第9話 黄緑の烏




 これは次のステージに行くんだな。

 急速に天空へと吹き上げられる中、凛太郎は思った。


 最初は走馬灯だろうと思った。

 何度も何度も駆け巡っていたのだ。

 陵牙とのやり取りとうさぎに遭遇した時の場面が頭の中で何度も何度も。

 けれど次第に違うなと思い直した。

 きっとこの吹き上げられた先の天空に幻の十二月の動物たちがいるのだ。

 そう考え始めると、小さくなっていた炎が一気に燃え上がった。

 ワクワクドキドキの文字が凛太郎の周りを駆け巡っている。


 ワクワクドキドキ。

 ワクワクドキドキ。

 ワクワクドキドキ。


(ああほら。背中にくっついている乃蒼もそうだよって言っているみたいに、なあごなあごって鳴いている。ん。あれ。そう言えば)


「陵牙さんは」


 どこに。

 口に出せるか出せないかの瀬戸際で、凛太郎は意識を失った。

 音がする、とも思いながら。

 楽器の音色が聞こえる。






「おやおや」


 陵牙は手傘を作って目を保護しながら天空を見上げた。

 凛太郎と乃蒼と離れた挙句、凛太郎と乃蒼を天空へと吹き飛ばしたうさぎも姿を消して捕まえられなかったこの失態を。


「すぐに取り戻さないといけませんよね」


 陵牙は口笛を吹いて黄緑色の烏を呼び寄せて姿を見えると、跳躍しては呪文を唱えて自身の身体を小さくして烏の上に乗った。


 陵牙は呪文を唱えると物を小さくしたり元の大きさに戻せたりできるが、無条件に無尽蔵にできるわけではない。

 今回に限って言えば、旅に備えて用意したものと、そして陵牙自身しかもう縮小拡大できないのである。


「さあお願いしますよ。きみどり。凛太郎と乃蒼を追いましょう」

「くえっ」


 陵牙は振り落とされないように黄緑の烏、きみどりの羽を掴んではそう言ったのであった。











(2023.5.2)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る