第27話
「雨降りそうだな」
「…ん。そうだね」
校内が特別な空気感に包まれる中、俺は伊織と共に廊下を歩いていた。
体育祭当日。
本来なら降りそうなまま執拗に曇った雲がうっとおしいはずだが、今日はなんだか喜ばしい。
「やっぱ視線きついかな。謹慎明けに学校に来るなんて初めてだからめっちゃ怖いんだよね」
「…知らない。謹慎になったことないし」
「だよなぁ」
教室へ近づくほどに、俺を見る視線が増えている。
どんな感情を持って目を向けているかは分からないが、注目の的にされていることは確かだ。
「うわー、まじで教室入りたくない」
「…知らない。開けるよ」
「え、ちょ伊織?」
教室の前に着くや否や伊織はドアを力強く開け放った。
ガタンと強い音が鳴り、教室中の視線がこちらに向けられる。
「伊織さん?なにやってんのかな?」
「……別に堂々としてればいい。京弥は悪いことしてない」
「お、おう」
伊織の言葉に押され、教室内へ一歩足を踏み入れる。
だが、堂々としてればいい、胸を張って行こうと思えたのは一瞬だった。
「おい、来やがったぞアイツ」
「何しに来たんだよ。犯罪者さんよー」
視線を向けるといつものように教壇にたむろしながら、ニヤつく彼らの姿が見えた。
ただ、二人とも顔やら腕やらに包帯や絆創膏を張っているところが妙な締まらなさを出している。
「なんだ無視か?まあそうだよなーお前が悪いもんな」
「俺たちが訴えればお前暴行罪で捕まるんだもんな。感謝しろよー?」
今いるクラスメイトは何の反応も見せずに一方的な会話を聞いている。
多分、どちらの側に着くかで迷っている状態なんだろう。
今の
松村と阪木が悪いのは明白だが、だからと言って俺がやったことを肯定するのもよくない。
そして、こういう状況を変えられるのは当事者かクラス内で影響力を持っている第三者かだ。
だから彼らは俺が教室に入ったと同時にあんなことを言ったのだろう。
「……なんか面白いな」
なんだか彼らが急に滑稽に思えてきた。
自分たちが有利にしたいがために、朝早く来て俺のことを待ち続けていたなんて不格好すぎる。
いつのまにか丸まっていた背中は伸びていた。
「あ、ヨッシーじゃん!おはよー!」
「ちょっと茜?横でいきなり大きな声出さないでよ。うるさいから」
「えーうるさいって酷いなー。朝の挨拶は元気よくいかないとじゃん」
それにも限度があるでしょ……と希月さんはため息をつきながら教室に入ってきた。
その後を、こちらを見てニコニコしている茜が続く。
「お、おはよう二人とも」
「おはよう。朝から散々なことになってるわね」
「しょうがないよー。だってヨッシー謹慎してたんだから」
「茜もひとのこと言えないでしょ。学校来てなかったんだから」
「えーだってそれはあんな事があったからじゃん」
そう言いながら茜は
「あ、阪木くん。先ほどの発言間違ってましたよ?」
そして、茜に続くように希月さんが阪木の名前を呼ぶ。
その声量は教室全体に行き渡るくらいだ。
「……あ?なんだよ」
「吉河くんが捕まるとしたら暴行罪ではなく傷害罪です。それに、あなた達も茜が訴えれば名誉棄損で捕まるってことと忘れないでください」
「……行こうぜ」
バツが悪くなったのか、彼らは教室から出て行った。
何となくだが、クラスの空気がこちらに寄ったような気がした。
「言い返してくれてありがと」
「別にあれくらい感謝しなくてもいいから。早く更衣室行って着替えてきなさい」
「お、おう」
希月さんに言われて俺も教室から追い出される。
「もー彩美も素直じゃないなー」
「茜?うるさいですよ。その口を塞いでください」
「え、あれ?彩美が敬語に戻っちゃった。ちょっとーため口にしてー」
なんて会話が聞こえてきた。
【あとがき】
読んで頂きありがとうございます。
ちなみに暴行罪より傷害罪の方が法定刑が重たいです。
(勘違いさせたままのほうが良かったかもですね……)
過去作を再編集して投稿しています。
読んで頂いたら嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます