第4話 使用者として

 宝杖七羽ほうじょういろはは、禍々しい門の置物「リモデリング・ブレイン・システム(RBS)」の中へ吸い込まれ、そこには地球のような惑星が存在していた。


 そこで、この世界「アラウザルゲート」の真実を知る事になった。

 脳、肉体を強化するためにこの機械は存在し、その使用者はこの世界を冒険する事で究極の人間へと成長する事が出来るらしいのだ。


 しかしここでは、魔物が跋扈ばっこするゲームのような世界で、この世界ではRBSの使用者でも死は当然のようにある事だと言う。


 七羽いろはは、エルフの老婆メイ・アーグラエルと、その孫でイルメイダ・アーグラエルと言う美人エルフと遭遇し、その事実を前使用者であるアトランティス人「オルキルト・アーゲン・ラビリス」と言う英雄の書き残した本で知る事となった。


 この世界は今は混沌状態にあるらしく。

 イルメイダから、一緒に魔物を狩る職業「魔狩人」通称(マカド)にならないかと持ち掛けられる。


 美人の頼みで、つい受けてしまった七羽だった。


 ◇


 大木の家の中。


 それから、2人にここの家の事を教えてもらった。

 ここは、世界樹を有する精霊の森で、エルフの国もこの中にあり、国の名を「エルグラン・ルシール国」と言った。


 この場所は、英雄が生まれ落ちたと言う世界樹であり。

 大きな湖の中心に位置しているらしく、特別な土地だと言った。

 アーグラエル家は、代々、使用者と呼ばれる者の帰還を待ちつつ、メイ婆さんで7代目。次の8代目が、孫のイルメイダみたいだけど…何故、孫でメイさんの子ではないのかは聞いてない。


 いろいろとこの世界の話をしてくれたけど、何はともあれ、自分の目で見て見ないとファンタジー過ぎて、内容がよく分からない事も多かった。


 ふと、窓の外を見ると真っ暗になっていた。


「ああ…いきなり沢山、語られても分かりませんよね…」


 イルメイダがそう言う。


「イロハ、今日はここに泊まっておいきなさい。元々は使用者のための世界樹の家なわけですしの…部屋も沢山あるから適当に使っておくれ」

「メイさん…有難うございます。お言葉に甘えます」

「うむ、イルメイダ、奥の部屋を開けておやり」

「はい、お婆様」


 イルに連れられて奥の部屋へ向かった。


 部屋の中へ入ると、イルメイダが掌で光を作り出し、壁に取り付けてある灯具へそれを飛ばす。


 光は灯具へ吸い付くように留まり部屋が明るくなった。


「すご…」

「凄くないですよ、これは魔法の基本です。イロハさんも直ぐに使えるようになりますよ、うふふ」

「いや…魔法って僕にも使えるのかな?…」

「はい、オルキルト様の本を読むと考えさせられる事なのですが、私達、人は固定概念に囚われたら本当の力の封印する事になると言われます、どんな事でも出来ないと最初から決めつけると何も始まらないのです」

