第11話 枇杷の舟笛




 枇杷の舟笛びわのふねぶえ

 アルトリコーダーと形も大きさも似ているが、指穴がなく穴は窓と吹き口だけ。

 りゅうが丹精込めて育てて手ずから作った竹でできている枇杷の舟笛の中には、乾燥させた枇杷の葉と種が入っており、息を吹きかける力の強弱によってさまざまな音色を奏でられる。


 この枇杷の舟笛を奏でて、幻の十一月の動物たちと交流を図るのだ。

 そう。十一月の動物たちである。

 十二月の間違いではないかって。

 いえいえ。間違ってはいない。

 十一月。

 五月のりゅうを除く、十一月である。


 五月のりゅうは幻の十二月の動物たちの中で唯一、人語を話せるのである。






 枇杷の舟笛の演奏猛特訓中の凛太郎の耳には今、自分の呼吸音しか聞こえなかった。

 ふしゅーふしゅー。

 ふしゅーふしゅー。

 ふしゅーふしゅー。

 まったく。全然。音が出ないのである。

 しかし、凛太郎はめげなかった。燃えに燃えていた。

 凛太郎の目は元より、凛太郎の周囲に駆け巡るどきどきわくわくの文字にも炎が燃え盛っていた。


 枇杷の舟笛を吹けたら、幻の十二月の動物たちと交流できるのだ。

 五月のりゅう以外、幻の十一月の動物たちは人語を理解できないらしいのだ。

 もちろん、じっと見つめ合えば気持ちは伝わるかもしれないが、この気持ちをより熱く伝えるためにはこの枇杷の舟笛が必要なのだ。

 吹けるようになりたい。

 凛太郎は強く思った。

 絶対に吹けるようになりたい。

 その熱い気持ちとは裏腹に呼吸音しか出なくても。




(めげない根性だけは認めるが)


 集中している凛太郎の耳には届いていないだろうが、五月のりゅうの耳にはそれはそれは品のある枇杷の舟笛の奏でる音が聞こえていた。

 凛太郎以外にも五月のりゅうによってここに連れて来られた、幻の十二月の動物たちを探す者たちが見事に奏でているのだ。


 幻の十二月の動物たちは、一匹ずつしかいないわけではない。

 百匹以上いる動物もいるのだ。

 ただし、一匹しかいない動物もいる。


(こやつはだめかもしれないな)


 枇杷の舟笛を渡されて最初に吹けないようでは。











(2023.5.4)



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