第33話

『ほらほら後ろ来てるよー!抜かれるなー!』


希月さんの声援に校庭中から笑いが起きる。

ほとんど全員が、リレーよりも俺と希月さんの掛け合いを注目している。


ちなみに金自先輩がいい感じで壁になっているみたいで教師は止めに来ない。

個人的には今すぐに止めて欲しいんだけど……


『あと半分よ!茜のためにも差を広げなさい!』


「ちょ、彩美?私そんなに差がなくても大丈夫だし!足速いからー!」


反対側のトラックでは、希月さんの横にいる茜が元気に突っ込んでいる。

可愛い2人の馴れ合いに更に、校庭は湧きに湧いた。


ちなみにうちのクラスもしっかりと盛り上がってみるみたいだ。

一部を除いて。


『京弥ラスト!』

「らすとー!」


最終コーナーを曲がり、直線に入る。

ギリギリだが、一位でバトンを渡すことができそうだ。


「茜!」


次の走者の名前を呼ぶ。

だが、茜は走り出すことなく、代わりに彩美からマイクを奪い取った。


「え、茜?」


もう走り出さないと流れ良くバトンパスすることが出来ない。

焦りの中、茜の名を呼ぶと彼女はニヤリと口角をあげた。


『そーいえば、彩美が男子のこと名前で呼ぶなんて初めて聞いたなー!どんな関係なんだろー!』


「ちょ茜なにいって―ってマイク投げるなー!」


希月さんの怒号虚しく彼女は助走を始める。

会場は女子の黄色い声援と男子の悲鳴で溢れていた。


「茜!」

「はーい!」


スムーズなバトン渡しで茜が走り始める。

俺はすぐに希月さんのところへ向かった。


「希月さん?どういうことか説明してくれるよね?」


キャーという女性の声と怒号が更に大きくなる。

俺が希月さんに近づいただけでこの反応だ。

マジで茜やってくれたな。


「い、いまだと悪影響でしょ?後で話すから」


希月さんは俺の顔を見ようとせず、下を向いてそう答えた。

だが、耳まで真っ赤になっているのがはっきりと見えた。


「そんな顔真っ赤になるくらいならやらなきゃいいのに」


「う、うるさいわね!なんかテンション上がっちゃっただけだもん」


「だもんって……金自先輩が先生たちを足止めしてたしこれが作戦なんだろ?ならこんな反応になること予想できたじゃん」


「ち、ちがう。確かにマイクを使うことは作戦のうちだったけど」


「けど?」


希月さんは未だに俺から目を背けている。

ここまで煮え切らない態度は初めて見た。


「名前で呼んじゃったでしょ?それが誤算だなってだけよ」


「……あ」


言われて思い出した。

そういえば彼女ずっと京弥って呼んで応援してくれてた。


「ごめん」


「別にいいのよ」


校庭の真ん中で2人して黙りこくる。

校庭中の声援が耳に入らないほど、心臓の鼓動がうるさくなっていた。


【あとがき】

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