第8話 四月のうさぎ




『いいですか、凛太郎』

『はい』


 あれこれは走馬灯?

 死ぬ時に見るっていう例のあれ?


『確かに鈴月様はわたくしたちを水晶玉を通して見守って、必要なものを送ってくれますが、いつでも必要な時に必要なものを送ってくれると考えてはいけません』

『はい』

『鈴月様は王位継承者として、色々と、それはもうたくさんのことを学ばなければなりませんので、わたくしたちをいつも見守っているのかと言うとそうでもないのです』

『はい』

『わたくしは基本的に鈴月様に頼らない姿勢を取ります。今回の凛太郎の冒険用の靴は致し方ないですが。必要なものは最低限常備していますので、足りないものがあれば現地調達します』

『はい』

『ただ時折鈴月様から応援物品は届くと思いますので、その時は有難くいただきましょう』

『はい。自分たちでどうにかする。鈴月様を頼りにしないです』

『はい。その心意気で行きましょう』

『はい』


 そう。その後天に向かって(ほぼブロッコリーしか見えないけど)、鈴月様ありがとうと言って。確か。

 確か。

 そうだ。

 うさぎだ。

 紅色の和傘をくるくる回しながら立ってすんごくゆっくり小さく歩いている、たれ耳うさぎの中で最小のホーランドロップに似た桜色のうさぎがいて、そのきゃわいさに全部が奪われてゆっくり近づこうとした時に、くるくる回る紅色の和傘から桜の花びらが舞い散って、その美しい光景に急に吸い寄せられて、そして、桜の花びらに触れたら。


 天空に吹き飛ばされたんだ。

 どんどんどんどん上へ上へ吹き飛ばされ中なんだ。












(2023.5.1)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る