第7話
目が覚めると教会の前だった。どうやら短時間で大量の魔力を消費した影響で魔力酔いを引き起こし気絶してしまったらしい。いつの間にか地下室から出ていた私たちを月光が照らしていた。
「…おぉ、今日は満月が綺麗だな。」
「…本当だ、凄い真ん丸。」
「…灯り要らないな。」
「…そうだね。」
………うん、現実逃避している場合じゃないな('-' )スン。私たちが買い物に出掛けたのが昼近くだったから少なくとも6時間はあの空間にいた事になる。慌ててまだ酔いが残っている身体に鞭を打って身体強化を施してラブハート公爵家の屋敷まで全力疾走で帰った。
「「ティガ、リマ。只今戻りました!!ご心配をお掛けしてしまい大変に申し訳ございませんでした!!」」
ゼェハァ言いながらも屋敷の扉をくぐり抜け旦那様が居るという応接間にスライディング土下座を決めながら入るとそのにはラブハート公爵とメイド長、そして両親が集まっていた。入った瞬間、向けられた冷めきった視線を受け体感温度は零℃だった。
「遅くなった理由を聞こう。…まさか娘の世話を放り出して遊んでいた訳ではないだろうな。」
旦那様がそう言って土下座している私たちを見た。私たちは拉致された事、神託によりお嬢様が狙われていた事、生贄にされかけた事を包み隠さず話した。
「まさか吾の娘に手を出しのが教会で、しかも、赤髪と云うだけで殺されかけたと。衛兵、直ぐに彼らが言った場所を確認してくれ。」
「計画を邪魔されたから今度は私の子ども達を生贄に忌々しい天使を召喚しようとしたのですか、なるほど…。そうですか。」
話が進む事に部屋の空気は冷え、話終わる頃には部屋の空気はマイナスを超え最早ブリザード級に冷えきっていた。旦那様とお父様はなにやら真剣な顔で話し合い始め、お母様は涙目になりながらあなた達が無事でよかったとギュッと私たちを抱きしめてた。その瞬間私たちはお母様の腕の中で思い切り泣いた。いくら前世の記憶があって心が大人でと身体はまだ5歳児なのだ、無意識に気を張っていていたが限界だった。
「今日は疲れたでしょう、もう眠りなさい。大丈夫、私達が傍にいますから。」
しばらく泣いていると眠気が襲ってきてウトウトし始めるとお母様は優しく頭を撫でながら額にキスをしそう言った。重い瞼を閉じた私たちの意識は夢の中へ堕ちていった。
ラブハート公爵視点
ロートが2人に気分を落ち着かせるまじないをかけると直ぐに2人は眠ってしまった。まさか半年前の事件がまだ続いていたとは。あの事件の後、娘の警備は更に頑丈にしたが、手出しができなくなったからと計画を邪魔した娘の召使いを狙うなんて…許せない。そんな事を考えているとノックと共に先程向かわせた衛兵が戻ってきた。
「失礼します。彼らが言っていた教会の地下を調べたのですが…。」
「何があったのだ?」
「地下にいた人間は何者かに全員殺害されており、儀式の痕跡が消されていました。」
「そうか…、ご苦労だった。」
「失礼します。」
「.........シュバルツ、どう思う。」
「…恐らく彼らは捨て駒だったのでしょう。いくら2人の魔力が豊富だからと言っても神を召喚するにしては贄が少な過ぎます。」
「だが何故贄になったコヤツらだけ無事だったのだ?普通ならば逆、魔法陣の内側から吸い取られるものだろうが」
衛兵を下がらせ2人の父親であるシュバルツに問うと険しい表情をして口を開いた。吾はその言葉に無言で頷き、思っていたより深刻な事態だと姿勢を正した。
「失礼します、メイド長に言われ2人を部屋に送るために参りました。」
部屋の空気に気圧されたのだろう、緊張した様子でエイタがやって来た。
「今眠った所だから起こさないように頼む。」
「それなら私も手伝いますわ。」
ティガを抱き上げたエイタを見たロートはそう言いリマを抱き上げようとした時だった。
『ギャーハッハッハッハッハッハハッハッハッハッハッハ !!』
『「それは不完全な召喚術に闇属性の吾輩が引き込まれたからさ」!!』
音の割れたレコードの様な声と共にリマの影から黒い何かが飛び出してきた。
その瞬間全員に悪寒が走った。仔犬サイズのそれは大きい口に肉球と水掻きの付いた手足、そしてなによりも禍々しいまでに強大な魔力その身に纏っていた。
「あ、貴方様がどうして…、どうして当方らの子の影にいらっしゃるのですか?」
『「久しいな、同胞にして眷属よ。そう畏まるな。なにせ吾輩は今この中ではお前らより弱いからな」!!』
シュバルツ達はその存在を知っていたようで恐る恐る声をかけるとそれはけたたましく笑いリマの膝に乗ると眠っていたはずの双子が喋りだした。ティガはいつの間にかソファに座っていて抱き上げたはずだとエイタは自分の腕とソファを何度も見ていた。しかし、その声音は普段の双子の口調とかけ離れており虚ろな表情をしていて目の前の黒い生物が操っている事がひと目で分かった。
「先程の質問に答えて下さい。例え貴方でも私たちの子どもに手を出したならば…」
『「まぁまぁ落ち着け、【紅玉】。いや、今はロートと言ったか。それも含めてお前らに話があるんだが、このままじゃこいつらもそこの人間も限界だろうから場所変えねぇか」』
「っ!!ラブハート公爵、気がつくのが遅くなってしまいすみませんでした。」
目の前の化け物はけたたましく笑った後ふと真面目な声色でこちらの体調を心配するような事を言い双子の膝から降りた。そこで周りの状況に気が付いたのか2人が頭を下げた。まぁ、吾も子の親だから心配なのは分かるがな。正直先程から溢れ出ている魔力に酔いかけていたが、エイタの方が気絶しかけていて魔力酔いが深刻だった。双子を送り届けると名目で場所を移して貰おう。
「吾は心配いらない。だが、そこの召使いがそろそろ限界だ。すまないが双子を部屋に送ってやってくれ。」
「お気遣い感謝します。失礼します。」
意図をくんだ彼らは礼を言い双子を抱え退室した。あの双子は何者なんだ?
