第6話 感覚
イルメイダにエルフの町を案内され、
地球の恰好では目立つので、マカド初心者らしく装備も買い揃えた。
何気に出した宝石が迷宮品だと言う事を装備屋のベラジオに聞いて、他では出さないようにと誓う七羽だった。
一度、2人は世界樹の家へ戻った。
◇
「イロハさん、麻袋お返ししますね」
「うん」
「イロハさん、先ず何の修行をした方がいいかな?と考えたのですが…まだお昼ですし、昼食食べたら…精神の修行に行きましょうか?」
「精神の修行?」
「はい。魔力ってのはですね、精神力とも言われます。それを高める事と創造する力で魔法は生まれるんです」
「…よく分からないけど、どうすればいいか教えて貰えるのなら何でもやってみるよ」
「うん、じゃあ。後から濡れても良い恰好でこの世界樹家の裏の先に来て貰えますか?」
「うん、裏の先だね?分かった」
◇
イルとメイ婆さんと3人で昼食を食べて、自室で着替えて世界樹の家を出た。
えっと確かこの世界樹の裏って言ってたよな…
太い世界樹をぐるりと裏に回ると。
獣道みたいな道が裏へ真っすぐに伸びていた。
その道伝いに歩く七羽。
湖に浮かぶ島の端に出ると、下へ降りる道があり、キョロキョロとして下を覗く。
下に降りた河原のような場所に一人女性が立っていた。
あれは…イルかな?
すると、下にいるイルメイダがこちらに気付き手を振った。
「イロハさーーん!こっちです!」
「今行きま~す!」
イルの叫びに大きな声でそう返した。
下への道は石などでゴツゴツとしていたが、すぐに道になれて楽々と下って行った。
そこは湖の水面に面している場所で、小さな滝が4~5m上からここへ落ちていた。
うわぁ…綺麗な所だなぁ…
「イロハさん」
「うん?」
滝の上を見上げていた
「え…ああ!」
そこにはイルメイダが、水着のような物を着て、頭を傾け濡れた髪を、手で絞っていた。
イルの姿が、つい綺麗すぎて、僕は目のやり場に困って目を背けてしまった。
驚いた…何その恰好、殆どビキニじゃないか…精神力鍛える場所じゃないの?…
でも…エルフって何でも絵になるね…
「イロハさん?どうしたんですか?」
「い…いやほら…それ水着?」
「ああ、これ?これは私の水場での修行用の服ですが何か?」
「ああ…そうなんだ…えっと、濡れても良い恰好ってこれで良い…かな?」
僕は普通にTシャツに短パンだけど。
泳ぐとは聞いてないしこの格好でいいよね?
「別にそれでも良いと思います。こっちへ来てください」
「ああ、うん…」
イルメイダはそう言って滝の方へ向かう。
その後を恥ずかしながら着いて行く。
滝の下は腰くらいの深さで、歩いて滝下まで行った。
これは…つまり滝行のような物でもさせようと言うのかと思ったら。
「イロハさん、この滝に打たれながら精神統一しながら鍛えます」
そのまんま滝行だった。
イルメイダが先に滝の下へ入って滝に打たれた。
こっちこっちって手招きするので、僕も隣で滝に打たれた。
ドドドドド…
意外と滝から落ちて来る水の力は強かった。
「イロハさん、精神を穏やかにして、その場の気を取り込み、具現化したい物を念じて発動させる…それが魔法です」
「精神統一ってこの中でしないと…イタタ…」
「んふふ、最初は皆そうなりますよ。この滝を感じなくなるくらい精神統一が出来たら、多分、ある程度の魔法が発動出来るようになると思いますよ?」
「こ、これを…イタタ…感じなくなるくらい?…」
ドドドドッドド…
言われるがまま20分我慢してやってみたが、辛すぎて一度退散し、岩場に腰かけた。
「はあ…はぁ…こんなにつらい、物なんだ…滝行って…はぁ…」
イル、凄いな…涼しい顔で滝に打たれてるよ…
イルメイダは、両手を繋ぐように前で握りしめ、祈る様に微動だにせず滝に打たれていた。
「イロハさん」
「は…はい?」
「もう一度こちらへ」
「え…は、はい…」
そう言われてまた隣で滝に打たれた。
「イロハさん。この滝に打たれている、痛いと思わず誰かに肩たたきされていて気持ち良いと思ったり、身体の神経を別の部位に集中してみてください」
「は…はい…」
身体にある神経が、今は滝が落ちてきている頭や肩に集中しているものを、言われた通り、別の部位へ…掴み合っている両手から指先へと集中させてみた。
すると、少し、痛みが和らぎ、更には気持ちよさに変わった気がした。
「あっ…」
「んふふ、それだけでも違うでしょう?」
「うんうん」
「それではその調子で集中力をいろいろな所に向けてみましょう」
3時間ほど何度か休憩して滝に打たれた。
◇
岩場に座る二人。
涼しい顔で岩場に座っているイル。
とても綺麗でずっと見ていたい僕だったけど、身体の疲労がそれをさせなかった。
真っ白に燃え尽きて…今でも倒れ込みたいほど疲労が溜まっていた。
「何となく分かって来たけど…これ以上は無理…はあ…はあ…」
「お疲れ様です。でも、最初でここまで耐えるとは流石です。イロハさん」
