第15話

「よーし、それじゃあ怪我しないようにほどほどに楽しめよー」


「よっしゃぁ!勝つぞー!」

「おおお!」


担任の先生の言葉を全無視して一部の男子が盛り上がる。

勿論、その中には阪木と松村の姿も。


そんな光景を目にし、俺は大きくため息をついた。


「…どしたの」

「伊織。もし俺が仲間外れにされてもお前は一緒にいてくれるよな」

「………」


伊織は、俺を何か気味の悪いものを見るような目で凝視する。


「…本当にどしたの」

「ちょっとな。嫌われ者の役をしないといけないんだよ」

「?」


意味が分からないというように首をかしげる伊織。

まぁ、もううじうじ悩んでも意味がない。


「俺達一試合目だろ?キャッチボールしようぜ」

「うん…」


俺は、家から持ってきた自前のグローブを取り出す。

その様子を見てか、周りの男子が俺のところに寄ってきた。


「お前、本当に野球やってたんだな」

「あ、ああ」


「それがグローブか。はめさせてよ」

「今から使うから」


「うちのクラス野球部いないからお前だけが頼りだよー。頑張ってくれよな」

「お、おう」


次から次へと話しかけられることで、思うように準備が出来ない。

誰か助けてくれないかと周りを見渡すと、松村と阪木がこちらに向かってきているのが見えた。


「どした?」

俺は、彼らに話しかける。


「別にー?お前どうせうちの野球部に入れないくらい下手くそなんだろ?あんまここでハードル上げない方が良いんじゃね?」


「それなー。競技は違うけど、同じ球技だろ?俺たちの方が上手いって」


「は、ははは」


お手本のような煽りセリフに乾いた笑いが出てしまう。

これには周りの幾分引いた態度をとっていた。


「ほら。お前らもコイツに構ってないで準備しようぜ」


松村の一言で、周りの男子はぞろぞろとグローブを取りに向かう。

彼らはその様子を見て満足そうに頷くと、隣でキャッチボールを始めた。


正直言うと…微妙。

確かに運動神経はいいみたいだけど、本当に素人だ。


「…キャッチボールしないの?」

「うわ!…って伊織か」

「…早くやろう」


コイツ俺が囲われてる間どこ行ってたんだろうか。

話しかけられるまで後ろに人の気配なんて感じなかったんだが。


「まーいいか。よしやろ」


伊織から距離をとり、軽くストレッチを始める。

首、肩肘とほぐし軽く屈伸。


そして、数回グローブを鳴らし、キャッチボールを開始した。


***


試合準備を完了させ、ベンチで待機。


伊織はトイレに行ったようで一人だったが、少し前に五六さんが話しかけてくれたので、今は二人で談笑中だ。


「ヨッシーどこ守るの?」

「センターだよ。五六さんは?」

「なんかね。れふとって言われた」


全然分かっていない様子で、五六さんは自分のポジションを言った。


「レフトはセンターの隣だよ。横にいるし分かんなかったら聞いてね」

「うぃー。てかヨッシーちゃんと野球できたんだね。友達の野球部が驚いてた」

「あはは。ありがと」


多分さきほどのキャッチボールのことを言ってるんだろう。

伊織も小学生の頃は俺と一緒に野球をやっていたので、ある程度は出来る。


経験者同士のキャッチボールは球技大会という場においてはさぞ異様に映っただろう。


「あーそういえば、彩美が呼んでたよ」

「え?」

「いやー、ヨッシーと話してたら伝えるの忘れちゃってたわ。ごめんごめん」

「ごめんごめんって…」


呆れ顔の俺を、五六さんは笑い飛ばすと、「あそこで待ってるよー」と校舎の方を指さした。


五六さんに言われて校舎の方に来たものの校舎の何処かなんて分かるはずもない。


取り敢えず玄関口のところをふらふらしていると、後ろから手が強引に引っ張られた。


「痛っ!」

「あ、ごめん。ちょっと強くしすぎたかしら」

「当たり前だろぉ…」


希月さんは少しも悪びれず俺の方を見ている。

そんな彼女を見ていると少しイラついていた気持ちも何処かへ行ってしまった。


「で、呼び出してどうしたの?」

「どうしたのって、昨日言ったじゃない。私が指示するからって」

「あー、確かに。そういえば今日まだ話してなかったもんね」


俺がそう言うと、希月さんは見るからに機嫌が悪くなっていく。


「朝早くからテント設営にライン引き…こんなの野球部にやらせときなさいよ」

「あはは。大変だったね」


そういえば今日は朝から彼女は教室にいなかった。

不思議に思っていたが、そういうことだったのか。


「あ、いけない。時間がないんだったわ。取り敢えず最初の作戦なんだけど…」

そう言って彼女は、専門用語を交えながら、スラスラと作戦を説明した。


「確かに効果はあると思うけど、そんな場面来ないと思うよ」


「そんなこと分かってるわよ。けど万が一があるでしょ?それにもし駄目ならバッティングで取り返せばいいし」


何か言おうと口を開いたが、言い返せる言葉を持ち合わせていない。


ここは素直に希月さんに従っておこう。


***


一回表1アウトランナー2塁


試合が始まり、調子よくマウンドに上がった松村は、案の定といったところかあっという間にランナーを出し得点圏に進めてしまう。


こんなはずじゃなかったんだろう。

松村はキャッチャーに座らせていた阪木をマウンドまで呼んで色々と文句を言っている。


「いやいや、100%お前が悪いって」


そんな姿を見てついつい悪態をついてしまう。

周りも、いきなりの劣勢に興を削がれたようで、最初のころの活気は既になくなっていた。


「ここで、見せられれば最高だけどな」


ファーストを守っている希月さんを見ながらそう呟く。


先ほど希月さんと話した作戦をするには最高のシチュエーション。

だが、運よくセンターにいい感じの打球が飛んでくる確率なんて高が知れてる。


なんて思っていたが、考えてもみないことが起こるのがスポーツというもので。


カキンッと甲高い金属音と共に、綺麗なゴロがセンターに飛んできたのだった。


【あとがき】

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