第5話 魔狩人(マカド)

 エルフの長老は僕に英雄としてやって欲しい事があると言って、椅子に座った。


「そこでじゃ、使用者イロハ殿、そなたに英雄としてやって貰いたい事とはの」

「はい」


 真っすぐに僕の目を見て長老は語った。


「各地の遺跡を解放し、再び、強力な魔物達と世界の者達が戦えるようにして欲しいのじゃ!」


 強い言葉で長老はそう言った。


「えっと…僕あの…戦った事ないと言うか…」

「長老様…イロハさんはまだ生き物を殺生した事がないそうで…」

「なんと…そなた今歳は幾つじゃ?」

「17歳です」

「17歳!?…この世界では人間でも15歳で成人じゃ…」

「そ…そうなんですか?…15歳で…」

「では…仕方がない、そなたに死なれるともっと大変な事になるゆえ…イルメイダよ、先ずはイロハ殿に稽古をつけてやるんじゃ!せめてゴブリンくらい倒せるようになるまで面倒を見てやるのじゃ!」

「はい!長老様、仰せの通りに致します」


 僕とイルが部屋を後にすると、長老が大きな溜息をついたのが聞き取れた。


 溜息か…そりゃ、勇者が突然現れて、生き物殺した事ないって言われたら…

 そりゃ萎えるよね…


「イロハさん、先ずはマカドの登録に行きましょうか?」

「うん、とりあえずやるだけ何でもやってみるよ」

「はい!その意気です、うふふ」


 宮殿から森の中を進む。

 相変わらずエルフ達が物珍しそうに僕の事をジロジロと見ている。


「あ、気にしないでくださいね。この森にはエルフ以外、あまり他の亜人種を入れたりしない物ですから、イロハさんが目立つのは当然の事なんです」

「亜人種?…」

「ああ、亜人って言葉は人間の言葉で、人に似た亜種や人種って意味らしいです。人間からみたら私達は亜人って事になるのでしょうが、私達エルフから見たら人間だってエルフと違う亜人って事になりますよね?…違いますかね?」

