第31話
『次は男子200m走です。出場する生徒は入場門に集まってください』
校庭のスピーカーから放送係のアナウンスが聞こえる。
作戦開始の合図だ。
「茜。これ女子に回してくれる?」
「え、うん。別にいいけど……なにこれ」
「えーっとね、俺も中身分かんない。希月さんからの伝言なんだ」
茜は首をかしげながら、レコーダーを受け取った。
そして流れるように、イヤフォンを耳にあてがった。
「ちょ、ストップストップ!茜は聞いたら駄目だって!」
「えーなんでよ。ヨッシーも中身知らないんでしょ?なら一緒に聞こうよ」
疑いの眼差しが突き刺さる。
確かに、俺の行動は不自然だがあの音声を茜に聞かせるのはまずい。
「えーっと……希月さんが、聞かせるなって。うん、言ってた」
「……彩美が言ってたなら、別にいいけど」
茜はそう言って、踵を返し女子の塊の方に歩き出した。
俺もホッと胸をなでおろし男子が集まっているところへ足を向ける。
一体、どういう反応になるんだろうか。
***
「すいません。ありがとうございました」
音響係のテントを出て頭を下げる。
金自先輩にレコーダーとイヤフォンを返したので、作戦の第一段階は終了だ。
正直な話、男子の反応はよく分からない。
やっぱりあいつらだよな、みたいな雰囲気はあったがそれ以上は掴めなかった。
けどまぁ、希月さんのことだし考えがあるに違いない。
金自先輩も悪魔みたいな作戦だって言ってたくらいだし。
そんな事を考えていると、目の前に見知った後ろ姿が見えた。
小走りして、横に並ぶとやはり彼女だった。
「希月さん?何してるのこんなところで」
「あら、吉河くん。朝ぶりですね」
「……久しぶりだね。裏月さ―って痛い?!」
声をかけて早々、わき腹に手刀が入った。
希月さん、意外と力強いんだよな。
「裏月呼びやめてって言ったわよね?それ破ったんだから痛い思いして当然よ」
「いや二人きりだしいいじゃ―痛いって?!」
「普通に生徒テントの後ろだから。少しは考えなさい」
「……だからって手刀もダメだと思うけど」
「何か言いました?」
都合よく笑顔の仮面をはりつけ、返事をする希月さん。
知り合ってすぐの時は、ストレスが溜まって裏で悪口書いてたくせに今ではその仮面をいいように使ってやがる。
『スウェーデンリレーに出場する生徒は入場門に集まってください』
「入場門いこっか」
「そうね」
二人並んで、入場門に足を向ける。
なんだかんだ学校で並んで歩くのは初めてかもしれない。
「練習の時みたいにこけないでね」
「ちょ、あれはアンタのせいでしょ?」
「いーや違うね。希月さんの手が短かったんだよ」
「うわー女子に向かってそんなこと言うんだー。ノンデリ男子は嫌われるわよ?」
「……すいません」
嫌われるって言われたら黙るしかないじゃないか。
しかも希月さんから言われたらなおさら。
「あ、金自先輩から聞いた?」
「聞いたよ。レコーダーは全部回し終わった」
「そっか。じゃあ後は楽しむだけね」
「それさ、なんでリレー楽しむことが作戦の中に入ってるのか分からないんだけど」
俺がそう言うと希月さんはが俺に笑顔を見せた。
「別にアンタは気にしなくていいのよ。私と茜と思い出が作れるのよ?喜びなさい」
「何でそんな上から目線なんだよ……」
どうやら意図は教えてくれないらしい。
なら俺は、彼女を信じるだけだ。
【あとがき】
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