第42話

【はしがき】

茜に対抗して京弥にデートを申し込んだ彩美。

二人はボーリングを楽しんだ後、次の行先を考えながら夕暮れ時を歩いているのだが……


「あはは!ねー見てよ。こんな豪快にコケることってある?」


「……もういいだろ。そろそろそれ消してくれよ」


「やーだね。だってこんな動画もう撮れないでしょ?」


彩美と並んで歩くボウリングの帰り道。

俺はさっきからずっと同じ動画を見させられている。

俺がボールの重さにつられて、大きく転倒した動画を。


「もう絶対お前とはボウリング行かないわ」


「ダメですー。もう動画撮ったりしないからまた一緒に行くわよ」


「……その時は俺に拒否権無いんだろうな」


「あら、よく分かってるじゃない」


ここ最近、茜とばかり遊んでいたからか彩美との会話が凄く新鮮に感じる。

彩美も同じなのかいつもより声が上ずっているように思えた。


「ほんと一投目だけだったよな。彩美がしくじったの」


「そうね。だからなんでアンタがあんなにミスしてたのか分からないわ」


「いちいちディスで返すな。褒めてるんだから」


「あら、私が面と向かって悪態をつくのなんてアンタくらいよ?逆に光栄に思いなさい」


「はいはい。そうですね」


体育祭から数ヵ月が経ち、俺たち三人の仲はだいぶ深まっていると思う。

でも確かに、彩美は茜に100%素を出しているかと言われるとまだ首をかしげてしまう。少しずつ改善はしてるんだけど。


「夕飯はどうする?どっかで食べて帰るか?」


「あーそうね、私はいつものファミレスで大丈夫よ」


「そ?じゃあとりあえず駅に行くか」


いつもファミレスと聞いて少し安心。

今日はデートなのか、と身構えた自分を脳内で静かにデリートする。


「あの動画茜に送るなよ?絶対バカにされるから」


「え、もう送ったわよ?」


「は?!ちょ、今すぐ送信取り消し―」


「あはは!嘘に決まってるじゃない……折角のの思い出なんだもん」


「え、思い出?」


彩美の言葉にさっき削除したはずの自分がまた顔をのぞかせる。

さっきよりもその存在を強調してはっきりと。


「なんでもないわ。あ、ファミレス代は京弥の奢りね。ボウリングで負けたんだし」


彩美は、話を遮るように数歩前に出ると頬を赤くしながらそう言った。

いつもなら奢りってところに反応するんだろうけど、今はそれどころじゃない。

いやに二人の部分を強調したそのフレーズが全然頭から離れてくれないから。


「……別いいけど、あんま高いもの頼むなよ」


「それはついてからのお楽しみね。まぁアンタの懐事情はあらかた分かってるから安心しなさい?」


「なんで分かってんだよ。怖いよ」


いつも通りの会話が始まったので、足を速め彩美の隣に並ぶ。

いつもよりも少しだけ、肩の距離が近いような気がした。

【あとがき】

読んで頂きありがとうございます。

三か月振りの更新となってしまいましたが、これからは定期的に投稿していく予定です。

まだ、読んでくださる方がいらっしゃったら是非、★や♥、コメントを頂けると嬉しいです。

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