第9話

……


side:███

2人が覚醒した満月の夜、外れの村の孤児院にて同じ様に月光を浴び覚醒した少女がいた。神経が逆立つような美しさのリマたちと違って純白の羽、薄らと神々しい光をその身に纏い、極付に頭の上に小さな光が連なった輪を浮かべた思わず跪きたくなる美しさだった。


「ぬわぁ!!なんか突然身体が疼き出したと思えばなんスか!!!!!

えっ、えっ、こ、この姿って…まま、まさか…こはるんがハマっていたゲームのヒヒヒ、ヒロイン?!え流石に情報量多いわ〜┐(´д`)┌

…うん、とりあえず逃るっス!!

シナリオの知らない乙女ゲーヒロインとかバトエン一直線に決まってますし。第一に拙者に務まるはずがないっスよ」

少女は他に誰も居ない屋根裏部屋で呟き見ていた鏡に布を掛けとりあえず少ない荷物をまとめ、明日の為に眠った。

準備を整えた少女が孤児院から飛び出し旅に出た2日後、彼女は孤児院から数キロ離れた森で倒れていた。運良く通りすがった夫婦が彼女を保護し、近くの宿に連れ帰った。

治療を施す為に鑑定魔法を使った夫婦は彼女を看て驚いた。

「娘、名はなんて言う?」

「せ、あたしは捨て子なので正確な名前は分かりませんが孤児院ではチャンサと呼ばれていました」

「ッ!!ロート」

「既に準備は出来ています」

少女が名前を名乗った瞬間、夫妻の疑惑は確信に変わった。夫妻は慌てる気持ちを抑えながら少女に聞く。

「ありがとう。すまないがもう一度孤児院に戻っても良いか?」

「え、嫌です…拙者を孤児院に戻さないで下さい。なんでもやります。どうか孤児院に戻るのだけは…」

少女は慌てた。孤児院にはいい思い出がなく、折角家出という名の自由の身になったばかりだったのでもう二度と地獄の日々に戻りたくなかった。

「言葉が足りなかったな。君を引き取る為に孤児院に向かいたい」

「何故先程会ったばかりのせ、あたしを引き取るのですか?」

「それは貴方が生まれた瞬間、攫われ行方不明になった私たちの娘だからですよ」

「嘘…。何かの間違えではなく?」

「先程鑑定したから間違いない」

「私がかつて持っていた自分の力を残滓でも間違えるはずないですよ」

こうして少女は夫婦に連れられ孤児院へ向かった。


「チャンサ、ずっと部屋に籠っているなんてどういう事つもりだ!!…おや?旦那様方お見苦しい所を見せてしまい申し訳ありません。当孤児院にようこそ。大切な我が子供を送って下さりありがとうございました」

孤児院に着くと院長が門の外にいるチャンサに向かって怒鳴った。しかし、すぐに彼女の後ろにいるシュバルツとロートに気が付き胡散臭い媚びへつらった笑みを浮かべた。

「院長殿、いきなりで悪いが彼女チャンサを引き取りたい」

「院長、引き取ってくれる里親を見つけたので拙者はこの孤児院を出きます」

「巫山戯るな!!…失礼、旦那様。その子を連れ帰って来てくれたのは嬉しいのですがいきなり引き取るなんて急な。大切な子供なので簡単には…」「その子どもが数日孤児院に居なかったのに気が付かなかったのばどちらだ?」

