第41話

「ボウリングって靴も専用のものがあるのね。知らなかったわ」


「普通の靴でも出来るって思いがちだよな。俺今でもそう思ってるし」


「あら、じゃあやってみる?意外にバレないかもよ?」


「……もうシューズ借りてるから。そんな意味ないことしないよ」


三人用の椅子の真ん中を開けて、二人で座る。

目の前にはボールリターンがあり、そこには事前に選んだボールが置いてある。

表示されている得点表の名前欄にはA,Bと書かれていた。


「で、どっちから投げるの?」


「先いいよ。俺まだ準備できてないし」


「そ、それを言うなら私も出来てないから。アンタから投げなさい」


「「………」」


かれこれ五分ほど、どちらが先に投げるかで静かな戦いを繰り広げている俺達。

そもそもこんなの申し込み段階で決めるものなのに、そこでも渋ったから名前表記がA,Bになってるんだ。

周りからの目が少し痛い。


「あ、そういやこの前の理科の小テスト。彩美の評価って何だった?」


「いきなり何よ。Aだったけど……アンタは?」


「俺Bだわ。お、ちょうどいいし俺Bの方で投げるよ」


「ちょっと!それは卑怯じゃない?私だって取りたくてA取ったわけじゃ……いや取りたくて取ったわね」


「じゃあいいじゃん。ほら投げなよ」


「むぅ……しょうがないわね。私からいってあげる」


多分二人とも先に下手くそな姿を見せたくなかったんだと思う。

まあ俺はともかく彩美はそつなくこなしそうだけど。


「あんまりじっくり見ないでよね。恥ずかしいから」


「おう、頑張れよ」


彩美はそう言って俺に背を向けた。

俺はそれを見計らいスマホを取り出した。


「よし!」


気合を入れるためかそう声を出した瞬間に動画の撮影ボタンを押す。

開始の音が鳴ったがバレてないみたいだ。


歩幅を合わせるように軽い助走を開始する。

小刻みなステップからボールを持った右手を後ろに引き、流れるようにリリースに持って行く。

あとはピンに向かってボールを放つだけ……だった。


「ガコンッ」


鈍い音が耳に届く。

割とうるさいボウリング場でもその音だけは鮮明に聞こえてきた。


ボールが綺麗にガターを転がっていく中、彩美はただ呆然と立ち尽くしている。

俺はそんな姿を見て笑いをこらえるのに必死だった。


「ねぇ」


「ん?どうした?」


「今の見てないわよね」


「おう。見てないぞ」


「へーじゃあその私の方を向いているスマホは何かしら」


「………え?」


真っ赤な顔をした彩美が鬼のような形相でこちらを振り向く。

俺は慌てて録画終了のボタンを押しスマホをポケットにしまった。


「ほら!やっぱり動画撮ってたじゃない!」


「いやいや気のせいだって。たまたまスマホ見てただけだよ」


「ふーん、ならアルバム見せなさいよ。撮ってないなら見せれるでしょ?」


「撮ってなくてもそれはプライバシー的にダメだよ?!」


「…………確かにそうね。ごめんなさい」


そこは引いてくれるのか。

こういうところ育ちが良いというか元の性格が出てる気がする。


「ていうかよく考えたら理科の小テストで順番きめるってなによ!全く関係ないじゃない!」


「丁度いいかなーって。まあまだ最初の一投だし次あるよ。ほらスペアチャンスだ」


俺はそう言って得点表を指さす。

そのタイミングで計ったようにボールリターンに彩美のボールが運ばれてきた。


「ふん。いいわよ、やってやるわ。その代わりその動画消しなさいよね!」


そう言い残し彩美は再度、ピンに向かってボールを投じた。

うん、分かってた。

フォーム綺麗だし最初の一投は慣れてないだけだって。


彩美が放ったボールは糸を引いているかの如くピンに向かって進んでいき全てのピンを薙ぎ払った。


「やった!ねえ見た?見たわよね京弥!」


「うん。しっかり見てたよ。凄いな」


「でしょ?もーこっちを動画撮ってなさいよ」


彩美はテンション高く帰ってきたかと思うとすぐにスマホを取り出した。


「え、なにしてんの?」


「なにって動画だけど」


「………俺も撮った手前、するなって言えないじゃん」


「ふふん。ほら早く投げなさい」


まぁ一回くらい上手くいくこともあるだろう。

スマホを構える彼女を背に俺は助走を開始した。


【あとがき】

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