第17話

「ヨッシーいっけぇー!」


背後から五六さんの声援が飛ぶ。

多分、横で希月さんも見てくれてるはずだ。


そんな事を考えながら、バットを構える。


俺の前の打者、松村と阪木だが呆気なく内野ゴロでアウトになった。


まぁ、守備でかっこ悪いところを見せたら取り返したかったんだろうけど。


「自由に打ってよかったよな…」


小声で希月さんに言われたことを思い出す。


「もう自由にやっちゃっていいわよ。あとはこっちで上手くやるから」


ネクストバッターズサークルで彼女に言われたことである。


バッティングは守備で上手くいかなかったとき保険だと思っていたが、考えがあるんだろう。



ピッチャーの足が上がり、俺もタイミングを計る。

所詮、素人のソフト大会。

ピッチャーは下手投げなので、打ち損じることはない。


ボールを自分のミートポイントまで呼び込み一閃。


「よし…真芯くった」


キンッと甲高い音が鳴り、打球は綺麗にピッチャーの方に飛んでいく。


「うわっ?!」


ボールはピッチャーを掠め、センター前へ。

そして見事にセンターは打球を避け、ボールは誰もいない校庭の方へ転がっていった。


「避けちゃいかんだろ…」


俺は、そう呟きながらダイヤモンドを一周。

ランニングホームランだ。


ベンチに帰り、クラスメイトとハイタッチ。


「お前、マジで上手いじゃん」


「それな。なんで野球部はいらないんだよ」


「ははは。ありがと」


嬉しい祝福を一通り受け終り、最後に希月さんと五六さんのもとに行こうと二人を探す。


しかし、見つけ終わるまでに背中に衝撃がのしかかった。


「やるじゃんヨッシー!凄いよ!」


「ちょ、五六さん?!」


後ろから五六さんに抱き着かれる。

その横で、希月さんは俺を睨んでいた。


「なにニヤけてるんですか?」


「いや別にニヤけたりしてないけど」


「…顔緩んでますから。バカ」


「あれぇ?彩美嫉妬してるの?彩美もやる?くっつく?」


「嫉妬なんかしてないです。ほら、先生方が遠くから見てます。離れてください」


そう言って、五六さんを俺から引きはがす希月さん。

五六さんは、あれれーと言いながら俺の背中から離れていった。


「マジでさー」


五六さんは、俺から離れるといじめっ子のような表情で、クラスメイトに聞こえるほどの声を出す。


「ヨッシーって誰かさんたちとは違うよね。野球上手くても変に威張らないし、上手くできない人に怒鳴ったりしないしさー」


満足したように笑顔でこちらにピースしてくる五六さん。


希月さんの方を見ると、手で顔を覆いため息をついている。

多分、打ち合わせなんてしてないんだろう。

後からのフォローが可哀そうだ。


五六さんの言葉を聞いたクラスメイトからは冷ややかな笑い声が聞こえる。

誰に向かっての笑い声かは、多分本人たちが一番分かっているだろう。


必死に気づいてないフリをしているが、顔が真っ赤だった。


「ヨッシーまだ試合は始まったばかりだよ!もっと無双しちゃえー!」

五六さんのテンションは更に上がっていく。



だがこれ以降、五六さんの喜ぶ姿を見ることはなかった。



【あとがき】

読んで頂きありがとうございます。

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