第5話

研修から半月たった頃、旦那様に呼び出され、書斎を尋ねると旦那様とメイド長がいた。

「今日まで研修ご苦労だった。本当は研修期間を1ヶ月に予定したが、君達の働きからもう仕事の内容は覚えていると報告がきておる。なにより良い結果を残しているようじゃないか。明日から娘の世話を頼む。あれを2人に。」

旦那様はそう言うとメイド長が真っ赤なリボンとネクタイを私たちに付けた。これがお嬢様専属の側仕えとしての証らしい。ちょっと嬉しくてニヤけそうになるのを我慢した。という訳で研修期間が終わりましたよ(*^^*)。

…ところでエイタ先輩、凄い疲れた顔していたけど大丈夫かな?

「別にいいが…。明日用意して届けさせる」

「ありがとうございます、旦那様」

そんな事を考えていたから私は聞いてなかった。隣の兄が旦那様にお願いしていたことを…。



「今日からエリザベートお嬢様専属の側仕えとして仕えさせて頂くティガと申します」

「同じくエリザベートお嬢様に仕えさせて頂く事になりましたリマです」

「あなたたちがおとうさまがいっていたあたらしいせわがかりね!!あたくしの言うことはぜったいなのですわ!!わかった?」

「「はい、エリザベートお嬢様」」

「それと、あたくしのことはエリザとよぶことをとくべつにきょかしてあげるわ!!」

「「はい、エリザお嬢様」」

どうも、エリザ様の世話係になりましたリマさんですよ〜。旦那様も言っていたけどエリザお嬢様事件の事がトラウマになってあまり覚えてなくて、私たちの事初対面だと思ってるらしいのよ。幼い娘の思いつきで忘れているとはいえ、私たちをエリザベートお嬢様の側仕えとして雇った理由は簡単

「バターをたっぷりつかったパンケーキがたべたいわ(早朝4時)」

「ひまだわ!!なにかおもしろい話をしなさい」

「あたらしいドレスがほしいわ」etc…

ワガママで世話係が長続きしないからである。旦那様も奥様もお嬢様の誘拐から若干過保護になり要望を聞くように言われたが彼女の鋭い目付きに怯えて辞表をだす人が耐えなかったらしい。

まぁ私たちにとってはちょっとツンとしていて仔猫みたい瞳だなって印象が強いけどね。

私たちは厨房の1スペースを借りてパンケーキを作り(バターから手作り)、前世でハマっていた芸人のネタを2人でやり(大爆笑だった)、ドレスは前世で観た漫画の記憶を頼りに似たデザインの服を作ったりと前世の知識をフル活用し対応していった。そうこうお嬢様の要望を叶えていく内に2ヶ月が過ぎた。その日の夜いつも通り2人でエリザお嬢様の寝る支度をしているとベットに入った彼女が照れながら私たちに話しかけてきた。

「ティガ、リマ。かわいいメイドが2人仕えてくれるなんてあたくしはなんてしあわせなのかしら( *´艸`)。みんなすぐにいなくなってさみしかったの。あしたもよろしくですわ……zzZ( ¯꒳¯ )ᐝ」

そう言いお嬢様は眠りについた。…さすが乙女ゲーの主要キャラ、顔が国宝級。寝顔だけで疲れが吹き飛んでしまった。弥生君と一緒にニヨニヨしながら見ていたが明日もお嬢様の要望に答える為の仕込みは残っているため静かに部屋を出た。


「…ねぇ、お兄様よ」

「なんだい、妹よ。寝れない?」

「いや、そうじゃなくて弥生君、ずっとスルーしようかずっと迷ってたんだけどさ、…なんで女装なの('-' ).........。

なにかに目覚めた?」

お嬢様専属の側仕えになって1ヶ月半、遂に我慢出来なくなり私は仕切りの向こうにいる兄に尋ねた。正直、ずっと触れないようにしようかずっと迷ってはいた。想像してみてよ、朝起きて服を着替えたら執事服着ているはずの兄が自分と同じメイド服を着ていたんだよ!驚くでしょ!!