「ああ…そうなのかな?」


 森を進むと一つの門があり、エルフの兵士が固く閉ざされた門を開けてくれた。

 更に森が続いていた。


「ここって相当深い森林の中にあるのですね」

「はい、この世界樹のある妖精の森は特に大きいのですよ、エルフの国丸ごと大森林ですからね」

「へぇ…国が丸ごと森…なんだ?」

「ここから更に少し歩きます」


 先を見ると鬱蒼とした森が延々と続いていた。


「少しって…どのくらい先なの?」

「1時間ほど歩けば、エルフの街に着きますよ」

「い、1時間!?」

「ヤムを使っても良いんですけど…あれは軍の許可ないと貸して貰えないので」

「ヤムって?」

「ああ…えっと、大きな鳥のような生き物で、エルフ族は主にヤムを乗り物にしているんです」

「なるほど…」


 七羽は、某有名ゲームのチョ〇ボを思い浮かべた。


 ◇


 それから森の中を歩く事1時間。

 ここも普通に森なのだが、少しは拓けていた。

 森の中に沢山の建物が並び、人間や、獣人、ドワーフ様々な人種が行き来していた。

 かなりの賑わいをみせている。


「うわぁ…これぞファンタジーな世界って感じだなぁ!」

「ふぁんたじー?何ですかそれ?」

「いや、気にしないで…」


 イルは首を傾げていた。


「イロハさんこっちです」

「は~い」


 イルについて行くと、ひと際大きい建物の前にいた。

 看板には、魔狩人協会と書いてあった。


 中に入ると、物々しい装備をした人や獣人。

 魔物退治の後だろうか?返り血を浴びてそのままで歩いている人達もいた。


「ここがマカド協会」

「そうです。ここで先ずマカドとして登録をしましょう」

「はい」


 登録窓口に行くとエルフの受付が対応してくれた。


「はい、登録だね?血を一滴貰うよ?」

「え?はい…」


 針のような物で指をチクリと刺し一滴の血を紙に滲ませて持って行ってしまった。

 暫くすると受付のエルフは戻って来て、小さなプレートを差し出した。


「後はこの紙に名前を書いてくれたら終わりだ」

「名前を書けばいいのですね?」


 簡単な作業すぎて驚いてしまった。

 血一滴で登録出来る物なんだと疑問に思った。


「マカドについて説明いるかい?」

「ああ…はい一応」

「はいよ」


 エルフの受付は淡々と説明した。


 魔狩人マカドにはランクがS~Eまであって、そのランクによって依頼内容などが変化し、高いほど報酬も高くなるのだと言う。


 登録したてなのでEからスタート。

 まあ、この辺は、よく読んでいたライトノベルやゲームなどで大体推測できた。

 このプレートが身分証明にもなり、どの亜人種の町へ行っても入る事が出来るらしい。その後も、魔物の素材の買い取り等の話をいろいろと説明していた。


「イロハさん、一度聞いただけで分かりました?」


 イルがそう言って僕の顔を覗き込んだ。


「うん、何となくだけど似たような本読んだ事あるからさ」

「本?…マカドの?」

「ん~ん、まあ何となく分かるよ」

「はい、んふふ」


 魔狩人協会を出た。

 すると、どう見ても貧富の差が見て取れる集団が歩いていた。

 1人は、豪華な鎧を身に纏い、2人はその人間の護衛に見え、後の3人がボロ服で靴もボロボロで穴も開いていた。


 その6人がすれ違いで魔狩人協会へ入って行った。


 七羽がその集団を目で追っていると、イルメイダは語った。


「あの中の3人は奴隷ですね…あの首の横に魔力文字が描かれていますよね。あれは奴隷の印です」

「奴隷!?」


 首を見ると何か文字が描かれているのが見えた。


「はい、このエルフの街ではまだ居ない方ですが、どこの国でも貧富の差が激しく奴隷は沢山います…」

「じゃあ、あの豪華な鎧来た人が主人って事かな?」

「おそらくそうでしょう。エルフ族が奴隷にならないのは魔法や精霊魔法が使えるので重宝しますし、そもそも奴隷に落ちるくらいなら死を選ぶほどエルフは気高いのです」

「へぇ…なるほど」


 確かにさっきの3人も人間だったようだし、よく見ると他でも立派な装備している人と、あまりにも軽装な装備で暗い表情をしている人も見受けられる。

 貧富の差かぁ…


「イル、一つ聞きたいんだけど。奴隷って…もしもだけど、走って逃げちゃったらどうなるの?」

「それは出来ません。主人の意向で、あの首に描かれた魔法文字で、いつでも死に追いやる事が出来るのです」

「えええ…確かに頸動脈辺りにかいてあるけどさ…爆発してしまうとか?」

「まあ…そんなとこでしょうかね?…」

「ひえー‥‥」


 想像して少しぞっとしてしまった。


「では、イロハさん。その恰好では目立つし、戦うには不向きだと思うので、とりあえず防具などを見に行きましょうか?最初は軽い革鎧とかが使い勝手もよくて長く使えますよ!」

