第6話 繋がる布バッグ
(うんうんうんうん!これこそ俺が求めていたことだ!)
最初から仲良くなるなんてあり得ない。
これからだ。これからちょっと凶暴な幻の十二月の動物たちに襲われて、逃げる内に雨が降って来て大きな木、いやここでは、大きなブロッコリーに追い詰められて、怪我を負いながら乃蒼に逃げろって言うけど、乃蒼は逃げないで立ち向かってくれるんだ。今はまだ反発しているけど本当は仲良くなれるんだ。友情を育めるんだ。
「えへへへへへ」
(う~ん。予想と違いましたが、へこたれていないのでいいのでしょうね)
乃蒼は背中にくっついてはいるものの姿を見せてくれず、触ろうとしたら逃げるなど、仲良くなれる可能性は低い。にもかかわらず、にたにた少し不気味に笑う凛太郎を横に見てから、陵牙は凛太郎の背中にひっつく乃蒼を見たら、器用にも眠っていた。
乃蒼がくっついている部分に吸盤みたいなものを発生させて凛太郎の背中にくっついているので、疲れたり、今みたいに眠っていたりしても落っこちはしないのだ。
「あっ」
「どうしました?凛太郎。お腹が空きましたか?」
「ああうん」
陵牙に言われて初めてお腹が空いたことに気づいた凛太郎は、お腹をさすりながらうんと返事をしようとして、違う違うそうじゃなくてと言った。
「いや、俺。冒険用の靴を持って来てたんだけど、城のあの庭園に置いてきちゃったんだ」
「お待ちください」
「うん?」
凛太郎は首を傾げながら陵牙を見た。
陵牙は前に斜めがけにしていた長方形の布バッグのボタンを外して布を持ち上げると、布バッグの中に手を入れた。
この大きさの布バッグに冒険用の靴下を入れていたとしたら、もう少し膨らんでいてもいいはずなのにぺちゃんこのままだったので、凛太郎がますます首を傾げていると、陵牙は涼しい顔で布バッグから冒険用の靴を取り出して凛太郎に手渡した。
凛太郎は目を丸くしながら受け取りつつ、鼻息荒くして陵牙にその布バッグもしかして四次元ポケットなのと尋ねた。
「四次元ポケットとは何ですか?」
「え?えーと。そのバッグに入りそうにない大きな物だったり、未来の不思議な道具だったりを取り出せる未来で開発された不思議なポケット」
なるほど。小さく頷いた陵牙は布バッグのボタンをはめると、四次元ポケットとは違いますと言った。
「この布バッグは鈴月様の持っている布バッグと繋がっているので、現在の物であり、鈴月さまが用意できる物しか取り出せません」
「はい」
凛太郎は真剣に陵牙の話に耳を傾けた。
「鈴月様がこの冒険の旅に同行していないのは、鈴月様を危険な目に遭わせないためでもあるのですが、必要な物をわたくしたちに送るためでもあるのです。鈴月様は水晶玉を使ってわたくしたちを見守っているので、凛太郎が冒険用の靴を忘れたとの言葉を聞いて、入れてくださったのです」
「なるほど。鈴月様は俺たちを遠くから助けてくれているんですね?」
「はい」
「うわーうわー。鈴月様。ありがとうございます!」
凛太郎は大きな声を出して乃蒼を驚かせないように、また、なるべく背中にくっついている乃蒼を動かさないよう注意しながら、大きく腕を振った。どこから見ているかさっぱりわからないが、きっと見えているのだと信じて疑わなかった。
(2023.4.30)
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