「そっ、それは…第一彼女を引き取るなら相応の金を支払…」「これくらいあれば足りるかしら?」

「〜!!いきなり引き取るなんて言われて彼女も困っているはずです。そうですよねチャンサ」「院長、拙者が行きたいって言いました」

「本人も同意している。早く契約書を持ってきて欲しいのだが」

「うるせぇ!!!!チャンサは、このガキはオレのモノなんだ!!他の誰にも渡してたまるか!!」

笑みは序盤の方で剥がれ、取り付く島もない事を知ると、院長は唾を飛ばしながら少女を自分の所有物だと喚き散らし始めた。

「そうか、残念だ。出来ればこの力を使いたくなかったんだがな」

「何をゴチャゴチャ言ってやがる!!このガキを置いてさっさと消えやがれ!!」

「はぁ、少し当方の瞳を見ろ『闇:催眠』…必要な書類をさっさと持ってこい」

「はい…旦那様…」

シュバルツが院長と瞳を合わせるとどこかボゥとした様子で院長は書類を用意し始めた。

「これで全てだな。必要な荷物は全部持ったか?」

「は、はい。元々荷物も少なかったのでこれで全部っス」

「シュバルツ、こっちは準備できました」

「チャンサ、本当に良いのですね」

「今更この孤児院に未練なんてありませんから」

「お前は当方らの馬車が視野から消えたらこのやり取りを忘れる。良いな」

「では『闇:該当記録削除』これでこの孤児院に君という存在が居たという記録、記憶が全て消された。もし彼らが君を見かけても何処かで会った様な既視感を覚えるだけだ」

「ありがとうございます。えーと、…」

「そう言えば名乗り忘れていましたね」

「当方の名はシュバルツ・アンマーだ。そして彼女は…」

「妻のロート・アンマーです。貴女は今日から私たちの娘、ウムパッ・アンマーです。よろしくお願いします」

「ウムパッ…アンマー…」

「元々当方らが付けようとしていた娘の名だ。気に入らないのなら別の名を考えるが…」

「あ、えっと…ずっとチャンサと呼ばれていたので…照れてしまって。素敵な名前を付けて下さりありがとうございます。旦那様、いえお父様」

「気に入ってくれたようで何よりです。家に帰ったら改めて貴女の兄姉を紹介しましょう」

しかし、数分後シュバルツとロートはどう説明するか頭を抱えていた。

その数日後、孤児院を訪れた聖教会の一団が1人の純白の少女を引き取り国中に天使の生まれ変わり、聖女が見つかったと知らせが新聞の一面を飾った。しかし、その事をウムパッ達が知るのは領地に戻ってからだった。



皆様お久しぶりです、リマですよ。

えっ、そんなに経ってないって?…あぁそうだった、現実ではまだ1週間も経ってなかったわ。

秘密を明かされた夜以降お母様が作った異空間でずっと鍛錬していたのよ。この異空間かなりの自信作らしくて現実の1秒がこの空間では半日に値する仕様だったからさ、要するに皆様とは体感数百年振りです!!

キツい…。ちなみに両親は鍛錬の最中に異空間から出ていってしまって代わりにクロスケが私たちの魔力を使ってポコポコと魔物を生み出していたのを止めてた。何か慌てている様に見えたけどなんだったんだろ?まぁそのお陰で影から闇へ進化した魔力を制御出来るようになったけどね。

( ´꒳`*)人(*´꒳` )イエーイ

そう言えば外れの方にある村の孤児院で天使の生まれ変わり、聖女を見つけたって知らせを新聞で見たんだよね。

確かこの辺りでヒロインも天使として覚醒したんだな〜。そう呑気に思っていた時期が私たちにもありました。



それはいつも通り鍛錬をしていた時だった。両親に呼び出され書斎に行くと私たちの目の前に私たちと同世代の可愛らしい少女と気まずそうに目を逸らすお母様、目頭を抑えているお父様がいた。

