山のフォローが付いている事を願って頑張って書きます!
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