「あ、うん」


 イルに連れられて街の中の装備屋へ向かった。

 閉鎖的なエルフの町と言っても全然賑わっていたが、上を見ると所々に弓を持ったエルフが間隔をおいて監視しているのが分かった。


 装備屋に着いた。

 中へ入るとエルフにしては大柄な男性が声を掛けて来た。


「お!イルメイダちゃん。弓の新調かい?希少なバローマツリーの枝で作った特級品なんておすすめだぜぇ!」

「ベラジオさんこんにちは!いいえ今日は、このイロハさんの装備を買いに来ました」

「そっかぁ…。ん?珍しい服を着ているなぁ、人間のあんちゃん、そのひょろっこ体形を見るからに、マカド成り立ての初心者ってとこか?」

「ははははは…そんな感じです」


 やっぱ、地球の服は珍しい…よね。


「じゃあ先ずは…マカド初心者セットだな!先ずはそこにあるランドベアの皮で作った革鎧、小手、脛当てのセットと!これだな」


 そう言ってベルジオって人が革製品の後に出して来たのは、Tシャツのような物と短パンだった。


「これは?」

「これはな。エルフ族なら皆、鎧の中に着る防刃服だ」


 生地を触ると不思議な素材だった。


「イロハさん、これはねエルフの森でしか取れない樹液を繊維と一緒に編んだ服で、ラケールって服なんですよ、ほら私も中に着ている物と一緒です」


 イルメイダは自分のウエスト辺りを服を引っ張って見せる。


「へぇ…でも薄そうに見えるけどこれ防刃なの?」

「舐めて貰ったらいかんぜぇあんちゃん!これはラケの木の樹液が編み込んであってな、多少の伸縮するんだが、一点に力が集中するとその部分が固くなるんだぜ?」


 七羽が袖を引っ張ると確かに多少伸びるが、指先で押し込もうとすると周囲の繊維が固くなった。


「おおー凄い…」

「だろう!へへへ」

「これ幾らなんですか?」

「革鎧セットは3点で銀貨5枚。ラケール上下は2点セットで銀貨2枚だが。イルメイダちゃんの知り合い割引で、銀貨1枚はサービスしてやるさ!へへへ」

「良いの?ベラジオさん」

「良いって事よ!」

「あ!…お金…」


 そう言えば、メイ婆さんから預かった麻袋どうしたっけ?…

 すると、イルがその麻袋を僕に差し出した。


「イロハさん、そのまま机に置いたままだったので私が預かっておきました」

「ああ、ごめん、ありがと」


 麻袋を受け取り、カウンターの上に軽く中身を出した。

 銀貨が8枚と金貨2枚、小さな宝石が2個、流れ出て来た。


「銀貨6枚だったよね?…1,2,3…はい、銀貨6枚これでいいですか?」

「おい…その宝石…ちょっと見せてくれないか?」

「え?この小さな宝石ですか?どうぞ?」


 ベラジオは小さな宝石を手に取りじっと見つめる。


「…これは…まさかとは思うが迷宮品か?」

「迷宮品?…さあ?」

「これは間違いねぇ…迷宮品だな…イルメイダちゃん、この人間何者だ?」

「ああ…わ、私の…遠い親戚です。分けあってこれからマカドになって一緒にランクを上げて行こうと思っているんです」

「人間の親戚ねぇ…あんちゃん、コレあんまり他で見せるなよ。盗賊に目を付けられりゃ厄介な事になるからな」

「はぁ…そんな高価な物なのですか?」

「ああ…宝石はなんだかんだで価値はつく物なんだが、大昔の英雄が去り遺跡が閉じてしまった今では一つの傷もない宝石は、持っていてもどこぞの国の重鎮か貴族の装飾などに使われていて数も少ない、後な、宝石ってのは魔法の触媒にも使われる、魔力伝道が普通の宝石と違うってとこも高価な理由よぉ」


 こんな小さな宝石でも…迷宮品なら高価なんだ…


「そ、そうなんですね…気を付けます…」

「うむ。ついでだ、この剣もつけてやるさ」


 奥からゴソゴソと持って来た。


「これは、さっき旅の者が売りに来た。まあ、普通の鉄の剣だ。初心者には持って来いだろ?」

「はい有難うございます」

「そいつの持ち主、まだ刃こぼれもなく綺麗な所を見ると、あんちゃんみたいな初心者マカドが何処かで命を落とした物かも知れねえなぁ。はははは」

「はははは…って、怖い事言わないでくださいよ…」

「ほんとですよ!イロハさんをからかわないでください、ベラジオさん!」

「おっと。へいへい」


 麻袋の口を縛ると、イルが麻袋を私に預けてと言って来た。

 イルメイダは空間に麻袋を収納した。

 そして、試着室のような場所で、今買った装備に着替えた。

 靴がハイキング用の靴のままだったことに気付いて、新品の革靴も買った。


「様になりましたね、イロハさん」

「そ…そお?」


 革鎧などは、何の皮で出来ているのか分からないが、内側は軽い素材で作られていて外側は丈夫そうな固い物で出来ていた。


「一度、今日は戻りましょうか?」

「うん、分かった」


 イルと僕は一度、世界樹の家へ戻る事にした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 後書き。

 まだ初めの方なのでスラスラと書いてます。

 もっと、いろいろな事柄を細かく伝える事が出来たら良いのですが。

 それでは、読む方への負担にもなるのかなと思い、余分な部分は省いてテンポよく書いているつもりであります。


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