「ティガ、リマ君たちに新しい家族を紹介する。彼女は今日から当方らの家族になるウムパッだ。ウムパッ、彼らが君の兄姉であるティガとリマだ。」

「ティガ兄様、リマ姉様。せ、あたしはチャンサ改めウムパッ・アンマーです」

「彼女は…、その…なんと言うか…堕天する前の私の力を強く引き継いだと言いますか…」

「最も天使の力を強く引き継いだが故に女神が気に入り当方らから奪った君たちの妹だ」

言い淀んでいるお母様に変わりお父様が説明してくれた。

なんでもお父様の悪魔を引き継いだ私、堕天したお母様の力を引き継いだ弥生君そして全盛期のお母様(天使)の力を引き継いだ赤ん坊を出産したが、お母様の母、つまり女神がそれを見つけ気に入り奪い去って行った。この際、事故で近くに居た2人の魂も抜けてしまった。女神は2つの魂を適当に亜空間へ捨てて、力を引き継いだ赤ん坊を愛でて自分のモノにしようしたらしい。この時に捨てられた2人の魂を私達が保護しなかったら消滅していたとも言われ咄嗟に守って良かったと思ったよε-(´∀`;)ホッ。

「その気に入られた赤ん坊と云うのが彼女だ」

「あのバ、女神は何度自分の思い通りにする為に人のモノに手を出すんでしょうね(ꐦ ^ -^)」

そう言うお母様は般若の様だった。

あれ、ならチャンサはなんでここにいるんだろ?顔に出ていたのかお父様が続きを話し始めた。

女神が赤ん坊に細工しようとした瞬間、女神の兄でもある邪神の襲撃により持っていた赤ん坊を落としてしまった。しかし落ちた先は運良く?外れの村にある寂れた孤児院だった。赤ん坊はその見た目からチャンサと名付けられ孤児院に引き取られた。

「孤児院では見た目から同世代の子どもから虐められたし、院長も幼女趣味隠してなかったから地獄だったッス、ンンッでした」

「彼女はあの月夜に本格的に覚醒し女神に見つかることを恐れて孤児院を抜け出し道中倒れていた所を当方らが見つけ、事情を聞き今に至るという訳だ」

「兄様、姉様、不束者ですがこれからよろしくお願いします」

こうして私たちは生き別れの妹に出会った。…って、情報量が多いわ!!

「暫く慣れるために彼女の部屋は君たちの隣にしてある。ウムパッ、分からないことがあったら2人に聞くように」

「2人共、頼みますね」

「分かりました」

「それでは失礼します」

ウムパッを連れて退出した。

「ここがウムパッの部屋だよ」

「何か分からないことがあれば聞いてね。そこの紅い石が嵌っているドアが兄のティガの部屋で、もう反対の蒼い石が嵌っているドアが私の部屋だから」

「りょ…コホン分かりました」

混乱しながらウムパッを部屋に案内し、彼女が部屋に入ったのを確認した私たちは慌てて弥生君の部屋に入った。

「どどど、どうしよう早苗ちゃん!?」

「い、一旦落ち着こう弥生君。」

( '-' )スゥーッ↑ハァーッ↓

「…妹いたの初耳なんだけど!!」

覚醒した夜、なんか言っていたような気がするでもないけど意識が朦朧としていたし

「早苗ちゃん深呼吸、深呼吸」

( '-' )スゥーッ↑ハァー↓

「…これからどうするか」

「面と向かって悪魔だって話すのもな〜」

ギャアァァァァア゙ア゙ア゙ア゙アァァ~~~~~!!!!

そう悩んでいると隣の部屋から物凄い悲鳴が聞こえた。

「っ!!今の悲鳴ウムパッの部屋からだったよね」

「何があったんだろ、行ってみよう」

`Д´)ノドンドンドンドンドンドン

「ウムパッどうしたの?返事をして!!」

「聞こえるか?ドアを開けてくれ!!」

……シ───(´-ω-`)───ン……

`Д´)ノドンドンドンドンドンドン

「開けるぞ!!」

「いや、チョッ、待っ!!」

ドアを開けるとそこには月光が差し込む室内で天使がドアに手を伸ばした中途半端なポーズで転がっていた。


「えっと…天使の力を手放したはずなのにこの姿になったと?」

「あ、はい。女神が気に入っていたのはせ、アタシと云う存在よりもお母様の天使としての力だったのでブローチに全部流し込めて庭に埋めて来たっス…だから今のせ、アタシには天使の聖なる力は使えないはずでした」

