第11話

「え、茜にバレたの?!」

「はい。すいません…」


学校から駅までの帰り道。

俺は希月さんと二人並んで歩いていた。


「アンタね…明日絶対めんどくさいじゃない」

「ですよねぇ。上手く対応できればいいけど」

「折角時間ずらしてきたのに、全く意味なかったわ」


希月さんは、部活に入っていない人がある程度帰った時間帯を狙って校門にやってきた。

俺はそうとも知らず、早々と教室を出たので、五六さんに捕まったのである。


「で、今日の要件は?」

「コイツ露骨に話逸らしやがった……」


希月さんからすごい軽蔑の視線が送られてくるが無視。


割と長い時間、睨んでいた彼女だったが、ふぅと息を吐き方の力を抜いた。


「まぁ、ずっと怒っててもしょうがないか」

「そうだよ。しょうがないよ」

「あ?」

「すいません…」


なんて会話をしながら、誰もいない歩道を歩く。

最初は少し緊張もあったが、二人きりで話す機会はこの短期間で結構あった。

もう慣れたもので、最近では純粋に会話を楽しむことが出来ている。


「はぁ…それに今日の要件なんて一個しかないでしょ。あのバカ二人よ」

「まーそうなるよな」

「今日は茜が上手くやってくれたからよかったけど、あれ以上酷くなったら……頭が痛いわ」


そう言ってこめかみを抑える希月さん。

うちの高校は基本先生が介入しないからその分リーダーの負担が大きくなる。

殆どのリーダーを兼任している希月さんにはいい迷惑だと思うが。


「何とかやめさせられないもんかな」

「普通に注意してもやめないだろうし、なんなら逆ギレしそうだし。一回逆の立場を経験してみればいいのよ。どれだけ辛いか分かるから」

「それやってみればいいじゃん。希月さんが何かで圧倒的に勝ってバカにするみた…痛い?!」


話している最中に希月さんからバッグで殴られる。

彼女の方を見ると、思いっきりため息をついていた。


「あのね、学校でのキャラでそんなこと出来るわけないでしょ。やるならアンタがやりなさいよ」

「俺?えーなにか勝てることあるっけ…」

「…………」

「おい。何とか言えよ」


俺の問いに希月さんは答えようとしない。

その沈黙が、暗に解答を意味していた。


「クラス全員の体力測定の結果には一通り目を通してるのよ」

「だから?」

「だからって……言わせないでよ。アンタ一種目も勝ってないのよ」

「嘘だろ?少なくとも50m走は勝ってるんじゃないか?スウェーデンリレーの代役決めの時、希月さん言ってたじゃん」

「あー、あれ嘘。アンタを代役にしたら面白いかなと思ってハッタリかましただけ」


希月さんの言葉に開いた口が塞がらない。

コイツ学校でも俺が関わった瞬間、優等生キャラやめるようになったのか。


その後、他愛のない話をしながら、駅に到着。

乗車中は特に何事もなく、電車を降り、改札を抜けた。


「送って行こうか?」

「いや、大丈夫。私の家すぐそこだから」

「そっか」


五月の夕空は、夏に向けて段々と長くなっている。

まだ明るいし大丈夫か、と彼女に手を振り俺も帰路についた。


-体育祭9日前-


Side 五六茜


「でぇ?昨日はどうだったんですか?お二方」

「二人一遍かよ…」


朝のうちならだれも通らない渡り廊下に二人を呼び出す。

勿論、昨日のことを聞くために!


「別に茜に話して喜ばれるようなことはしてませんよ」

「だねー」

「マジ?折角二人で帰ったのに?」


頷く二人を見て、私は天を仰ぐ。

この二人は本当に付き合ったりしてないんだろうか。


「二人で帰ったと言っても、私が吉河君にいろいろ相談をしていただけですから。他に意味はありませんよ」

「体育祭関連の話なんて同じ実行委員とかに言えばいいじゃん」

「……」


彩美の顔に動揺が走る。

完全に答えをミスったんだろうね。


「ふーん、彩美の中でヨッシーは特別なんだねぇ」

「別にそんなんじゃ……ん?ヨッシー?」


やっぱり食いついた!


「そ!昨日からヨッシーって呼んでるんだー。仲良くなった証にね」


彩美はヨッシーのことは君付けで呼んでいる。

そこに後から知り合った女子がニックネームで呼び始めたらどうだろ。

どうでもいい相手なら気にしないだろうけど、彩美にとってヨッシーは…


「吉河君?」

「いや勝手に呼ばれてるだけです」


「勝手にって酷いなー。昨日はオッケーくれたくせに」

「……吉河君?」


彩美は一見、いつもと変わらない表情でヨッシーを見ている。

けど茜ちゃんアイは誤魔化せないよ!


嫉妬だねー!嫉妬してるねー!


彩美と去年はほとんど一緒にいたけど、異性関連で嫉妬なんて全くなかった。

それがここに来て名前の呼び方帰るだけで嫉妬するなんて。


「彩美って意外と独占欲強め?」

「……私職員室に用事がありますので」

「ちょっ、希月さん?!この状態でおいてかないでよ!」


ヨッシーの呼びかけ空しく、さっさと教室から出て行く彩美。


かくいう私は、彩美の嫉妬してる姿がみれて大満足でしたとさ。


【あとがき】

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