第14話
「アンタ本気で言ってんの?」
その日の帰り道。
運よく座れた席で電車に揺られながら、俺は希月さんにある提案をした。
「うん。本気だけど」
「…本当に馬鹿だと思うわ。確かに効果はあるかもだけど、それをやったあとのアンタの立場、相当悪くなるわよ?」
「まーだろうなー」
明日の球技大会で俺が、松村と阪木を同じ目に合わせる。
端的に言えば、これが俺の提案だ。
以前、同じ目にあわせればいいという意見がでたが、生憎俺の運動能力では、彼らに勝つことはできなかった。
しかし、球技となったら話は違う。
特に野球関係のスポーツなんて経験が本当に物を言うのだ。
『目には目を。歯には歯を』ではないが、同じ目にあうことで少しはいじめをする時に罪悪感を持つようになるだろう。
「個人的には結構いいと思うんだけど」
「良いか悪いかは別にしてさ、アンタがそこまでする義理ないでしょ」
「それは希月さんもだよ」
希月さんは、驚き目を見開く。
「いや、私は実行委員だし…」
「確かに役職はそうだけど、希月さんだけが悩む問題じゃないじゃん。クラス全体で解決しないといけないのに、みんな自分が絡まれない事だけを考えてさ」
俺の言葉に、希月さんは目を逸らし、数刻間をとった。
丁度、電車の窓から夕陽が差し込み彼女の頬を赤く染める。
そんな姿に見惚れているさなか、彼女の「ねえ」という呼びかけに我に返る。
「……もしさ、アンタが私とこうして話してなくても、そういう風に思ってくれたの?」
「なわけないじゃん。全力で絡まれないように逃げてたよ」
上目遣いでそんな質問をしてきた希月さん。
だが、俺の返答に何を思ったか、ウルウルとしていた目は思いっきりジト目に変わっていた。
「…なんか期待して損した」
「でも実際、俺は希月さんと関わってそう思ったんだから。ダメかな、俺の提案」
駄目じゃないけど…、と希月さんは口を濁し、目を瞑った。
多分、色々考えてるんだろう。
俺の案にのった場合どうなるか、のらなかった場合どういう対処法があるか。
俺は希月さんと隣で、彼女の顔をじっと見つめる。
最近は当たり前のように一緒に帰れているが、いつこの関係が終わるか分からない。
今のうちに目に焼き付けておかないと。
「私が指示するわ」
「え?」
「なんかアンタやらかしそうなのよね。いきなり超ド級の煽りいれそうだし。だから私が同じチームになって指示する。いい?」
「お、おう」
これは、俺の案にのってくれるということでいいんだろうか。
はっきりと言わず、遠回しに伝えるところは実に希月さんらしい。
「もしアンタがクラスからハブられても私と茜は仲良くしてあげるから安心してなさい」
「いや別に俺には伊織がいるから…」
「私と茜がいるから安心してなさい」
「は、はーい」
彼女なりの気づかいだと思うと妙に心が温かくなる。
彼女は確かに学校では仮面を被っているが、恐らく素の希月さんのまま学校生活を送っても彼女は慕われていたに違いない。
だって根っこにある優しさは偽物じゃないんだから。
希月さんと駅で別れ、帰宅する。
俺はその後いつもの数倍、バットを振りましたとさ。
【あとがき】
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次回更新は、6/1(木)の予定です。
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