「あ〜、うん。月光は真なる姿を暴くらしいから、災難だったね」

倒れていた天使ことウムパッを助け起こして事情を聞くと月光の力で手放したはずの天使の姿になっていて思わず叫んだだけだった。まぁ、怪我がなくて良かったよ。

「ずっと気になっていたんだけど、無理に敬語を使おうとしなくてもいいよ。私たち同い年でしょ?」

「次いでに様付けで呼ばれるのも慣れないから呼び捨てかせめてさんにしてほしいかな」

「え…あっ了解っス、ティガ兄、リマ姉」

ウムパッはそう言って照れくさそうに笑った。

あっ、そう言えば

「最近聖教会が天使の生まれ変わりである聖女を外れの孤児院で見つけて保護したって聞いたけど…」

「ナヌッ!?拙者はここに居るっスよ!!いや、チョット待って。もしかしてアイツが埋めるところを見ていて掘り返した?そもそもヒロインなんて拙者には向いてないしブツブツブツ」

薄々思っていたけどキャラ濃〜い。思わず弥生君と顔を見合わせた。

「あ〜、ちょっとごめんね。ウムパッもしかして聖女に心当たりあるの?」

「信じて貰えないかもしないスけど拙者には他の世界で生きた前世、萩月 清和としての記憶を持っているのです。そしてこの世界は拙者の親友がハマっていた乙女ゲームの世界なんです」

「あれは拙者が孤児院にいた頃『なんでアタシがヒロインなのにモブのお前が皆からチヤホヤされるんだよ!!!!』って言っていつも拙者に突っかかってきたアルビノの女子がいまして、まぁ全身女神の色『白』だったから皆んなにチヤホヤされてましたし、ある事ない事周りに吹き込んで手を汚さず拙者に色々吹っかけてきた事ありましたっけ…あぁ、脱線してすまぬな。多分アイツが拙者のブローチを掘り返して天使の力を奪ったに違いないっス!!」

「ウムパッ、とりあえず落ち着け」

「その力を封じたブローチってどんな見た目をしているの?」

「( '-' )スゥーッ↑ハァー↓

確か極光水晶で出来たネモフィラだったはずっスよ。数年前に祭りの露天で一目惚れで買ったもので宝物だったモノだったのに」

「なら自称ヒロインはネモフィラのブローチをつけている可能性が高いのか」

「ティガ兄、リマ姉。拙者の話を信じてくれるんスか?」

「あ〜、その事なんだけど…そのゲームって『可憐な天使と夢見る羊達』でしょ?」

「自分たち2人も清和ちゃん?と同じ転生者なんだ。厳密には違う時空だけど」

「(ㅇㅁㅇ;;)ヘア?!お2人も転生者?!」

「とりあえず改めて、自己紹介しようか。自分はアンマー家長男ティガ・アンマー。そして前世、蘭月 弥生としての記憶を保持している」

「アンマー家長女リマ・アンマーです。私も同じく前世、菊月 早苗の記憶を保持しています」

「え、えぇとチャンサ改めアンマー家の次女になりましたウムパッ・アンマーです…。さっきポロッと言ってしまいましたが前世、萩月 清和の記憶を保持しているっス」

「周りに人が居ない時や内輪で話す時は本名でよびあっているから気軽に名前で呼んでね」

「呼び方は清和ちゃんでいいかい?嫌なら辞めるけど…「いいい、いえちゃん付けバッチ来いっスわ!!こちらこそ弥生氏、早苗氏って呼ばせて貰ってもいいスか?」ありがと、好きに呼んでもらって大丈夫だよ」

「じゃあ私も清和ちゃんって呼ぶね」


「「これからよろしく(ね)。清和ちゃん」」

「拙者の方こそよろしくっス!!」







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