とりあえず、まずは目の前で気絶している若造をなんとかせねば。吾はメイド長を呼びエイタの介抱を頼んだ。
ロート目線
「黒様、ロート。この部屋一帯に隔離結界を張ったので自由に話しても大丈夫ですよ。」
「ありがとう、シュバルツ。」
子ども達をベットに寝かせるからとシュバルツが隔離結界を張ってくれていた。流石妾の旦那様じゃ♪…コホン。失礼、素が出てきてしまいました。
『にしても、まさか紅玉と我が眷属の子だとはな。道理で魔力が人間離れしているはずだぜ‼』
『…私達も貴方に再び会うとは思いませんでしたよ、黒玉様。随分愛らしい姿になりましたね。』
『あぁ、本来なら自我の無い凶暴な下っ端が召喚される予定だったんだけどな〜。あの状況下で面白い想像をしてた奴がいたもんだから下っ端が召喚されるには割に合わねぇって割り込んだらこのザマよwww。』
『その姿になったのも自業自得じゃな。ウケる〜ww。』
『お前…、旦那が居ないからって口調崩れすぎじゃねえか。あと、この姿はお前らの子ども達のせいだぞ。これから起こることもな。』
『えっ.....2人のせいってどういう…』
「どうかしましたか、ロート?顔色が優れませんよ。」
「シュバルツ、いい所に!!聞いてくださいな!!」
2人を寝かし終えたのかシュバルツが戻ってきてくれた。慌ててさっき聞いた話をすると彼も青ざめた顔をしていた。
「黒様、一体何が起こるのですか?」
『詳しくは吾輩も知らねぇよ。ただ能力だけはある脳内花畑による予言では紅色を持つの赤ん坊に取り憑いた悪魔が国を滅ぼすとよ。』
「「っ!!」」
「…だからエリザベート様は狙われたのか。公爵に伝えなければ。」
『まぁ、そんなに慌てるな我が眷属。吾輩を召喚した時点で教会の力はしばらく弱まっただろうからな。ところでお前らに聞きたいことがある。コイツらは何だ?』
「私たちの大切な子どもです。」
「害するならば例え貴方様でも容赦しません。」
『わかったよ。まぁ、今の吾輩はコイツらの下僕だしな!!』
「ありがとうございます。」
「何かあったら守ってくださいね。」
えぇ、本当に大切な、二度と手離したくない大切な子達ですよ。
・
・
・
・
夢を見た。
それは教室の様な空間で私と弥生君が椅子に座っていて、教卓に立つ黒い人影と喋る夢。
『起きたか、混じりし子達よ』
人影が口を開いて言う。
『ほぉ、中々に面白い形をしているな』
「はぁ…どちら様でしょうか?」
「ここはどこですか?早く帰らないと」
『そう焦るな。
まず吾輩はこの世界で女神の対となる存在、邪神【黒玉】と呼ばれるモノだ、今は力が衰弱していてそこの小娘が【クロスケ】と呼ぶモノになっているがな』
…そんな目で見るの止めて、弥生君。流石にもっとマシな名前あったなって思っているから。
『主であり、姪と甥のお前らには吾輩の力を取り戻すのを手伝って欲しい。幸いにも吾輩との相性も良いようだしな』
そう言って黒い人影は笑った(気がした)。
「えぇ〜自分たちにメリット無いじゃないですか」
『拒否権は無いが、お前らのメリットならあるぜ。吾輩に協力すれば破滅を迎える少女を救えるぞ』
「なんでそんなこと知ってるの?!」
思わず反応しちゃったけど、人影から図星か…みたいな視線を感じる!!
『仮にも邪神だからな、それくらい朝飯前だ』
表情見えないけど当てずっぽうじゃん!!悔しい〜(;`皿´)グヌヌ
「まぁまぁ、続き聞こうよ」
『救えるのは嘘では無いから安心しろ。吾輩は身内には甘いと評判なんだぜ』
うわぁ〜怪しいわ(⚭-⚭ )
思わず半目で人影を見てしまう。
『そこ、疑いの眼差し向けるんじゃ無ぇよ!!…まぁ、とりあえずこれからよろしくな、主たち』
数日後目が覚めた私たち、リマ(早苗)とティガ(弥生)に纏わる衝撃の事実を聞かされ、この事が今後の行動に影響を与えることをまだ私たちは知らなかった。
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