第3話

階段を降りて、駐車場の前の自販機に到着。


希月さんは、何を買うか迷っていたので先にコーヒーを購入した。


「へーアンタってコーヒー飲めるんだ」


「飲めるけど…。希月さんは飲まないの?」


「私苦いの苦手なの。なんでわざわざ嫌な気持ちにならないといけないのよ」


普段の、いや作っている彼女の雰囲気からしてコーヒーや紅茶を嗜んでいるものだと思っていた。


少し意外に思っていると予想通り、希月さんは拗ねたような表情を作る。


「なによ。どうせ私は子供ですよーだ」


「俺は何も言ってない」


「目が語ってたわよ。目が」


彼女は、やーやー文句を言いながら、いちごオレを購入。


キャップを開け、一気に半分まで飲み干した。


「嘘だろ?それ胸やけしないか?」


「そう?私甘いもの好きだからあんまりそんな感覚ないのよね」


「すごいな。やっぱりお子様…」


「あ?」


ごめんごめん、と平謝りしコーヒーを一口飲む。

教室に戻らず、少し自販機の前で話していると、少しずつ先生たちの車が駐車場に入ってきた。


「やっば。ちょっとアンタ向こう行ってて」


「え?なんでまた…」


「いいから!」


希月さんに背中を押され、一人校舎に入る。

ドアの影からそーっと彼女を見ると急いで髪を下ろし、いちごオレを飲み干し、ゴミ箱に投入。

そして、先ほど苦手と言っていたコーヒーを購入していた。


誰が見ても異常な行動だが、すぐにその意図が分かる。


「あ、田中先生!おはようございます」


「おお、希月じゃないか。今日は早いがどうしたんだ?」


「最近の体育祭練習であまり自習の時間をとれていないので、早く来て勉強しようかと…」


彼女が言っていることは勿論嘘である。


「そうかそうか。あまり無理するなよ」

「はい!ありがとうございます」


深々と頭を下げ、先生を見送る希月さん。

先生が行ったのを確認すると大きなため息をつき俺の方に駆け寄ってきた。


「今何時?」


「6時40分」


「いつもみんなが登校してくるのは8時くらいだから…まだ時間あるわね」


「へー、みんなそれくらいに登校してくるんだ」


俺はいつも遅刻ギリギリに登校しているので、少し驚いた。

一時間前に登校ってみんな偉いな。


「アンタが遅いだけよ」

彼女はそう言って再び髪を結びなおす。


「大変だね。いちいち髪型変えるの」


「別に。もう慣れた」


完全に髪を結び終わると希月さんは傍にあるコーヒーを俺に差し出してきた。


「ん?くれるの?」


「だって私飲めないから」


「じゃあなんで買ったんだよ…」


「別に。私のイメージにコーヒー飲んでた方が合うでしょ」


確かにさっき俺も同じことを思ったが、だからと言って買いなおすってどこまでの徹底ぶりなんだろうか。


「はは。裏月さんも大変だな」


「何よ裏月さんって」


「今のツンツンしてる希月さんが素なら学校でのキャラは裏月さんかなーって」


「…ふつう逆でしょ。バカ」


一見棘のある言葉だが、俺には何となく感謝めいた感情が伝わってきた。


「あ、そうだ」


「今度は何よ」


俺は、先ほどの自販機に小銭を入れ、いちごオレを一つ購入。

それをそのまま希月さんに渡した。


「はい。コーヒーのお返し」

「ふん…」


希月さんは少し頬を赤くしながら、俺の手からいちご俺を受け取る。


「ありがと…」

「え?なにか言った?」


「…別に何も言ってないわよ」

「そっか。どういたしまして」


「アンタね…」


なんて会話をしながら階段を上る。


教室に到着し、お互いがお互いの席に着く。

あまり意識してなかったが、希月さんの席は通路を挟んで隣だった。


「はあ、今日もダンス練習めんどくさい」


「確かに昨日の件があったばかりだしね」


「今日も同じ事したらあいつ等は本当のバカよバカ」


まあ確かに高校生にもなって練習中に鬼ごっこなんていつまで中学生気分なんだって思う。


それを注意して、あまつさえ責任までも追及される彼女には相当な負担がかかるだろう。


「あのさ、俺希月さんのストレス発散方法奪っちゃったわけだし。今日みたいに話聞く事だったらいくらでもするからね?」


「そんな事しなくていいわよ。普通に一人で大丈夫だから」


「そ、そっか」


その後は、クラスメイトが来るまでこの件には触れず雑談したりそれぞれスマホを触ったりと時間をつぶした。


そして午後になり体育祭の練習中。

ふともう「素の希月さん」は見れないんだと気づく。


「なんかそれはそれで寂しいな」


勿論、学校で作っている裏月さんも魅力的だが、個人的には素の希月さんの方が一緒にいて楽しかった。


まあ、裏月さんと会話したことなんて殆どないんだけど。


「忘れよ…」


ため息をついて、ダンスの練習に戻ろうと歩き出すと、正面から知らない生徒が走ってくるのが見えた。


「どけどけー!」


周囲を見渡すと同じように走っている生徒が数人いる。


「…ドンマイ。希月さん」


案の定、その集団は昨日鬼ごっこしていた集団と同じで、希月さんはまた生徒指導の先生に怒られていた。


帰りのHRが終わり、みんなが帰宅の準備をしている仲、隣から小さく折りたたまれた紙が置かれる。


中を開いてみると『明日も同じ時間』と書かれていた。


横を見ると、希月さんがバツの悪そうな顔をしながらこちらを見ている。


俺は、内心ガッツポーズしながら「了解」と小さな声で返事をした。


【あとがき】

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