第3話 決定ゆえ




(本当に大丈夫かのう)


 『霞月』国の都市、『凪儀なぎ』。その中央に、紅の岩で建てられた『胡月こげつ城』があった。


 『胡月城』の第三庭園にて。

 今が咲き頃の花菖蒲を眺めていたこの国の第三王女、鈴月りんゆえ― 花菖蒲の透かし鍔のように髪を飾り、目尻に紅をさし、紅色の天女風チャイナ服で身を包む十四歳の少女― は視線を丸い卓を挟んで向かい側に座る同じ年の少年へと戻した。


 少年の名は、米田凛太郎よねだりんたろう

 つい数時間前この国に召喚された異世界人である。




『異世界人に王位継承者を決める幻の十二月の動物たち探索の協力を仰ぐ者をくじで決める。紅の文字で当たりと書かれた棒を引いた者はその異世界人に任せよ。このくじを引かなかった者は他者に協力を仰ぐなり、自力で探索するなり好きにせよ』




(異世界人に協力を仰ぐことは聞かされていたが、まさかわらわが当てるなど。しかもこんな小さな少年など)


 鈴月は瞳に炎を宿らせる凛太郎から目を逸らし、また花菖蒲へと視線を向けた。


 向こうの世界で話は聞かされていたのだろう。

 城の地下に存在する、あちらの世界とこちらの世界を繋ぐ扉が開くや否や、凛太郎は駆け込んできて、とても声を弾ませて言ったのだ。

 早く相棒の三つ目の黒猫に会わせてください。

 早く幻の十二月の動物たちを探しに行きたいです。


 異世界に来て早々そう宣言したその気概は認めるが。


(本当に大丈夫かのう)


 鈴月は隣に控えていた執事 ― 名を陵牙りょうがと言い、七三分けで丸い黒縁鼻眼鏡をかけて、深緑色のチャイナ服に身を包む三十九才男性 ― に視線を送ると、陵牙は胸に手を添えて小さくお辞儀をしたので、小さく溜息をついた。


(まあ、何にせよ。協力は決定ゆえ)


 鈴月は覚悟を決めて凛太郎に視線を留めると問いかけた。


「そなた。本当に幻の十二月の動物たちを集めよと命じて大丈夫かのう?」

「お任せガッテン」


(………決定ゆえ)


 瞳だけではなく背後にまで炎を担ぎ始めた凛太郎を見て、不安しか抱けなかった鈴月であった。











(2023.4.27)



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