第23話

「ここであってるよな?」


見慣れない住宅街の一角。

15階建てマンションの一階で俺はそう呟く。


不安なままエントランスを通過しエレベーターに搭乗する。

そして五六さんの住んでいるという701号室の前に到着した。


『ピンポーン』


玄関のチャイムを鳴らし、返答を待つ。

緊張しながらインターホンを見つめていると、視界の端が一気に華やいだ。


「ヨッシーじゃん!おはよー!」


「お、おはよう。五六さん」


「なにしどろもどろになってんだよー。早く入りなよ!ほらほら」


五六さんに招かれるまま、玄関で靴を脱ぎ部屋の中へ入る。

ただ、女性の部屋に入る緊張よりも驚きの方が強かった。


「五六さん元気だな……」


「ん?なんか言った?」


「いや!何もないよ」


てっきり相当のショックで寝込んでいるものだと思っていた。

が、俺を出迎えてくれた五六さんはいつもの彼女のように見える。


教室での件、意外と気にしていないんだろうか。


「あ、これお菓子持ってきたんだけど」


「マジ?えーありがと!一緒食べよ!」


こちらを振り返り笑顔を振りまいてくれる五六さん。

一見、いつもと変わらない可愛げな表情だが、俺は少しの違和感を覚える。


目下にうっすらが見えているのだ。


改めて見ると、五六さんは化粧をしている。

多分、悪い顔色を隠すために。


「やっぱ気にしてるんじゃん」


五六さんには希月さんから俺が今日来ることや暴力沙汰を起こしたことを伝えているらしい。

なので五六さんもなんとなく俺が来た理由は分かっているだろう。


「それでも隠そうっていうなら……別にいいか」


本人が話したくない事を無理に聞き出すのは、逆効果な気がする。

目の前で、早速お菓子を広げている彼女を見て俺はそう思った。


「ね、五六さん。何して遊ぼうか」


俺は出来るだけ元気に、五六さんに問いかけた。


***


『はいはーい。ちょい待ちー』


3日目になると慣れたもので、緊張せずにインターフォンを押すことが出来る。

スマホを眺めながら待っていると、内側からカギが開けられた。


「入って入って。早くゲームやろうぜー」


「おう。お邪魔しまーす」


茜に迎えられ、そのまま部屋に入る。


「今日も昨日の続き?」


「そそそ。今日こそ宝玉をドロップさせないとだからね」


「……茜って意外と諦めが悪いよな」


初日に彼女から受けた提案は、ハンティングゲームのお誘いだった。

第一印象は意外だったが今は違う。


茜の部屋には、普通に少年漫画が置いてあるし沢山のゲームが散乱している。

聞くと親がサブカル好きだそうでその影響を受けているらしい。


「てか、今日その格好なの?」


「え、うん。なんかおかしいっけ」


「……それパジャマだろ」


俺がそう指摘すると、茜はペロッと舌を出した。

本当に顔が良いってずるいと思う。

こんな表情されたら許してしまいそうになる。


「せめて着替えろよ。来客中だぞ?」


「えー、別いいじゃん。ヨッシーだし」


「初日はちゃんとしてたく—」


「も~細かいことはいいから!」


バシンと背中を叩かれ、そのまま部屋の中に強引に引っ張られる。

それから3時間ほど二人でゲームをして遊んだ。


茜が画面に集中している中、何度か顔色を窺ったが初日のようなクマはない。

少しは気が紛れてるみたいだ。


「ね、さっきからチラチラこっち見てどうしたの」


「え、あー腹減ったなーって」


「確かにもうお昼だもんね。どうしよっかコンビニでも行く?」


「いや外出るのめんどい」


「だよねー」


取り敢えず買ってきたお菓子を開け机に広げる。

また、ゲームを再開するのかと思ったが茜は俺の方をじっと見つめてきた。


「どしたの」


「結局、最後の日になっても何も聞かれなかったなーって」


勿論、とは例の教室の件だろう。


「……聞いた方が良かったかな」


俺がそう問いかけると彼女は首を振った。


「ううん。この三日間は嫌なこと忘れて過ごせたから。すっごいありがたかったよ」


「ならよかった」


「でもさ、今日で一応最後だし……ヨッシーには話しときたいなって」


部屋が段々と暗くなっているような錯覚に陥る。

俺は、彼女にかける言葉を探し回っていた。


【あとがき】

読んで頂きありがとうございます。

次回更新は、7月7日の予定ですので、是非楽しみにお待ちください!


また、皆様からの♥(応援)がとても励みになります。

ぽちっと押していただけると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る