「はぁ…そう言われても…」

「イロハさんはまだ使用者になったばかり、まずはこの世界に慣れてください。明日は私がエルフの街をご案内しますわ」

「う…うん」

「この光は数時間経つと勝手に消えますのでほっといてくださいね」

「うん」


 イルメイダはそう言うと部屋を出て行った。


 部屋を見渡すと木製の家具が綺麗に並んでいる。

 ベッドに座ってみたが、普通にフカフカだった。

 木製の椅子に座り直し、先ほどの本を開く。


 ≪地球に戻りたい時は、自分の部屋を強く思い出してみると良い、それで元の場所に戻れるはずだ。地球時間との設定はこの世界でしてから行くように。≫


 なるほど…元の世界に戻るには、自分の部屋を強く思えば良いのか…

 その時間の設定は…と。

 設定と念じると、目の前にそれらしき物が浮かんだ。


「でた!…時間設定…あった。他にもいろいろ座標やよく分からない設定が並んでいる…とりあえず…時間設定をいじろう」


 時間設定を弄ってみたが、最大は前後10日までのようだった。

 地球時間の1日を、この世界では7日に設定してみた。

 これで良しと。

 これで、この世界に1週間いても地球では1日ってことだよね。

 分かりやすくその設定を毎回やろうと決めた。


 とりあえず…眠い…こっちに来る時は深夜だったはず…そりゃ眠いわ…


 ベッドに転がるとそのまま直ぐに七羽いろはは寝てしまった。


 ◇


 朝。


「んーーーーー!…はあ…」

 背伸びをして起きた。

 扉の外でコトコトと音が聞こえた。

 七羽は起きて扉を開けた。


 いそいそとメイさんと、イルメイダが料理を作っていた。


「あ!イロハさんおはようございます!」

「おはよう」

「イロハ、よく眠れたかい?」

「はい、部屋に入って直ぐに寝ちゃったみたいで、そのままぐっすりでした」

「それは良かった、もう朝食が出来るから座って待ってな!」

「はい」


 暫くすると朝食が並べられ、3人でテーブルを囲み座った。

「頂きま…」

 2人は何かに祈るような恰好をして目を瞑っていた。

 僕も同じような仕草をし、2人がどうするのか片目は開けていた。


 祈りが終わったようでスプーンに手を付けたので、僕も目を開けスプーンを手に取った。

 シチューのようなスープとパンがひとつ、それと何かの果物がカットされて置いてあった。


 スープを飲むと、あっさりした味で、普通に食べれそうで、パンも食べてみたが少し、硬いのが印象だった。

 びっくりしたのは果物が凄く美味しかった事だ。

 桃のような色と触感で、味は柑橘系、何とも不思議で美味しかった。


 ◇


 食事を終えて、僕は一度、地球に戻って着替えてこようと自室に戻った。

 戻る前に、地球1日が7日になっているのを、この世界の1日が地球の1日に戻した。そうでないと、地球に戻ってこの世界へ帰って来た時に相当な時間が経った事になってしまうからだ。


 設定を元に戻し、目を瞑り、地球の自分の部屋を思い浮かべて帰還を念じる。


 すると、周りが一瞬静かになり目を開けると。

 そこは自分の部屋だった。

 時間を確認すると、まだ早朝3時だった。

 ぐっすり寝たはずなのに地球ではまだ3時間ほどしか経っていなかった。どうやら向こうの時間操作が効果を成しているようだった。


 メイさんに用意してもらった、ブカブカの服を自分の服に着替えて、バイト先のガソリンスタンドへ電話を掛ける。


 24時間のガススタなので誰か出るはずだ。

 正社員の先輩が出たので、爺ちゃんと旅行へ行くのでと嘘を言って暫く休みを貰った。


 それからリュックを押し入れから取り出し、着替えなどを詰める。

 台所へ行って来客用においてあったお菓子なども一緒に詰めた。


 七羽はふと、不思議な感覚を感じた。


 隣で寝ている爺ちゃんと婆ちゃんの寝息が身近に感じ取れた。

 それだけではない、外を走る車の音や、新聞配達をしている自転車の音がはっきりと聞こえたのだ。


「え…こんなに耳、良かったっけ…」


 まあ、良いやと思い自室へ戻る。

 門の置物に手を置き、開けと念じる。

 光に包まれ、RBSに吸い込まれ、先程いた部屋へ戻った。


「良し。こうやれば行き来できるんだな…時間もまた伸ばしておこう」


 コンコン…


「イロハさん、入っても良いですか?」

「ああ、うんどうぞ」


 カチャ。


「え?その服…何処から持って来たんですか?」

「ああ…えっと、実は持って来てたんだ…はは…」

「…そうなんですね、イロハさんに合うかもしれない服を持って来たのに…必要ありませんでしたね…」

「ああ、うん、イル有難う」

「はい」


 笑顔でイルは扉を閉めていった。


 ◇


 気候はそこまで暑くもなく涼しかったので、長Tと汚れても良いジーンズ、それからハイキング用のブーツを履いて来た。


 僕が出現した世界樹の庭で、イルと待ち合わせをしていた。

 世界樹の家を出ると、イルは僕を待っていた。


 金色の髪に緑色のインナーに革鎧を着て、背中には弓、腰には細身の剣を携えている。

 太陽の木漏れ日の中にいるイルは、モデルの外人さんが写真撮影をしているかのようで、少し見惚れてしまった…


「イロハさん?」

「ああ、ごめん…待たせたね!」

「いえいえ、さ、行きましょうか」

「はい!」


 2人で世界樹の森を道なりに進む。

 すると吊り橋が見えて来た。


「この世界樹の島は湖の真ん中にあります。この吊り橋を渡り、少し森を抜けると、直ぐに私達エルフ族の城「エルグラン宮殿」がありますので、まずそこまで行きましょうか?」

「ああ、はい」


 湖に掛けられた吊り橋を渡って行く。


 後を振り返ると、世界樹の根本は島になっていて、世界樹は巨大で、枝は太く遠くまで伸びていて目視では全体が見渡せないほどだった。


 森の道を暫く進むと、森が開けて来て、そこには木々の間に家がいくつもあった。

 太い木の上にも小屋のような建物が上手く建設されていた。

 エルフが木々の上、路上からこちらをジロジロと物珍しく見ている。


 もうしばらく歩くと、大きな建物が見えて来た。


「あれが、エルグラン宮殿よ」

「おお…これは立派ですね」


 エルグラン宮殿、一番開けた場所、そこには今までの木造の家々とは違い、しっかりとした造りの大きな宮殿が鎮座していた。


「イロハさん、先ず、今からエルフの長老にお会い頂きます」

「え?…今から?」

「ええ」

「あああ…はい」


 イルメイダはこっちこっちと、言って兵士が数人立っている、宮殿の大きな扉へ向かう。


 エルフの兵士へ何かを言うと、兵士達はすんなり扉を開けてくれた。

 中へ入ると生花の香りが漂う広間が待っていた。


 木のシャンデリアのような物に光が灯っていて明るく。

 両方に階段がありそれは天井高くまで続いているようだった。


 大広間にいる兵士がこちらをジロリと見る。

 気品漂うエルフへイルメイダは話しかけ、奥の部屋へそのまま通された。


 部屋に入ると一人の老人が何やら書き物をしていた。


「長老様、昨晩話した使用者イロハさんを連れて参りました」

「うむ。ご苦労だったイルメイダ」

「はい」

「そなたがこの世界の使用者…イロハ殿であるな?」

「はい」

「ふむ。そう畏まらんで良い。ここにはこの3人しかおらんからな。儂はエルフ族の長老をしているホムテクト・ルシールじゃ、よろしくのぅ」


 使用者って言葉を使うって事は、この長老様も僕の事は伝えられているって事か。


「はい、長老様…何卒よろしくお願いします!」

「うむ。使用者…つまりこの世界の理を造った外の人間。オルキルト様の末裔か何かであろうか?…」

「いえ…使用者ってのに間違いはないと思いますが…僕はオルキルト様って人とは全く関係ありません。ただ…同じ世界から来たと言う事くらいでしょうか…」

「ふむ…なるほどなぁ…」


 暫く沈黙の間が開いた。


「どちらにしても、イロハ殿そなたは希望の英雄。オルキルト様がこの世界を去られて約9000年。この世界は今やあちこちで魔物の氾濫が横行し、この世界に住まう亜人達も、生きる為に小競り合い、もしくは小さな戦争まで起きてしまう始末…魔物を間引く必要があるんじゃ…」

「あの…ひとつ聞きたいんですが?」

「なんじゃ?」

魔狩人マカドって冒険者みたいな人達がこの世界には50%もいるのですよね?その方達で何とか魔物を間引けないのですか?」

「よい質問じゃ。確かにこの世界にはどの種族も兵士やマカドに準ずる者も多い…が、今とは違い、あの時代は迷宮品の武器や防具が沢山、出回っておったのよ」

「あの時代?…迷宮品?」

「そう、迷宮品、それはオルキルト様が開いた遺跡から発掘される物じゃ」

「遺跡…ですか?」

「うむ。オルキルト様がこの世界を去られると世界の遺跡は一斉に固く閉ざされてしまった…最初のうちは、それでも何とかなっていたが、勿論、物と言うのは時が経てば劣化し、朽ちて行く…約9000年、今では殆どの迷宮品は朽ち、人が作った装備で凌ぐしか方法はない、それだけ迷宮品とは大きな力を秘めていたと言う事じゃよ」


 迷宮品…つまりゲームでダンジョンドロップするレアアイテムのような物なのかな?…そんなに違う物なのだろうか?…


「そこまで違いがあるのですか?…」

「うむ。これを見てくれ」


 長老は壁に掛けてある一つの剣をとった。

 豪華な装飾がついた鞘から剣をスラリと抜くと、黄金よりは薄い色をした刃の剣が姿を現した。


「これはオリハルコン素材の剣。名を「滅竜葬刃メツリュウソウガ」…ドラゴンすら屠る事が出来ようこの剣は迷宮品じゃ、オルキルト様から授かってここに置いてある。このような品が他にも沢山昔はあったのじゃよ」

「ドラゴンすら…凄い…」


 って、いや…ドラゴンってこの世界本当にいるんだ!?


「これはオリハルコン素材、戦闘で崩れぬ限り、時の劣化で朽ちる代物ではない」

「なるほど…」


 長老様が持っている剣を鑑定してみた。


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マジックアイテム:魔剣 滅竜葬刃メツリュウソウガ

オリハルコン製

竜族特効:竜族の鱗、皮膚に対して絶大な攻撃力を誇る。

攻撃力:1056

筋力上昇:20%

器用上昇: 5%

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 なんか分からないけど凄そう…

 力上昇って…今、自分の腕力などを20%向上させるものだとしたら凄くない?

 オリハルコンってやっぱ最高級素材なんだ…


「そこでじゃ、使用者イロハ殿、そなたに英雄としてやって貰いたい事とはの」


 剣を仕舞い、壁へ戻した長老は元の椅子に座った。






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 後書き。

 更新のペースなのですが、不定期ではありますが。

 1週間に1~2話アップして行きたいと思います。


 リアル都合が問題なのですが…少ない文字数でもアップしていきたい所です。

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