第3話 ミリアとエリス

「さて、そろそろ行くぞ」

夏樹はミリアとセリアに呼びかける。


「うん……」

ミリアは暗い顔で答える。


「ほらっ、しっかりしろ!!」

夏樹はミリアの両頬に手を添えると、彼女の顔を覗き込む。


「な、夏樹!?」

ミリアは顔を真っ赤にしながら慌てるが、夏樹はそのまま続ける。


「お前はいつも明るくて元気だろ?お前には笑顔が似合ってるよ」


夏樹の言葉に、ミリアはさらに顔を赤くする。

「えへへ、ありがと」


ミリアは嬉しさを隠しきれず笑う。その表情は、まるで向日葵のように輝いていた。


「よしっ!!行こう!!」

夏樹はミリアに微笑みかける。

「うん!!」


ミリアは満面の笑みを浮かべながら答え、夏樹の隣に立つ。


「あの、夏樹……」

エリスがおずおずと話し掛ける。

「ん?」

「いえ、なんでもないです……」

エリスは少し寂しげに俯く。

「エリス、どうかした?」

「うぅん、何でもありません」

エリスは慌てて首を振るが、夏樹は気になった様子だった。


「何かあるなら言って欲しいんだけど……」

「本当に大丈夫ですよ」


「そう?それじゃあ、いいけど……」

夏樹は納得がいかないような表情だったが、これ以上聞いても無駄だと思い、話を切り上げることにした。


「それじゃあ、行くよ」

夏樹は先頭に立ち、歩き出す。後ろからは二人の足音が聞こえる。


「ねぇ、夏樹……」

「ん?」

「これからどこに行くの?」

「そうだね……とりあえず、次の町かな?」

「えっ?」

「えぇ~!?」

夏樹の言葉に、ミリアとセリアは驚く。


「いや、だってさ……俺たちは今、無一文なんだぜ?それに、食料や水だってほとんど無いんだ。このままだと、近いうちに飢え死にするよ……」


夏樹の言葉に、ミリアとセリアは黙り込む。

「でも、夏樹……私達には魔法があるじゃないですか」


「それは、そうなんだけど……」

夏樹は困ったように頭を掻く。


「ねぇ、夏樹……」

夏樹たちの会話を聞いて、ミリアは不安げな表情を浮かべる。


「どうした?」

「もし、私たちの力が使えなくなったら?」

「えっ?」

「例えば、私が炎の矢を出すことができなくなって、夏樹の剣しか武器がなくなったら、夏樹は戦えるの?」

「……」

夏樹は何も言えなかった。


夏樹は、今まで当たり前のように魔法を使ってきた。それが急にできなくなったとしたら、自分は果たして戦うことができるだろうか? 夏樹は想像する。


今までは、どんな状況になっても、何とかなるだろうと思っていた。だが、今は違う。

今の自分にとって、戦うことは生きることと同義である。

もしも、戦う手段がなくなってしまったら……。


その時は、俺に生きる価値はあるのだろうか? 夏樹は自問自答するが、答えは出なかった。


「ごめん、ミリア。変なこと聞いたよね」

ミリアが暗い顔をしていることに気づき、夏樹は慌てて謝る。


「ううん、いいの……」

ミリアは暗い顔で首を振る。

「ミリア……」

夏樹はミリアの手を握る。

「な、夏樹!?」

「俺は、お前と一緒にいる。だから、そんな悲しいことを言わないでくれ……」


夏樹は真剣な眼差しを向ける。その視線に、ミリアも思わずドキッとする。

「……ありがとう」


ミリアは夏樹の顔を見つめながら呟く。

「夏樹ってさ……やっぱり優しいね」

「えっ?」

「ううん、何でもない」

ミリアは首を振った後、微笑む。

「ねぇ、夏樹」

「ん?」

「私、あなたが大好きだよ」

ミリアの言葉に夏樹は微笑み返す。

「俺もだ」

そう言って、夏樹は手を差し出す。

「行こう!!」

「うん!!」

夏樹の言葉に、ミリアは笑顔を浮かべて答える。


「ねぇ、夏樹……」

エリスが夏樹を呼ぶ。振り返ると彼女は優しく微笑んでいた。

「なんだよ?」

「私は、あなたが勇者だと思うわ」

「えっ?」

夏樹は驚き、彼女の言葉の意味を考える。

「俺が?」

「えぇ」

「どうして?」

「だって、あなたは私のヒーローですもの」

「……」


夏樹はその言葉を噛み締める。

確かに、自分は彼女に救われてきた。

夏樹は思う。


自分は、彼女のためなら何だってできると。

例え、どんな困難があっても彼女となら乗り越えられると……。

「ありがとう……」

夏樹は、静かに呟いた。

「何か言った?」

「いや、何も……」

夏樹は首を横に振る。


「ねぇ、夏樹……」

今度は、エリスが夏樹の名を呼んだ。

「ん?」

「私も……あなたのことが好きよ」

「えっ!?」

「もちろん、友達としても好きだけど……」

「……」

夏樹は顔を赤らめる。

「でもね、それだけじゃないよ……」

「……」

「夏樹のこと、一人の男性として見ているの……」


「えっ?」

夏樹は驚く。

「私じゃダメかな?」

エリスは不安げな表情を浮かべていた。

「……」

夏樹は何も言えなかった。

今まで、こんな気持ちになったことは初めてだ。

夏樹は自分の心臓の鼓動が激しくなるのを感じる。


エリスのことが好きだ。

それは間違いない。

だが、俺は彼女を幸せにすることができるだろうか? 夏樹は考える。


今の自分には、エリスを愛する資格があるのだろうか? 俺は、ただ単にエリスと一緒にいたいという自分の欲望を満たすために、彼女と付き合っているだけではないだろうか? それに、俺がいなくなったら、彼女はどうするのだろう。夏樹には、答えが出せなかった。


「……夏樹?」

エリスが心配そうな顔で見つめている。

「あぁ、ごめん……」

夏樹は首を振る。

「大丈夫、俺もお前を愛してる」

夏樹の言葉に、エリスは笑顔を浮かべる。

「よかった……」

夏樹は彼女の笑顔を見て、決意を固める。

「行こう!!」

「うん!!」

夏樹の言葉に、ミリアは笑顔で答える。

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