第10話
体育祭の練習終了まで残り10分を切った。
周りは、各々阪木と松村に目を付けられないように過ごそうとしているのが目に見えている。
「希月さん、これやばくない?」
「ですね…ここで止められればいいんですけど」
そう言う彼女は唇をかみながら悔しそうに二人を見つめている。
「希月さんが言ったらすぐに収まりそうじゃん」
「…逆ですよ。体育祭の実行委員のくせに勝つ気ないのか?みたいに反論されるのが目に見えてます」
「うわぁ。言いそう」
実際、先ほど行われていた試合を見たが、確かにチームを引っ張っていたのは松村と阪木だし、足を引っ張っていたのは、責められている男子だった。
「取り敢えず、もうすぐ練習時間が終わります。少し早いですが今日の反省会を始めれば…」
「松村、阪木、アンタ達何してんの?」
俺の後ろから希月さんの言葉を遮るように、一人の女子生徒の声が響く。
振り返ると、そこには五六さんが立っていた。
「何って指導に決まってんだろ。こいつのせいで負けたんだよ」
「それこんな大勢の前でそんな怒鳴る必要あるわけ?大分やりすぎだと思うけど」
「あ?勝つために必要に決まってんだろ。なんだ?お前は体育祭負けていいって思ってんのか?」
恐らくここにいる殆どは体育祭の勝敗なんてどうでもいいと思っているだろう。
なんなら体育祭の本番休みたいと思っている人の方が多いかもしれない。
だが、そんなことをクラスメイトの前で言うことは絶対にできない。
形式的にでも合わせておかないとハブられるのは目に見えているからだ。
「いや、そういう訳じゃないけど…私はやりすぎだってこと言いたいだけで」
「なら黙ってろよ」
松村の言葉に五六さんは、口をつぐむ。
何を言っても無駄なんだと、早々察したんだろう。
「皆さん!もうすぐ練習時間が終わりますし、反省会を始めましょう!」
そしていいタイミングで希月さんが声をかけた。
松村と阪木は舌打ちして、希月さんの方を睨むがすぐに反省会の場所へ移動を始める。
「吉河君…今日校門で待っててくれる?」
「校門?…分かった」
***
帰りのHRが終わり、帰る準備をする。
「…帰る?」
「あー、すまん。人待つ予定があるから今日は先帰ってくれる?」
「了解…」
伊織に断りを入れ、教室を出る。
一人廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「吉河君もかえりー?」
「あ、五六さん。一応ね」
五六さんは、俺の横に並び歩調を合わせてきた。
これ、途中まで一緒に帰る流れじゃないか?
「あれ、希月さんは?」
「彩美ってば今日は他の人と帰る予定がありますだって。てっきり吉河君だと思ったんだけど違ったなー」
「ふ、ふーん。そうなんだ」
五六さんの言葉に内心冷や汗をかく。
校門で待っててくれる?ってそういうことだったのか!
「どったの。いきなり挙動不審になって」
「……いやーそんなことないよ」
これ絶対俺が校門で止まったら怪しまれるやつだ。
適当にどこかで撒ければいいが、一緒に校門で待たれたら色々面倒だ。
「じゃあ、五六さんまたあ…」
「てかさ、松村と阪木マジうざくない?」
「………」
俺の声は完全に五六さんにかき消されてしまう。
先ほども思ったが五六さんの声は本当によく通るみたいだ。
「……そうだね。確かにやりすぎ感あった気がする」
「だよね!?なにがじゃあ黙れだよ。もう本当最悪」
本当にムカついているんだろう。
五六さんは腕を組んで、頬をぷくーっと膨らましていた。
「でも、あそこで割って入れるのは凄いよ。俺なんて見てるしかできなかったのに」
「あはは。まぁ私の体育祭の目的は楽しむことだからさー。あんな雰囲気嫌じゃん?」
「確かにね…」
だからと言ってあの場面で声をあげられるのは本当に凄い。
希月さんでさえ積極的に発言できていなかったんだから。
それからは他愛無い話をしながら、二人並んで歩いていた。
廊下、下駄箱、と続きついに校門まで。
「あー、じゃあ俺こっちだから」
「え、吉河君は電車勢っしょ?ならこっちじゃね?」
「………」
返す言葉もない。
わざと逆の方を指して、分かれた後に校門で待機しようと思っていたが、もう正直に言った方が良さそうだ。
「…校門で希月さんと待ち合わせしてるからさ」
「ほーう?」
俺の言葉に五六さんの顔が変わる。
もうニヤけ具合が天下一品だ。
「じゃあ私も待ってよーかなー」
「ちょ、それは!」
「あはは。ヨッシー慌てすぎ!」
「別に慌ててなんか…ん?ヨッシー?」
「そ!今日から君はヨッシーだ!彩美と仲いいなら私との絡み増えそうだしねー」
確かに五六さんと絡むようになったのは、希月さんと話しだしてからだ。
だからと言ってヨッシーって。いやヨッシーって…
「もうそれでいいから今日はもう帰ってくれる?」
「むーしょうがないなぁ。明日何話したか聞いていいなら帰ってあげる」
「…それでいいから」
頼んだぜー!と言いながら五六さんは帰路についてくれた。
「これ希月さんに話したら怒られそうだなぁ」
なんて思いながら、俺は希月さんを待つのであった。
【あとがき】
読んで頂きありがとうございます。
次話は「一緒に下校」回です!
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