第10話 五月のりゅう




 拝啓お父様、お元気でしょうか?

 俺が『霞月』国に来てから、まだ半日を少し過ぎたくらいでしょうか。

 めまぐるしく景色が変わっています。

 紅の岩で建てられた『胡月城』内の地下室、『胡月城』内の第三庭園、大きな大きなブロッコリーがいっぱい生えている場所、そして俺が今いる場所は天空です。ふかふかぽよんぽよんの目に痛くない白の雲の上にいます。

 え?

 そこで幻の十二月の動物たちを探しているのかって?

 ええ、俺もそのつもりでした。


 一緒に冒険に行くことになった陵牙さん(第三王女である鈴月様の男性執事さんです)と数時間もしないで離れてしまったのはとても心細いですが、同時にこれぞ冒険だとワクワクドキドキしています。陵牙さんは頼れる人ですから、きっと合流してくれるとも信じていますし。


 話がそれました。

 俺は今、幻の十二月の動物の内の一匹、五月のりゅうに遭遇しました。

 黒い和風のりゅうです。

 翼も手も足も小さくて、立派な髭が生えていて、胴体が長くて一枚一枚の鱗が大きくてきれいな、りゅうです。

 超ちょうチョウかっけーです。

 実はキャワイイうさぎによって天空へと吹き飛ばされる最中。

 いつまでも速度が落ちない現実に、ワクワクドキドキが止まりませんでした。

 あれこれもしかして天空を天元突破して宇宙にまで行ってしまうのではないか。

 この異世界に宇宙が存在するかわかりませんが、もしそうなら宇宙にまで場所が広がるのかなすっげー壮大になっちまったなワクワクドキドキが止まらねえぞ。

 と思いながら吹き上げられていると、このりゅうに遭遇したのです。

 しかも遭遇したばかりか、ちょちょいのちょいで背中に乗せられて、この白の雲まで連れて来られて、そして。




「まだ吹けないのか。今回の異世界人は期待できそうにないな」




 枇杷の舟笛びわのふねぶえという笛を吹けるように、りゅうから猛特訓を受けています。











(2023.5.3)



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