第4話 初めて見た
協力は決定ゆえ。
そう自分自身に言い聞かせた鈴月は、凛太郎が望むように三つ目の黒猫を連れて来るように、陵牙とは別の執事に言った。
(………鼻の穴が膨らんでおる)
気のせいだろう。と、鈴月は思った。
いや、鼻の穴が膨らんでいるのは気のせいではない。
気のせいなのは、目の前の丸い卓が小刻みに動いていることだ。
凛太郎の足も手も動いてはいないのだから。もちろん自分も動かしていない。
ただ凛太郎の待ち切れない気持ちが、丸い卓が動いていると見せているのだ。
(………まあ、へたれよりはましかのう)
連れてきました。
連れて来るように命じられた執事が抱えていた三つ目の黒猫を鈴月へと手渡した。
うむご苦労。
鈴月がそう言って受け取ると、三つ目の黒猫を丸い卓へと下ろした。
三つ目の黒猫は前脚に顎を乗せて両目は瞑り、額の目だけを開いて凛太郎に向けた。
凛太郎は突如として立ち上がると、丸い椅子を足の間に少しだけ浮かせて挟めたまま、身体を九十度に曲げてはきれいなお辞儀をして、三つ目の黒猫に片手を差し出して言った。
これからお願いします。
とても大きな声で、鈴月は思わず両耳を両手で押さえた。
「うるさい」
「あ。ごめん。なさい。つい。もう。ワクワクドキドキが止まらなくて。あの。あの俺、米田凛太郎って言います。中学二年生。幻の十二月の動物たちと、君と友達になりたくてこの世界に来ました!」
凛太郎は頭を下げたまま、三つ目の黒猫に思いの丈をぶつけた。
ゆるりゆるりと、毛並みがきれいな黒い尻尾を動かしていた三つ目の黒猫は両目も開き、開いた三つの目を顔と共に鈴月へと向けた。
三つ目の黒猫は人語を話さなければ表情も滅多に変えないのだが。
(………気持ちはわかるがの)
初めて見た。こんなに嫌そうな、本当に嫌そうな顔をしている三つ目の黒猫は。
鈴月はそっと三つ目の黒猫の頭を撫でると、とりあえずと、三つ目の黒猫の名前を凛太郎に教えたのであった。
(2023.4.28)
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