第2話

2人の間に沈黙が流れる。

希月さんが何を考えているがは分からないが、頭がパニックになっているのは容易に想像がつく。


これは実際のところを聞いていいのだろうか。

それとも何もなかったことにして裏垢の存在を忘れた方が良いのだろうか。


そんな二択で悩んでいると、教室の外から女子生徒の話し声が聞こえた。


「やばい。もう授業始まる」

「え?あ、ほんとだ…」


希月さんも俺の声で女子生徒たちに気づいたんだろう。

少しだが顔色が戻った気がする。


「希月さん、俺もう行くね」

「え、ちょ、ちょっと待ってください!」


教室から出ようと動き出すが、希月さんから手をつかまれる。

そして彼女からこう言われた。


***


『明日の朝6時に教室で待ってます。もしこのことで聞きたいことがあるならそのときに』


彼女から呼び止められて、言われたセリフである。


「誰もいない時にってことだろうけど流石に早すぎるって」

始業時間は9時だから実に3時間前登校。


こんなの部活の朝練でも経験したことがない。


眠たい目をこすりながら、昇降口を通過。

下駄箱を見ると既に、希月さんの外靴が入っていた。


「もう来てるのか…」


俺は気持ち急いで階段を駆け上がり、教室のドアを開ける。


中に入り希月さんの姿を探すと、教壇に腰かけスマホをいじっている彼女もこちらに気づいた。


「やっと来たんだ」


「やっとって、まだ6時になってないじゃん」


「ふん。それでも私を待たせたことには変わりないでしょ」


一理ある…のか?

少し納得いかないが、まあそれは置いておこう。


「来て早々、聞きたいことが増えたよ…」


「そう?色々聞いていいわよ。そのために呼んだんだし」

彼女はスマホから目を離し、俺の方に向き直った。


「ありがと。本題に入る前にさ、希月さん髪型と口調変えた?」


いつもの彼女なら、誰に対しても敬語を崩さないはずである。

また、髪型も今はポニーテールでまとめているがいつもは髪を結ぶことはなかったはずだ。


「あー、口調は今更作ってもしょうがないから敬語やめた。髪は邪魔だからまとめてるだけ」


「邪魔だからって…ならいつも結んでおけばいいじゃん」


「なんとなく結んでない方が優等生っぽいでしょ」


「……」


これも一理あるのか?

まあ彼女がそう言うならそうなんだろう。

知らんけど。


「で、本題なんだけどやっぱりあの裏垢してるのって」


「そ、私よ。こうしてると色々鬱憤が溜まることが多いの。誰かに愚痴るわけにもいけないし」


「あのアカウントで発散してたってことか」


「そういうこと」


昨日からある程度予想は出来ていたが、やはり本人の口からきくと衝撃が大きい。

それに、俺たちが見ていた希月さんが完全に幻想だったことも。


「なに衝撃受けてるのよ。あんな優等生2次元以外で存在するわけないじゃない」


「実際、昨日まで存在してたと思ってたんだからしょうがないだろ…」


彼女は馬鹿みたいと鼻で笑い窓の外へ目を向けた。


そんな希月さんを見て、喉元まで出てきていた質問を押しとめる。

『なんで優等生のふりをしているの?』と聞いても、流石に答えてくれないだろう。


「そういや昨日は投稿なかったけど、何もなかったの?」


「何でいつも通り投稿があると思えるの…。普通バレたらやめるでしょ」


希月さんの言葉に少し罪悪感を覚える。

確かに、SNSで他人の悪口をつぶやく行為は決して褒められるものではない。


だが、それによって彼女は自分の中のストレスと闘い、解消してきたのである。


その方法を奪ってしまったとなるとちょっと悪い事したかもしれない。


「てことは普通に嫌なことあったんだ」


「あったに決まってるでしょ。てかアンタその場面にいたじゃん」


「そんな場面あったっけ…あ、ダンスの時か」


昨日のダンスの練習中、下級生がいきなり鬼ごっこを始め練習が滅茶苦茶に。

更に不幸なことに、その中の一人が女子生徒にぶつかり責任者の希月さんが先生に呼び出されていた。


「あれは確かに、イラッてくるな」


「でしょ?それでさ…」


そこから30分ほど希月さんの愚痴が続いた。

しかも昨日の話だけでこの時間である。

一体、毎日どれほどのストレスを抱えてるんだろうか。


「ほんとに溜まってんだね」


俺がそう言うと、彼女はハッと口元に手を当てた。


「うっさい」


頬を赤く染めながら少し不貞腐れた表情はいつもの希月さんとは全く違う。

とても魅力的な表情だった。


「なんかいっぱい喋ったら喉乾いた。なんかジュース買ってきて?」


「いや自分で行けよ」


「なんでよ。誰のせいでこの時間に来る羽目になったと思ってんの?」


「希月さんのせい」


「うぐぅ…」


誰かをパシリに使う希月さんも、反論されてぐうの音も出ない希月さんも新鮮で面白い。


「なら一緒に買いに行く?」

「しょうがないわね」


俺たちは並んで、教室を出て自販機へと向かった。


【あとがき】

読んで頂きありがとうございます。

是非、★評価よろしくお願いします。

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