第8話 

希月さんとの話を終えて、五六さんが待つ待機地点に走って向かう。

ただ、足取りは相当に重かった。


だって俺の姿を見て五六さんがめちゃくちゃニヤニヤしてるから。


もう本当に遠目で見て分かるほどに分かりやすくニヤニヤしてる。


「ねね、彩美と何喋ってたの?」

「内緒」


案の定、俺と希月さんの会話内容を聞いてくる五六さん。

俺の返答にムッと顔をしかめた。


「なんでよー。別に減るもんじゃないじゃん」

「そんなに知りたいなら希月さんに聞きなよ。俺が言ったら怒るだろうし」


それにこの手の対応は彼女の方が上手いだろう。

ただ、五六さんは更にムーっと顔をしかめた。


「どしても?」

「どうしても」

「ちょっとだけでも?」

「だめだって」


だめかぁ、と五六さんは大きなため息をつく。


「何でそんなに気になるの?」

「うーん……内緒!」

「人のこと言えないじゃん」


それから数分ほど五六さんと談笑していると、俺たちのクラスにタイム測定の順番が回ってきた。


「途中でこけたりしないでよ?」

「五六さんこそバトン投げたりしないようにね」


そんな事を言い合いながら、テイクオーバーゾーンに入る。


スタートの合図と同時に希月さんが走り出す。


希月さんは勉強だけじゃなく運動もできるらしい。

綺麗なフォームでコーナーを回りすでに直線コースに差しかかっていた。


「吉河君ごー!」


謎の五六さんの掛け声とともに俺も助走を始める。

日ごろから運動しているおかげである程度身体は動きそうだ。


テイクオーバーゾーンも後半に差し掛かったところで後ろからくる希月さんから声がかかる。

俺は、バトンを受け取るために後ろに手を伸ばした。


が、俺の手に伝わってきたのはバトンの感触ではなく風を切った風圧だった。


「え?」


想定外の感覚につい走るのを止めてしまう。


振り返ってみるとそこには、地面に寝転がり、真っ赤な顔をしてこちらを睨む希月さんと笑いながらこちらに向かってくる五六さんの姿があった。


「え、どうしたの?」

「…と…なかったんです」

「え?」

「届かなかったんです!」


地面に座り込んだまま希月さんが俺にだけ聞こえるようにそう言った。

そして、すぐに五六さんが追いつき、ことの顛末を話してくれる。


「吉河君身長差考えてあげなよー。彩美頑張って手を伸ばしたけど全然…全然届いてなかったんだよ。あははちょっと笑っちゃった」


「そっかー。ちょっと見たかったな」


「当の本人が何言ってるんですか」


希月さんは少し呆れたようにそう言うと立ち上がり服についた砂を払った。


「怪我してない?」

「幸いどこも痛めてないですね。すいませんがリーダーの方にもう一回したいとお願いしてきてもらっていいですか?」

「うぃー」


五六さんは希月さんの言う通り三年生の先輩のもとへ向かう。

周りに誰もいないことを確認すると、希月さんは再度俺を睨んできた。


「ご、ごめん」

「…ふん。今日の夜覚えておきなさ…あ、今日の夜は予定があるんだった。じゃあ明日の夜いつものファミレスに」

「愚痴?」

「アンタへのね。あ、吉河君もちろん奢ってくれますよね?」


最後だけ優等生を気取って言ってくる希月さん。

五六さんの話だと俺が悪いみたいだし、今回は希月さんに従おう。


それに、普通に夜のファミレスで希月さんと話すの楽しいし。


-体育祭11日前-


「暑いな」

「……暑い」


体育祭練習の真っ最中。

現在、伊織と木陰に手休憩中である。


「今何の練習中だっけ」

「………」

「わからないんかい」


横を見ると伊織は目を瞑り完全に寝る姿勢に入っている。


「確認しにいくか…」

立ち上がり運動場にでる。


練習場に目をやると丁度綱引きの練習をしていた。


綱引きは一チーム五人で男女別、うちのクラスは松村と阪木が主体となってチームを作ってた気がする。


「そーいや希月さんが何か言ってたな」


この前ファミレスで松村と阪木が邪魔ものになる的なことを言っていたのを思い出す。


「あ、負けた」

他クラスとの練習試合で松村たちのチームが丁度負けていた。

続けて見ていると、二人は残りのメンバーに何か言っているように様子が確認できた。


「流石に大丈夫…だよな」


俺は少し嫌な予感を感じながらも伊織のいる場所へ踵を返した。


***

Side 五六茜


「ごめんなさい。今から予定あるので先に帰りますね」

「うぃー。また明日ね」


彩美はそう言って、早々と教室から出て行った。

いつもは少し自習して帰ったり、私と買い物に行ってから帰ったりする彩美が急いで家に帰る…怪しくね?


しかも足取りがいつもよりも軽そうで声も上ずってた。

言葉にはしてないけど今日の「予定」とやらを楽しみにしてるのは伝わってきた。


「うわぁ。尾行したいな。えーしたいな」


まぁ流石に個人のプライバシーを侵害するようなことはしたくないんだけどさ、でも気になるなぁ。


「はぁ、明日質問攻めしよ」


私はそう呟いて、一人家に帰りましたとさ。


【あとがき】

読んで頂きありがとうございます。


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因みに、彩美の裏垢が発見されて、作中では2週間ほどが経過しています。

その中で彩美との密会は今回で4回目。

これは多いのか少ないのか……



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