第9話
【はしがき】
本小説が★100を突破しました!
評価してくださった皆様、読んでくださっている皆様ありがとうございます。
「パフェ」
「ダメだ」
「やだパフェ」
「ダメだ」
「やだやだ!私はパフェ食べるの!」
「…子供かよ」
目の前にいる大きな子供をみて、大きなため息をつく。
ファミレスに来て、2時間ほど。
恥ずかしかっただの、痛かっただの様々愚痴を言われ、その度にジュースだのポテトだの頼まれた。
そして今日の最後にとパフェを注文すると言い出したのである。
「子供じゃないわ!誰にでもパフェを食べる権利はあるはずよ」
「それは自分でお金を払う場合だよ。今回は俺のおごりなんだからほどほどにしてくれ」
俺がそう言うと、希月さんはぽかんと口を開けた。
「あ、そっか。今日アンタのおごりだった」
「は?!希月さん忘れてたの?」
「う、うん。普通に自分の分は払うつもりだったわ」
めっちゃ余計なことを言った気がする。
本当に余計なことを言った気がする。
ただ後悔しても時すでに遅し。
希月さんはニヤーっと俺の方を見ると、ボタンを押し、店員を呼んだ。
「ちょ、希月さん?!」
俺の制止を物ともせずやって来た店員さんに笑顔でパフェを頼む希月さん。
本当にこの姿をクラスの誰かに見てもらいたいよ。
「そーいや、希月さんと五六さんって仲いいんだね」
「うーん、そうね。学校ではよく一緒にいると思う」
彼女の言い方は少し違和感を抱く。
まあ、確かに素を偽って接している相手に仲が良いとつかうのは躊躇いがあるんだろう。
「結構タイプ違うからさ、なんで一緒にいるようになったんだろうって」
「あーそういう話ね。単純に一年生の時の席が隣だっただけよ」
「…それだけ?」
「ええ。本当にそれだけ」
俺の信じられないような顔に希月さんは大きくため息をつく。
そしてそっぽを向き頬を赤くしながら加えて口を開いた。
「まぁ、茜はあんな見た目してるけどめちゃくちゃ人の気持ちに敏感なの。相手をよく見てるっていえばいいのかな。だから私も流石に素では接することはできないけど茜といると楽なのよね」
「ほへぇ。希月さんめっちゃ五六さんのこと好きじゃん」
希月さんは、赤かった頬をさらに赤く染めこちらを睨んできた。
「別にそんなんじゃないし。ただ茜は私以外とも仲良くできるだろうけど私は茜以外とあまり仲良くなれないだろうから。その点感謝してるだけ」
「ふーん。素の希月さんは素直じゃないんだね」
「…ふん。うるさい」
人のことを褒めたり、感謝したりそういう感情表現は苦手なんだろう。
いつもその手の話題の時は頬を染めたりそっぽを向いたりする彼女だが、それでもちゃんと言葉にしようとする姿にはとても好感を持てる。
今日の愚痴大会は、特にクラス内の問題を話すわけでもなく、終始他愛もない話で終了した。
そして、俺の財布も終了寸前だった。
-体育祭10日前-
Side 五六茜
「ねーね、彩美昨日は何してたの?」
「別に何もしてませんけど」
「えー嘘だ。予定があるって言って帰ったじゃんか」
私の言葉に、彩美の目が見開く。
完全に忘れてたんだろうね。
「あーその件ですか。家族みんなでご飯を食べに行ったんです」
「え!あれ家族だったんだ。同い年くらいの男子と居たの見たんだけどな」
「……え?!」
彩美は、珍しいくらい大声を上げ、一瞬だけ目線を私以外の誰かに移した。
バレないと思ってるのかなー。
私茜ちゃんだぞ?
「あはは。冗談だよー。ほら!早く着替えに行こ」
「も、もうやめてくださいよ」
ほっと安心している彩美を背に私は、とてもとてもニヤニヤしてたと思う。
だって、彩美の視線の先にいたのは、吉河君だったから。
「うわー、え、やっぱそういう感じなんだぁ」
「何か言いました?」
「ううん。独り言」
これはどっちだろ。がつがつ聞いてアシスト役した方が良いのかな?
それとも陰でこっそり見守った方がいいのかな?
更衣室にいくまで、延々悩み続ける私でしたとさ。
***
「おいてめえ本気でやれよ!」
「や、やってるよ」
「やってねえから負けてんだろ。頭おかしいのかよ」
体育倉庫の横、丁度本部からは見づらい位置で男子二人の𠮟咤が飛ぶ。
周りにいるクラスメイトは目を付けられないように離れた位置からその様子を見ている。
かく言う俺も、希月さんもそのうちの一人だ。
恐れていた事態が徐々にしかし確実に芽を始めていた。
【あとがき】
読んでくださりありがとうございます。
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