第5話

希月さんとの夜の会合から一週間が経った。


希月さんと知り合って特に学校生活に変化はない。

強いて言えば、ずっと学校を休んでいた友達がきだしたことぐらいかな。


あー、あと希月さんのお父さんが草野球しているのっていう話が凄い気になる件。


ただ、全体的にみればいつも通りの学校生活を送れている。


「なぁ伊織。そういえばなんで学校休んでたんだ?」

「久しぶりに持ってるCD聞いたらビビってきたから…」

「あー、ずっと作ってたわけか」


今俺の前で飯を食っているのは、友達の丹波伊織。

知り合ったのは小学校でなんだかんだウマが合い高校生になってもまだつるんでいる。


「明日にはアップできると思う…」

「マジ?楽しみだな」


伊織は中学の時から音楽制作に取り組んでおりここ二年ほどは動画投稿サイトにアップすることも多い。

実際、伊織のチャンネルは数万人がフォローしており、百万再生を超える楽曲も多数ある。


「あーそういえば伊織が来てない間に体育祭の種目決めあったから、適当に入れといたよ」

「…何に入れた?」

「スウェーデンリレー」


スウェーデンリレーとは、第1走者100m、第2走者200m、第3走者300m、第4走者400mの計1000mを4人で走りタイムを競う競技だ。


ちなみに伊織は第2走者にエントリーしてある。


「お前足早かったじゃん。確か50m走クラスで一番だろ?」

「6.3秒…」

「はや!なら大丈夫だな」


俺がそう言うと、伊織は自分の足を指さして言った。


「昨日足くじいた。走れない」

「…マジ?」

「マジ」

「それ希月さ…いや体育祭の実行委員に言った?」

「言ってない。今日リレー走るって聞いたし」


伊織の話を聞いて絶句する。

確か選手変更届は今日までだったはずだ。


「おい、急いで言いに行くぞ」

「えぇ…」


俺は伊織を引きずり職員室まで連れて行った。


***


「ということで、スウェーデンリレーの選手変更をしたいんですが、誰か立候補してくださる方いらっしゃいませんか?」


昼休みが開けた最初の授業。

現在、希月さんが教壇に立ち選手の募集をしている。


「そこって男子の枠だよね?今出れる中で一番足が速い人って誰なの?」


女子の一人からそのような声が上がる。


「えーっと…一応一番早いのは本田君になりますね」


「なら本田で決まりだろ」

「だなー。早く校庭に出て練習しようぜ」


希月さんの言葉に早々と結論付け男子の一部が練習にでようと立ち上がる。

しかし、希月さん納得していないらしく、ちょっと待ってください、と声をかけた。


「なんだよ。本田が一番早いならそれでいいだろ」

「本田君はその前後に男子200mとクラス対抗リレーに出場するんです。流石に3つ連続はきついんじゃないかなと」

「なら本田に聞いてみようぜ。なあ別に大丈夫だよな」


その言葉にクラス中の視線が本田君に集まる。

本田君は基本優しくていい奴だが、頼まれたら断り切れないところがある。


案の定、本田君は少し嫌そうな顔を見せながらも提案を受け入れようとしていた。


そんな中、視線を感じ教壇の方を見ると希月さんがこちらをじーっと見ていた。

そして目が合うと、一瞬みんなの前で見せる裏月さんではなく「素の」希月さんの時のように悪戯っぽく笑ったのだ。


なんかすごい嫌な予感がする…


そう思った時既に遅し。


「ちょっと待ってください。一人いい候補の方がいます」

裏月さんの仮面をかぶった希月さんが笑顔でこちらを見ながら言った。


「…誰だよ」

「吉河君です。あまり本田君とタイムは変わらないですし種目もダンスだけなので体力的にも大丈夫かなと」


希月さんの言葉に次は俺の方に注目が集まる。


「い、いや俺運動部じゃないしそのタイムも多分偶々だよ」


実際、俺が何秒で走ったかなんて覚えていないがそこまで力を入れて走った覚えはない。


「確かに部活には入っていませんが、吉河君地域の野球チームに所属していませんでしたっけ」


「…そうだけど」


「もし可能だったら出て欲しいなと思うんですけど…大丈夫ですか?」


彼女は本当に誘導が上手い。

こんな状況で言われたら断る方が難しいじゃないか。


「分かった。俺がその枠に入るよ」

「ありがとうございます!」


希月さんからの感謝を合図に、クラス全体から拍手が起こる。

それと同時に周りの男子数人からは声をかけられた。


「ほへー、吉河って野球やってたんだな」

「頑張って走れよー」

「…ありがとな」


俺は、苦笑いしながら席に戻る希月さんを睨んだ。

彼女はその視線に気づくとニヤッと笑うとサッと俺の方へ近寄る。


「今日愚痴に付き合ってあげるから」


そして、周りにばれないように俺の耳元でそうささやいた。


「敵わないな…」


俺は隣に座る彼女を見てそう呟いた。


【あとがき】

読んで頂きありがとうございます。

是非、フォロー&★評価よろしくお願いします!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る