「ええ…た、耐えた方なんだ?…はあ…」
「はい!普通の方なら1時間すらも持ちませんよ?少し休憩しましょうか?」
「そ…そうなんだ…う…うん、そうしよう…」
◇
暫く岩場で雑談しながら休憩した。
イルが言うには、僕は体力はある方らしい。
さっきも言ったように、普通の人でも1時間やるだけで一日動けなくなるくらい、滝行ってのはキツイらしい。
薄々自分の身体の変化に気付いて来た。
そうだ。あの脳を活性化させると言う本の中にあった豆を食べてからだ。
今、滝行したばかりで、戻ってきた体力の速さもそうだけど。聞こえる物音や気配。何もかもが曇りを晴らしたかのようにいつもと違うんだ。
「あれ?イロハさん元気そうですね。なら…」
「え?まさかまた?…」
「いえいえ。では、魔法の初歩を教えますね」
「ん?魔法の初歩?」
「はい、右手の掌を上に向けて目を閉じてください」
「うん」
イルの言われるがまま僕は目を閉じた。
「空に舞う風の流れ…湖の音、滝の音、大地のささやき、鳥や生き物の声。精神を集中すると様々な物が感じ取れますよね?」
「うん…」
そう言われて集中すると。
風の流れや、生き物達のさえずりでどこを飛んでいるのか分かり、集中する場所を変えると、大きな滝の音も消え、イルの息遣いさえ分かった。
「では、次に掌に太陽の光を想像してください」
「太陽の光?…うん」
「そう、暖かな太陽の光。掌の上に徐々にその太陽の光が集まります…そうそう、もっともっと強くそれは輝きます…そうそう…もっともっと」
言われる通りを想像した。
「それは現実となる、そう思い強く願ってみてください」
「うん」
太陽の明るく暖かな光…僕の掌に集まって来る…光よもっと…もっともっと。
「目を開けてください」
「うん」
目を開けると掌に、小さな光が沢山集まっていた。
「うわ!」
それを見て驚いた瞬間、光は飛び散り消えてしまった。
「出来ましたね、それが魔法です。現実では、光がない所は光らないと思っていたはず…それが固定概念って物なんです。オルキルト様の本にも書かれていましたが、人は無限の可能性を秘めていて、出来ると強く願った事は大抵、具現化する事が出来ると言うのです」
「なるほど…」
「オルキルト様が創造されたとされる、この世界は人が言葉を覚えるのと同じくらい魔法は普通の事で、この世界の人達は最初からソレを使える人もいます。勿論、苦手で使えない人もいますが…」
「でも、今ので何か分かったような気がする」
「はい、んふふ。第一段階は成功ですね。次からはご自分で修行出来ると思います、次はその太陽の光だったものを、火、水、雷、風。どう言った物だと想像してみる事が大事です」
「うん、それは何となく分かる気がするけど…火とか雷とか…危なくない?」
「はい、確かにそれは危険な物で、攻撃魔法にも使われます」
「だよね…」
「それは熱くて危険な物ですが、自分が発動した物は自分に害を及ぼす事はないと思う心が大事なんです。難しいかもしれませんが、それが魔法です」
「な‥なるほど、分かった…危なくない所で練習してみるよ」
「はい。一日でこれだけ飲み込みが良いと、先が楽しみですね。イロハさん!」
飲み込みが早い方なのかな?
まあ、でもさっきの感覚は不思議だった。これが、魔法…まるでイルの催眠術にかかってそれが出来たような感覚…でも、凄く分かりやすかった。
これを応用すれば良いんだな。
七羽は魔法の感覚の糸口を掴んだのだった。
その後、2人は世界樹の家へ戻った。
◇
メイ婆さんと、イルと夕食を終えた、七羽は自室に戻った。
一度、地球へ戻ろうと思う。
メイ婆さんが作るご飯、不味くはないのだが…
あっさりした味付けで育ちざかりの僕には
なので、調味料を持って来て、たまには僕が作ってやろうとも思った。
親がいなくなって、爺ちゃん達に引き取られてからは自分で料理をする事もあった。意外と料理には自信があるほうなんだ。
僕はこの世界の時間を地球時間と同じに戻し、地球へ帰還した。
時計を見るとまだ午前中だった。
時間設定を行っている為、あっちの世界にいる時の1日は、地球の7分の1にしかならない。つまり、門の世界の1日は3時間ほどだ。
この家から調味料を持って行くのは、爺ちゃん達に悪いので買いに行くことにした。
「爺ちゃん、婆ちゃん、おはよう。ちょっと買い物いってくるね」
「ああ、七羽。じゃあ、茶菓子も買って来て貰えんか?」
「はいよ、わかった!」
「頼むよ」
僕は、歩いてスーパーへ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き。
まだまだ、物語は序盤も序盤です。
宝杖七羽は、門の中でどんな冒険をするのでしょうか?
脳改造システム(RBS)とは?
遺跡とは?
まだまだ謎だらけの世界を書くのが楽しみな作者でありますw
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