「あぁ…初めに訂正するけど、これ趣味じゃないから。」

「なら、どうしてそんな格好しているのよ?」

「自分たち影を媒体にする魔法を主にしているだろ。だから執事服だと影の体積が小さいと思ったからこの前旦那様に頼んだんだ。」

「ふーん、思い切り良過ぎない?」

「前世からの取り柄だよ。明日も早いだろ、おやすみmy sister。」

「そっか、弥生君がいいならいいや。おやすみmy brother。」

その夜闇の中を彷徨う小さく弱々しい黒い光の夢を見た。何故か私はその光を護りたくて、その光に向かって手を伸ばした所で目が覚めた。


それから半年が経ち、兄の女装姿にも慣れ始めた頃、エリザお嬢様が数枚の紙束を持ちながら私達に言った。

「ティガ、リマ!!このはなしをよんでほしいの。えほんのかげにあってずっときになっていたのにだれもよめないの!!」

「わかりました。…...…え、これって…」

「お嬢様、すみません。少々時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「…よめないの?(´・_・`)」

「いえ、少し難しい言語なので少し時間がかかるだけです。」

「わかったわ。なら、このほんをよんでほしいわ!!」

不安そうにしていたお嬢様は訳せると聞いて機嫌が治り本棚からお気に入りの絵本を持ってきて読んでとせがんだ。ホッとすると同時に私たちは密かに冷や汗を拭った。

お嬢様が持っていたのはレポート用紙に

“日本語で”綴られた手書きの物語だった。


『今よりずっと昔、女神がこの地にいた頃の話です。…』


『女神は自身の能力に自我を与え、自身の子である天使を作り出し、天使は母である女神と同じように気に入った人間にその祝福を授けていた。後にこの祝福を直接授かった人間を貴族と呼ぶようになった。ある日、天使の1柱が人間に恋をした。彼女が恋をしたのは、少し平べったい顔、薄汚い身体、黄色が混ざった肌、筋肉もそこまで無くイマイチ冴えない印象の奴隷の青年だったが、人一倍優しく、努力家の彼の事を天使は心の底から愛していた。しかし美しいものが好きな女神は冴えない青年の事を嫌悪し、末娘に手を引くように言ったが天使は彼に自身の初めての祝福を与えてしまう。激昂した女神は末娘を宝石に変え、彼女を身につけ青年の醜さを見せるため彼を誘惑しに行ったが、彼は女神の誘惑にはかからず一途に天使の事を想っていた。宝石に変えられその姿を共に見ていた天使はとても喜んだが、それをよく思わなかった存在がいた。それは粗探しをしていた女神だった。女神は青年を●し、「もうこんな欠陥品に祝福を与えてはいけないよ」と青年のタヒ体を闇の底へ捨て、宝石から人型に戻した天使に言ったが、人型に戻った天使は泣きながら躊躇わず闇の中へ飛び込み、バラバラになった青年のパーツを一生懸命集めだした。てっきり自身の愚かさに気が付き、感謝されると思っていた女神はその様子を見て「私の娘は素直で完璧で私の言う事は何でも聞いてくれて、こんな思い通りにならない出来損ないじゃない。」と天使ごと闇を葬ってしまった。』



その夜私たちは2人でレポート用紙の内容を読んだけど、なんというか…酷っ!!

お嬢様の読んでいる絵本に神話みたいなのあったけどこの話は無かったはず。例えあったとしてもお嬢様に言えねぇ。そもそもこの世界の文字は鏡写しになったローマ字みたいなのが主流だから日本語で書かれた文書なんて異質なんだよ。弥生君と冷や汗を流しながらレポート用紙を認識阻害を掛けながら箱に入れ私の影にしまった。お嬢様にはなんて伝えよう。


.........結局、後半の女神の場面を全カットして天使と人間の若者の恋愛話としてお嬢様に話すことになったけどね。

べ、別にお嬢様の曇りなきキラキラした瞳に負けた訳じゃ無いんだからね!!=͟͟͞͞(//`^´//)フンッ


お嬢様の側仕えとして仕え始め早くも1年が過ぎようとした頃、事件が起こった。

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