第12話 ありがとう
用ができたので少し離れる自主特訓しているように。
五月のりゅうに言われた凛太郎は枇杷の舟笛を吹いていた。
時に息を弱くして、時に息を強くして。
それでも聞こえて来るのは、自分の呼吸音だけ。
うんうん最初からうまく行くことはない。乃蒼だって最初に紹介されてから全然姿を見せてくれないし。けれども。
ドキドキワクワクはどうしたって鳴り続ける。
このドキドキワクワクを枇杷の舟笛に込められたら、それはそれは楽しい音を奏でられるに違いない。凛太郎は考えただけで、ドキドキワクワクが増していくのだ。
だから、他の冒険者たちの枇杷の舟笛の、時に美しく、時に楽しく、時に力強く、時に少し寂しい音色が時折聞こえてきても、自分はまだなのにと焦りや悲しみも生まれては来ない。
自分も。と強く思うのだ。
自分も他の冒険者のように自分の音を聞きたい。聞いてほしい。
一番に。
一番に聞いてほしいのは。
一番に伝えたい気持ちは。
一緒に来てくれてありがとうって。
こんなころころと場所が変わって疲れただろう休んでって。
凛太郎は自分が泣いていることに気づいた。
ただ静かに涙が流れ落ちていたのだ。
悲しいわけではない。心さびしいわけでもない。ホームシックなわけでは断じてない。
のに。
ドキドキワクワクの中にすっと自然と入り込んだありがとうの文字。
くるくるくるくる。
凛太郎の周りを軽やかに巡っていた。
(2023.5.5)
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