第30話

「あのー、ちなみにその作戦の中に俺って入ってます?」


「ん?当たり前じゃないか。君がまずは先頭を切るんだ」


「えぇ……」


俺が希月さんから頼まれていたのは、茜を復帰させることだけだったはずだ。

まぁ、どうせこうなるんだろうって心の何処かで思っていたんだけど。


「具体的に何をすればいいんでしょうか。俺何も聞いてないんですよね」


「君の役目は二つだ。一つはこのレコーダーとイヤホンをクラス全員に回すこと」


金自先輩はそう言って俺に複数個のレコーダーとイヤホンを渡してきた。


「これ聞いていいやつですか?」


「勿論。と言ってもこの中に入ってるのは君が入手した音声だけどね」


俺が入手した音声なんてあっただろうか。

すこし疑問を持ちながら俺は、イヤホンを付け再生ボタンを押した。


『ほんっとに昨日の反応は傑作だったよな』


『それなー。すっきりしたわ』


『てか五六の件ってマジなの?彼氏がいたことは噂になってたけど』


『え?知らね。でもあんな容姿だしどうせヤリマンだろ』


『まーそうだよな。あ、そうだ。今回の件許してやるから一発ヤらせろって言ったらいけそうじゃね?』


『確かに!お前頭いいな』


これのことか、と納得する。

確かにこれは俺が撮ってきた音声だ。

この数日、色々なことがありすぎて忘れていた。


「了解です。でもこれ回してたら途中でバレそうじゃないですか?」


「大丈夫だ。あの二人は男子200m走に出るだろう?その時に全員に回すんだ」


「なるほど……。で、もう一つの役割は?」


「スウェーデンリレーで楽しむこと、だそうだ」


「………は?」


ついに希月さんの頭がおかしくなったのだろうか。

うん。きっとそうに違いない。

連日、体育祭の練習や仕事に追われて気が動転してるんだ。


「大丈夫だ。これはボクにも意味が分からない」


「で、ですよね。取り敢えず自分の仕事は簡単そうなんでいいですけど」


俺の仕事は、レコーダーを回すこととリレーを楽しむこと。

レコーダーさえ回し終われば、ほとんど完了したようなものだ。


「あ、回し終わったレコーダーはどうすればいいですか?」


「ボクのところに持ってきてくれ。音響係のテントにいるから」


「了解です」


金自先輩と別れ、レコーダーの入った袋を持って茜のところへ戻る。

俺が彼女の横に座ると、茜はぷいっと顔を逸らした。


「茜?どうかしたの」


「べっつにー?ヨッシーが私を無視して知らない人のところに行ったからって拗ねてませんー」


「知らない人って……茜の元カレなんだろ?」


「そこじゃない!突っ込むところそこじゃないから!」


茜はそう言いながら、ぐいっと俺に顔を近づけてきた。

若干、頬が赤くなっているのにドキッとする。


「えーっとじゃあどこでしょうか」


「しらなーい。ヨッシーは乙女心ってもんをもっと勉強した方が良いんじゃない?」


「乙女心って…しょうがないじゃないか。今まで彼女なんていたことないんだし」


「ほんと!?」


更にグイッと顔を近づけてくる茜。

頬が赤くなっているのに加え、鼻息も荒くなっている。


「ほ、ほんとだよ」


「ふーん。なら許す!」


茜の態度はよく分からないが、笑顔でこちらを向いている彼女を見ていると、そんなことどうでもいいように感じてきた。


【あとがき】

読んで頂きありがとうございます。

是非、ぽちっと♥(応援)よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る