第5話 乃蒼の遊び
凛太郎が教えてもらった三つ目の黒猫の名前を喜び勇んで呼ぼうとした時だった。
「あれ?」
凛太郎の視界の先には三つ目の黒猫と鈴月、そして陵牙と紹介してもらえなかった執事が二人いたはずだった。花菖蒲が咲いている場所なはずだった。
だが今、凛太郎の視界の先には、巨大なブロッコリーがそびえ立っていた。
しかも一つだけではない。あちらこちらとそびえ立っていた。
三つ目の黒猫も鈴月も陵牙も二人の執事もいなくて、丸い卓も花菖蒲もなくなっていた。
「あれ?」
凛太郎は足の間に挟んでいた丸い椅子もなくなっていることに気づき、首を傾げた。
「どうやら開始したようです」
「陵牙さん」
凛太郎は陵牙を見上げて、はたと。三つ目の黒猫がいないことに気づいては、爛々と目を輝かせた。胸を高鳴らせた。
「そうですか!まずは三つ目の黒猫、いえ、
「いえ。三つ目の黒猫はおりますよ」
「え?はっ!もしや乃蒼は透明化できて陵牙さんはその眼鏡で姿が見えているんですね?」
「いえいえ。凛太郎。何か身体のどこかがいつもと違うな~と思いませんか?」
「え?身体のどこかがいつもと違う、ですか?」
凛太郎は身体中くまなく見てもいつも違うところは見つけられず、飛んだりひねったりしても全然いつもと違うところはなかった。
「わかりません!」
「おやおや。凛太郎は鈍感さんですね。ほら。背中を触ってごらんなさい」
「はい!」
凛太郎は腰から背中の真ん中まで触った。肩から下をちょっと触った。いつもと同じ自分の背中だった。
「変わりません!」
「そうですね。逃げてしまいましたから。あ、今です」
「はい!」
凛太郎はすぐに腰から背中の真ん中まで触った。肩から下をちょっと触った。いつもと同じ背中だった。
「やっぱり変わりません!」
「そうですね。う~ん」
陵牙が地面に下りては素早く背中にひっついた乃蒼を見て、今ですと言ったがその時点で地面に下りているので、凛太郎が背中を触ったところで乃蒼に触れられるはずもなく。
「う~ん。遊ばれているのでしょうか?」
「え?」
凛太郎のその曇りなき眼を見た陵牙は、もう遠回りな言い方を止めて直接背中に乃蒼が背中にひっついていますよと言ったのであった。
(2023.4.28)
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